
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
皆さんは現在の日本の食料自給率を知っていますか?農林水産省の資料では、2022年はカロリーベースで38%、生産額ベースで58%という低い率になっています。
国の目標は、2030年までに、カロリーベースで45%、生産額ベースで75%にするとのことですが、容易ではない数字に思えます。
農林水産省にて、日本の農地をフル活用して得られた食料だけ、つまり日本の食料自給率が100%になった場合の食事がどのようになるかを考えたそうです。
それは、ご飯、サツマイモ、ジャガイモが主食で、おかずが野菜炒めや焼き魚、たまに牛乳や卵や肉が食べられる、というメニューだそうです。
ということは、もし食料の輸入がストップしたら、サツマイモとジャガイモ農家にはもっと頑張ってもらわなければなりません。
農業簿記ユーザーの中で、サツマイモとジャガイモの販売金額が、経営全体の中で70%以上である農家の経営を分析してみました。
イモ類は昔から重要な食料
サツマイモは、根が肥大化したもので、ジャガイモは茎が肥大化したものだそうです。お米をお腹いっぱい食べられるようになったのは戦後であり、それまではサツマイモとジャガイモは重要な基礎食料でした。
農林水産省「作物統計」によると、サツマイモの収穫量トップは鹿児島県、2位は茨城県、3位は千葉県です。ジャガイモは、北海道がダントツのトップ(全国の約78.8%)、2位は鹿児島県とのことです。
2つのイモ栽培農家の経営内容を下の表のように分析してみました。
サツマイモ 経営体数:45件 | ジャガイモ 経営体数:29件 |
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収入金額 | 23,630 | 31,863 |
世帯農業所得 | 9,024 | 9,204 |
世帯農業所得率 | 38.2% | 28.9% |
建物・農機具資産 | 7,959 | 10,212 |
借入金 | 3,347 | 5,165 |
※金額の単位は千円。
収入金額による経営規模はジャガイモの方が大きく(北海道の大規模経営が多いため)なっていますが、世帯農業所得(農業所得+専従者給与)はどちらも900万円という高所得額です。
世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)は、サツマイモの方が38.2%と高くなっていますので、サツマイモ経営の方が効率的です。固定資産や借入金はジャガイモ経営の方が高いので、収益性や安全性の両方で優れているのはサツマイモ経営と言えます。
サツマイモは、種苗費、肥料費、荷造運賃手数料が低くなっていますが、農薬費と雇人費が高いです。ジャガイモは、種苗費と肥料費が高いですが雇人費は少ないです。
ジャガイモは種苗会社から病気の無い種イモを購入しなければなりませんが、サツマイモは農家が自分で種から苗をつくって移植するそうなので、種苗費に違いが出ます。サツマイモは種苗費や肥料費が低いことから経営効率が高いのだと思われます。
サツマイモ経営の分析
サツマイモ農家の、世帯農業所得率の上位20%の経営と、下位20%の経営を比較すると、以下の表のようになりました。
所得率上位20% | 所得率下位20% | |
---|---|---|
収入金額 | 26,276 | 12,577 |
世帯農業所得 | 13,934 | 2,177 |
世帯農業所得率 | 53.0% | 17.3% |
建物・農機具資産 | 5,386 | 5,019 |
借入金 | 1,615 | 2,258 |
※金額の単位は千円。
所得率上位20% | 所得率下位20% | |
---|---|---|
種苗費 | 0.8 | 2.4 |
肥料費 | 3.3 | 7.5 |
農薬衛生費 | 4.8 | 13.1 |
減価償却費 | 5.5 | 14.2 |
荷造運賃手数料 | 11.9 | 7.2 |
雇人費 | 1.3 | 5.6 |
上位農家の所得1,400万円と所得率53%はすばらしいです。収入金額を100とした主な費用科目の比較を見ても、まんべんなく費用が低く抑えられていることがわかります。
次に、サツマイモの有名産地を比較してみました。データ数が少ないので、一概に決めつけられませんが、所得額が大きいのは千葉県、所得率は千葉県と徳島県です。
生産量No.1の鹿児島県は、肥料費と農薬費と雇人費が他県より多いので、所得率が下がっています。この結果によれば、経営力No.1は千葉県に軍配が上がりました。
茨城県 経営体数:5 | 千葉県 経営体数:17 | 徳島県 経営体数:6 | 鹿児島県 経営体数:12 |
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---|---|---|---|---|
収入金額 | 29,516 | 28,423 | 19,987 | 21,552 |
世帯農業所得 | 10,090 | 11,999 | 8,436 | 7,177 |
世帯農業所得率 | 34.2% | 42.2% | 42.2% | 33.3% |
※金額の単位は千円。
ジャガイモ経営の分析
ジャガイモ経営も同様に所得率上位、下位で比較しました。上位経営は、所得額1,000万円、所得率45%であり、りっぱな数字です。
収入金額を100とした主な費用の比率を見ると、全体的に費用が抑えられているのはわかりますが、肥料費だけは所得上位農家の方が高くなっています。肥料を多くした結果として、生産量が増えて所得率もアップしているのかもしれません。
所得率上位20% | 所得率下位20% | |
---|---|---|
収入金額 | 23,222 | 30,318 |
世帯農業所得 | 10,439 | 3,700 |
世帯農業所得率 | 45.0% | 12.2% |
建物・農機具資産 | 8,624 | 11,267 |
借入金 | 1,716 | 6,433 |
※金額の単位は千円。
次に、ジャガイモの有名産地を比較してみました。日本での生産量ダントツNo.1の北海道が所得額も所得率もすばらしい数字です。北海道は固定資産と借入金が高く、安全性に懸念も持たれるところではありますが、やはり全体的に見て経営力No.1は北海道ということになるでしょう。
北海道 経営体数:13 | 鹿児島 経営体数:13 |
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収入金額 | 48,587 | 17,191 |
世帯農業所得 | 14,739 | 4,264 |
世帯農業所得率 | 30.3% | 24.8% |
建物・農機具資産 | 13,583 | 5,314 |
借入金 | 6,156 | 3,567 |
※金額の単位は千円。
まとめ
この2つの作目は、野菜として食べる以外に、焼き芋、ポテトフライ、スイーツ、お菓子、など幅広い食べ物に活用されています。
また、農業情報学会による「農業イノベーション大賞2022」で大賞を受賞したサツマイモの農業法人「株式会社くしまアオイファーム」は、食べやすい小さな小芋を生産し、海外に輸出するというユニークな経営を行っているそうです。
万が一の食糧難の時はサツマイモとジャガイモに頼ることになるので、持続可能な経営を継続してもらいたいと思いますが、きっと、北海道や鹿児島県などの産地がしっかり生産していってくれることでしょう。
関連リンク
農林水産省「日本の食料自給率」
農林水産省「食料安全保障について」
農業情報学会「農業イノベーション大賞」
株式会社くしまアオイファーム
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、サツマイモとジャガイモを比較分析しています。両作物には、イモという作物としての共通点に加えて、食料自給率の向上に重要であるという共通点があります。
食料自給率というと、一般には、カロリーベースの自給率を意味しますが、人間が生きていくためには、カロリーだけでなく、各種ビタミンやタンパク質も重要になります。サツマイモとジャガイモは、カロリーだけでなく、各種ビタミンの面でも、重要な作物といえます。
こうした共通点があるサツマイモとジャガイモですが、所得率が上位20%と下位20%の農家では、費用構造に大きな違いがあります。両作物の「収入金額を100とした費用比率」を見ると、ジャガイモでは、所得率が上位20%の農家は、下位20%の農家よりも、肥料費の割合のみが大きくなっています。これは、ジャガイモでは肥培管理が収量や品質に影響し収入の向上につながっていることを示唆しています。
ジャガイモ農家の多くは、市場や原材料メーカーに出荷するため、優れた生産管理が高所得率の重要な要因となっていると思われます。
一方、サツマイモでは、所得率が上位20%の農家は、下位20%の農家よりも、荷造運賃手数料の割合のみが大きくなっています。これは、所得率が上位20%の農家は、自ら、遠方の取引先や小売店まで出荷していていることを示唆しています。最近は、国内に留まらず、海外でも、おやつや軽食としてサツマイモがブームになっており、マスコミでも取り上げられています。この点は、ジャガイモには見られない、マーケティング面からみたサツマイモという商品の大きな特徴になっていますので、このことが費用構造にも反映されている可能性があります。