農業利益創造研究所

作目

2022年の農業所得は向上した?<果樹作経営>の特徴を探る

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2020年から新型コロナウイルスが流行して経済が乱れました。それがある程度あたり前の状況となった2022年、日本の農家経営はどのような動向だったのでしょうか。

この3年間の会計データを比較するコラムのシリーズは、普通作、野菜作に続き今回は果樹作です。農業簿記ユーザーの中で、果樹作農家1,953件のデータを分析し、果樹作経営では農業所得が向上したのかどうか探ってみたいと思います。

3年間の推移をみる

前述の通り、この3年間は、コロナ禍や、国際情勢の変化、物価の高騰、円安など、様々な影響により激動の時期でした。このような外部環境の中で、果樹作農家はどのような変化があったのでしょうか。

この3年間の果樹作経営の全国平均金額を整理すると、以下の表のような結果となりました。

果樹作経営の3年間の全国平均
2020年2021年2022年
収入金額14,42014,92614,887
果樹の販売額12,15712,63912,801
雑収入1,1721,3291,083
経営費 計9,4039,5709,700
世帯農業所得5,0125,3575,187
世帯農業所得率34.8%35.9%34.8%

※金額の単位は千円。

数字だけではわかりにくいので、2020年から2021年までの増減金額と、2021年から2022年までの増減金額をグラフにしました。

canvas not supported …

2021年は2020年と比較して販売額が伸びました。果樹は天候の良し悪しや台風などの災害で大きく収穫量が変わりますので、何らかの要因があったのだと思われます。

例えば、奈良県の柿農家を調べてみましたが、2020年の販売金額平均は 2,700万円、2021年は 3,400万円、2022年は 2,600万円とアップダウンの差が大きいです。

2022年は2021年と比べてさらに販売額が増えています。2022年の果樹農家を都道府県別に集計すると、宮崎県のリンゴ農家、新潟県の西洋梨農家、愛知県のイチジク農家、の販売額が特に増えていました。

2021年はコロナ禍の真っ最中であり、経営継続補助金などの支援を受けて、雑収入が増えましたが、2022年になると雑収入は減少しています。 2022年を総合的に分析すると、収入金額は変化がなかったが物価高騰の影響により経営費が上がり、世帯農業所得はわずかに減少しました。

2022年の物価高騰による経費増加の内訳を探ってみましょう。下のグラフのようになりました。

canvas not supported …

肥料費は若干の増加に留まりましたが、動力光熱費が大きく増加しています。また、荷造運賃手数料を見ると2021年にぐっと増加していて、2022年はさらに増加していますので、経営費増加の大きな要因になっています。

おそらく果実の貯蔵のための手数料や、運送料の増加が影響したのだと思われます。コロナ禍で通販などによる消費量が増えたということもあるのかもしれません。

収入金額規模別の経営内容をみる

2022年の果樹作農家を収入金額規模別に、世帯農業所得(控除前所得+専従者給与)、雑収入(補助金等)、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)の3つの項目をグラフにしました。

canvas not supported …

果樹作経営はもともと他の営農類型よりも所得額や所得率が高い傾向なのですが、経営規模が大きくなるごとに高くなり、所得2,000万円の農家がいることには驚きです。

また、収入金額5,000~7,000万円の階層の規模が一番所得額も所得率も高く、効率的な経営規模であることがわかります。

しかし、7,000万円以上の超大規模経営は逆に落ち込んでいます。5,000~7,000万の階層の農家と7,000~1億円の階層の農家の費用構造の違いを調べると、雇人費と荷造運賃手数料が異常に高くなっていました。7,000万~1億円の6経営体を深掘りすると、リンゴや柑橘類を生産している農家でした。

この6経営体は2021年の収入金額と比べて1農家平均1,000万円ほど減少していす。 なぜこの大規模農家の販売金額が減ったのか、異常気象や災害によるものなのかどうか、そこまでは調べられませんでしたが、果樹作経営は年により大きな変動があるというリスクを覚悟しなければなりません。

高所得率経営の特徴

果樹作経営の費用構造を調べてみると、経営費合計の中で一番ウエイトが高い費用は荷造運賃手数料で24%を占めています。次に減価償却費と雇人費が10%です。 高所得率の経営はどのようなコスト構造になっているのか、世帯農業所得率が10~15%の低所得率農家と、45~50%の高所得率農家の経費科目を比較してみました。

収入金額を100とした各費用の比率で比較したところ、下のグラフのようになりました。 高所得率農家は、全体的にあらゆる費用でコストを下げていますが、特に低いのは雇人費と減価償却費です。

それから、意外と荷造運賃手数料には差が無いということがわかりました。

canvas not supported …

果樹作経営の場合、経費合計の中で一番ウエイトが高い荷造運賃手数料は、経営努力であまり変えることができない費用であり、雇人費と減価償却費を工夫した経営が所得率が高くなっている、という結論になります。

まとめ

農林水産省から2023年4月に、「アフターコロナを見据えた野菜・果物の消費動向調査結果」が発表されました。

消費者へのアンケート結果から、「健康増進・免疫力・抵抗力の強化」を理由に野菜消費が増加したと回答した人が多く、また、最も摂取が増えた野菜は「みかん」だそうです。コロナウイルスに対する抵抗力を高めるためビタミンを摂取しようという意識の表れかもしれません。

また先の分析で、果樹作経営は荷造運賃手数料の費用が高額であるとわかりました。運賃といえば、「燃料費高騰の問題」と「物流の2024年問題」により、今後さらに運賃が高くなることが予想されます。

「物流の2024年問題」とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限されることにより発生する諸問題のことです。 果樹は特定の有名産地で生産され、全国にトラック輸送されますので、果樹作農家やJAや卸売業者等も含めて今後の対策を考えていかなければなりません。

関連リンク

農林水産省「アフターコロナを見据えた野菜・果物の消費動向
全日本トラック協会「知っていますか?物流の2024年問題

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、果樹作経営を対象にしていますが、他の作目と比較することで、その特徴が際立ちます。収入金額規模別の経営内容をみると、普通作経営と果樹作経営は共に、規模が大きくなるごとに世帯農業所得が増加しています。

普通作経営では、どの収入金額規模でも雑収入が世帯農業所得を上回っていますが、果樹作経営では、どの収入金額規模でも世帯農業所得が雑収入を上回っています。

野菜作経営でも、どの収入金額規模でも、世帯農業所得が雑収入を上回っていますが、収入金額7,000万円~1億円を除いて、野菜作経営と比較しても果樹作経営の雑収入への依存度は格段に低い傾向が見られます。

また、果樹作経営では収入金額規模が5,000万円~7,000万円、野菜作経営では3,000~5,000万円から、普通作経営では7,000万円~1億円から、それぞれ所得率の低下傾向が確認できます。果樹作経営は、普通作経営や野菜作経営に比較すると、雑収入への依存度が小さく、所得率が最大になる収入金額規模は両作目の中間という特徴がみられます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。