農業利益創造研究所

インタビュー

本物志向×働き方改革で平均年齢35歳の農業法人が躍進「濁川生産組合」

2025年度に開かれた第55回日本農業賞において、個別経営の部大賞に、新潟市北区の「農事組合法人 濁川生産組合」が選ばれました。健全な財務体質や、若手スタッフの声を聞いた働き方改革、離農者からの水田を積極的に引き継いでいる点などが評価されました。

今回は、濁川生産組合の代表理事を務める田村雄太郎さんにお話を伺い、濁川生産組合の経営理念や、ほ場が大規模化していく中で行った効率化や働き方改革、これからの目標についてもお伺いいたしました。

お米とトマトの産地・濁川で生まれた生産組合

新潟県はコシヒカリの生まれた地でもあり、日本有数の米どころとして稲作が盛んです。そして新潟市北区にある濁川地域は、阿賀野川の恵みを受けた土壌と豊かな日照時間を活かした、県内有数のトマトの産地でもあります。この地域では、稲作農家が施設園芸に取り組み、昔から稲作とトマト栽培の複合経営を行ってきました。

今回、日本農業賞の大賞を受賞した濁川生産組合は、地域の農家が共同で農業を行うという目的のもと、平成元年に設立されました。組織の経営理念は「本物志向」で、良質な作物を届けること、自分たちの作ったものに自信を持つことを大切にしています。従業員は今年4月入社の方も含めて11名、役員が4名、パートが6~7名です。

現在のほ場は水田が94ha、ハウスが30棟で面積は4千坪です。コメの品種はコシヒカリが全体の6割、早生のゆきん子舞が2割、残りの2割は新之助やもち米などです。ハウス栽培はトマトが大半を占めていて、季節ごとに空いたハウスを利用して、すいか、メロン、とうもろこし、チンゲン菜なども小規模ながら栽培しています。

今回、インタビューにご対応いただいた代表理事の田村さんは40歳で、10年前に父親から代表理事を継ぎました。「ちょうどその頃、組織として世代交代の時期で、私に任せたいという話が出てきたのです。父が仕事を続けられなくなってから継ぐとノウハウを継承できませんから、30歳で交代して、それから10年間、父と二人三脚で組織を支えてきました」

米とトマトの出荷先は?

意外なことに、濁川生産組合の米の出荷先は、9割が飲食チェーンです。濁川生産組合側で精米して、宅配便などで店舗に直送しているそうです。この飲食チェーンとは立ち上げ当初からの付き合いで、お互い順調に規模を拡大し、濁川生産組合の生産量が増えた分、先方も需要が増えるという幸運な経緯を辿りました。

「米の値段は相場でやり取りしています。米の高騰が始まった当初は、長年のお付き合いですし、価格を据え置いていました。でも、今年はさすがに値段を上げてもらいましたね。うちでは農協や他の農家さんからも米を仕入れているので、相場に合わせる必要がありますから」

もう一本の主要作目であるトマトですが、出荷先は農協を通じた市場出荷が半分、残りの半分は生協、直売所、スーパー、ネット販売など多岐にわたっています。濁川地域のトマトは新潟県では単価が一番高く、地域全体で品質と味を下げないための栽培管理に取り組み、糖度も6度以上を目指しています。

「産地として高品質にこだわっているので、出荷時の選別には気を遣っています。濁川のトマトは生産量が少ないので県外に出ることはありません。だからこそ、量を増やすより質にこだわる戦略を選んでいます」

地域の水田を引き受けながら徐々に拡大

残念ながらこの濁川地域でも離農が続いており、トマト栽培だけを続けて稲作をやめてしまうケースもあるそうです。濁川生産組合はそのような水田を引き受けることで、急速にほ場を拡大してきました。その拡大するほ場を管理するため、田村さんたちは様々な工夫を行っています。

「濁川地域は都市部と農村部の境目に位置していて、区画整理の進んでいない地域のため田んぼが小さく、一区画10aの田んぼもあります。私たちは畔を無くして複数の田んぼを一つにまとめたり、周りの稲作農家と交渉して、合意の上でお互いの田んぼを入れ替えることで、ほ場が上手くまとまるように工夫しています」

規模拡大と同時に働き方改革に取り組む

濁川生産組合は採用にも力を入れました。農業大学校の新卒を中心に、平均して年に一人の採用を行い、徐々に人員を増やしていきました。

「私が入った頃に比べると、若い人たちの農業に対する意識も違うし、若い人が増えるにつれて、もっと働く環境を整えないと、と思うようになりました。他産業並みに環境を整備しないと、若い方は続かないという危機感がありました」

田村さんはまず就業規則の整備から始めます。専門家にも相談しながら、賃金体系や有休・産休の規定を着実に整えていきました。

「今はもう有給を取らないといけない時代でしょう。だから誰がどれくらい休んでいるか見える化して、休んでいない方には有給取ってね、って声をかけるようにしました。そうやって、有給を取っていいんだ、とわかったら、みんな積極的に休むようになりました。農業は忙しい時期と暇な時期の差が激しいので、ゆとりのある時期は休む余裕が十分にあります」

濁川生産組合では変形労働時間制を採用しています。農繁期の夏は7時半から17時まで、農閑期の冬は8時半から17時までの勤務体系です。勤務時間をずらせるフレックス制も導入しており、朝5時から働いて15時に帰る、昼休みを長くして夕方から働く、という働き方も可能です。

さらに5年前、田村さんは更衣室とシャワー室を作りました。夏場のハウス作業は汗だくになりますし、農薬散布などの汚れる仕事もあるので、この二つはスタッフからとても好評だそうです。

「うちには女性スタッフも在籍しているのに着替える場所がなかったため、それをなんとかしないと、という意識はありました。また、夏場のハウスは本当に暑くて、帰りがけに冷水を浴びている人もいたくらいなので(笑)、やっぱりなんとかしないと、という気持ちになったんです」

新卒を中心に採用していることもあり、濁川生産組合は平均年齢35歳で、農事組合法人としては非常に若い組織です。田村さんのご両親を除くと、田村さんよりも年上の従業員は一人だけだそうです。

「若い方は体力もあるし物覚えも早いので、こちらとしては助かります。ずっとここで働きたいという方もいますし、ここで勉強して五年後には実家の農家を継ぎたいとか、そういう希望を持っている方もいますね」

スマート農業も取り入れて効率化

日々の作業の効率化として、濁川生産組合では、クボタの営農管理システムKSASを導入しており、ほ場管理や日報作成に使用しています。このほ場でこの作業をした、という入力をそれぞれが行い、そのデータをすぐ見られる体制を整えることで、全体での進捗管理を行っています。

「田んぼはどこも同じような景色なので、若い方は作業するのがどこの田んぼかわからなくなってしまうんですよ。でも、このシステムでチェックしていれば、間違えずに済みます。私も時々「本当にこの田んぼだっけ?」と思ってしまうくらいですから(笑)」

また、8年ほど前に業務ソフトを導入することで、伝票発行や給与計算も手作業からデジタルに移行し、バックオフィス業務も効率化。現在では3人のパートさんが事務を担当しています。

健全な経営や水田を引き受けて拡大したこと、働き方改革への取り組みが評価され、冒頭の通りに濁川生産組合は日本農業賞の大賞を受賞しました。しかし、田村さんはこの点にも謙虚な姿勢を崩しません。

「私がすべてを始めたわけではなくて、先代や上の世代から引き継いだものを大切にして、その流れを汲んでいるだけです。もちろん農業はめまぐるしく変わるので、研修会に出たりと、情報収集には力を入れていますが、私に特別な力があるわけではなく、みんなで作り上げてきたものです」

新規就農者への一言

最後に、田村さんに新規就農者への一言をお聞きしました。

「新潟では、新規就農はかなり大変です。特に稲作や施設園芸では、機械・ハウスなどの初期投資が莫大な金額になりますから。ただし、やり方次第ではできないことはありません。とにかく、その地域になじむことが大切です。信用がなければ農地も借りられませんから。求人募集をすると、農業は他人と関わらなくてもいい、という考えの方から応募が来ることもあるのですが、それは間違いで、人と人とのコミュニケーションがとても大切な仕事です。独立したとしても、周りとのつながりは必要不可欠です」

全国各地で農業の高齢化が進む中、若い力を中心に着実な歩みを続ける濁川生産組合。代表理事の田村さんは、持続可能な経営という視点から働き方改革に取り組んできました。農業法人が就職先として積極的に選ばれる時代も、すぐそこまで来ているのかもしれません。

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 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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