
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
アスパラガスは、初期投資や年間作業量も比較的少なく、何より一株で数年収穫ができるので、経営的には根強い人気を持っているようです。また『品目ごとの経営特徴は? 15品目の野菜経営を比較分析する』で確認した通り、「少品目分散型」という非常に珍しい形態をとっている経営体が多いようです。どうしてそのような経営形態になっているのでしょうか?
今回はこのアスパラガスの経営を見てみます。
所得率に変化なし
原油高騰などで総じて厳しかった2022年の野菜経営ですが、アスパラ経営の所得率は前年から変化はありませんでした。但し、収入金額は減ったので所得金額は590千円の減少となりました。収入金額の減少は雑収入が一番大きく、およそコロナ関連の交付金が無くなったことが原因だと思われます。
こう見ると、不況期にも強い分散型経営の特徴が出ているとも言えます。
| 2022年 | 2021年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 116 | 110 | 6 |
| 収入金額合計 | 12,677 | 14,805 | -2,128 |
| うち販売金額 | 10,018 | 10,932 | -914 |
| うちアスパラガス | 7,257 | 7,698 | -441 |
| うち雑収入 | 2,582 | 3,784 | -1,202 |
| 農業経営費 | 9,220 | 10,757 | -1,537 |
| 世帯農業所得 | 3,457 | 4,047 | -590 |
| 世帯農業所得率 | 27.3% | 27.3% | 0.0% |
※金額の単位は千円。
上記はアスパラガスが第一主幹作物の経営体のデータです。『品目ごとの経営特徴は? 15品目の野菜経営を比較分析する』では、「野菜作経営」のうちのアスパラガス経営体の平均値なので、データが若干絞られ2021年の所得率は28.2%となった。
以下は主要生産費の比率(各費用÷収入金額合計×100 以下同様)です。前年と比較して、荷造運賃手数料と減価償却費が最も高いという構成は変わりませんが、荷造運賃手数料は増加幅も大きくなりました。
アスパラガスの主要産地は、北海道と九州に多いため大消費地までの輸送費が多くかかってしまうからかもしれません。そうであるならば、2022年の荷造運賃手数料の増加は、原油高騰の影響でさらに輸送費が増したということでしょう。
| 2022年 | 2021年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| ⑨種苗費 | 1.8 | 2.1 | -0.3 |
| ⑪肥料費 | 7.0 | 7.2 | -0.1 |
| ⑭農薬・衛生費 | 3.5 | 3.5 | -0.0 |
| ⑮諸材料費 | 4.3 | 3.3 | 0.9 |
| ⑯修繕費 | 3.7 | 4.0 | -0.3 |
| ⑰動力光熱費 | 4.5 | 3.8 | 0.7 |
| ⑳減価償却費 | 10.0 | 9.8 | 0.1 |
| ㉑荷造運賃手数料 | 13.7 | 12.0 | 1.7 |
| ㉒雇人費 | 7.3 | 7.8 | -0.4 |
| ㉔地代・賃借料 | 4.4 | 5.0 | -0.6 |
転作作物としてのアスパラガス
アスパラガス経営の第二品目で件数の多い品目は以下の通りです。
二番手品目としては圧倒的に主食米が多くなっていますが、販売金額としてはアスパラガスの販売高の四分の一程度と大きくなく、これだけでは分散型の経営にはなりません。
| 第二品目 | 件数 | 平均販売金額 |
|---|---|---|
| 主食米 | 34 | 1,901 |
| ブロッコリー | 6 | 1,229 |
| ネギ | 4 | 1,416 |
※金額の単位は千円。
次のデータは第二品目以下の品目です。
第二品目として最多の主食用米がここでも多くなっていますが、麦や大豆などの転作作物も確認されます。またブロッコリーやネギも交付金は出ませんが野菜の転作作物として各地で導入が進められている品目です。
上述したとおり、アスパラガス経営は少品目経営(平均3.4品目)との特徴がありますが、その内容はアスパラガス+主食用米+転作作物の組み合わせ、という構成でがっちり固まっている経営体が多いということなのでしょう。アスパラガス自体も転作作物として導入された地域も多いようですが、徐々に栽培面積が拡大されていき、現在は普通作に並ぶか、それをしのぐ主力品目になったということなのかもしれません。
| 第二品目以下 | 件数 | 平均販売金額 |
|---|---|---|
| 主食米 | 43 | 1,705 |
| 麦 | 13 | 1,422 |
| ブロッコリー | 12 | 1,417 |
| 大豆 | 9 | 971 |
| ネギ | 6 | 1,035 |
※金額の単位は千円。
複合経営の方が経営成績は良い
以下はアスパラガス単作の経営概要です。複合経営の場合、アスパラガスの販売高は7,257千円(2022年)だったので、単作の方がアスパラガスの販売金額は大きくなっています。
しかし2022年と2021年共に、収入金額合計だけでなく所得金額および所得率も複合経営と比べると低くなっています。したがってこのデータを見る限りでは、アスパラガス経営は単作よりも普通作などと組み合わせるほうが良いと言えそうです。
| 2022年 | 2021年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 22 | 21 | 1 |
| 収入金額合計 | 9,372 | 9,837 | -465 |
| うち販売金額 | 8,116 | 7,938 | 178 |
| うち雑収入 | 1,246 | 1,897 | -651 |
| 農業経営費 | 7,115 | 7,381 | -266 |
| 世帯農業所得 | 2,257 | 2,456 | -199 |
| 世帯農業所得率 | 24.1% | 25.0% | -0.9% |
※金額の単位は千円。
単作経営の費用の構成ですが、荷造運賃手数料の比率が複合経営の場合と比べて非常に大きくなっています。荷造運賃手数料の比率は複合経営でも高いですが、単作経営ではその傾向がさらに強くなっているということです。上述した通り、複合経営の2番手以下の品目で最も多い普通作は荷造運賃手数料が比較的少ないので、単作になるとその割合が高くなるということでしょう。
| 2022年 | 2021年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| ⑨種苗費 | 0.2 | 0.2 | 0.0 |
| ⑪肥料費 | 7.1 | 7.4 | -0.2 |
| ⑭農薬・衛生費 | 2.9 | 2.5 | 0.4 |
| ⑮諸材料費 | 3.0 | 1.7 | 1.3 |
| ⑯修繕費 | 1.6 | 3.5 | -1.9 |
| ⑰動力光熱費 | 3.3 | 2.9 | 0.4 |
| ⑳減価償却費 | 12.0 | 10.5 | 1.5 |
| ㉑荷造運賃手数料 | 24.3 | 21.6 | 2.7 |
| ㉒雇人費 | 7.8 | 8.7 | -0.9 |
| ㉔地代・賃借料 | 3.1 | 2.9 | 0.2 |
経営の落とし穴は多くの作物で共通
以下はアスパラガス経営の所得率上位20%と下位20%の経営概要の比較です。収入金額合計の5,736千円の差の内訳は、アスパラガスで2,583千円、第二品目以下で1,955千円、雑収入で1,240千円となります。
上位グループは、第二品目以下(多くは普通作)の販売額の割合が若干多く、それが経営所得安定対策等の雑収入の多さにも繋がったのかもしれません。
| 所得率 上位20% | 所得率 下位20% | 差 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 23 | 23 | 0 |
| 収入金額合計 | 15,590 | 9,854 | 5,736 |
| うち販売金額 | 11,665 | 7,127 | 4,538 |
| うちアスパラガス | 7,701 | 5,118 | 2,583 |
| アスパラガス比率 | 49.4 | 51.9 | -2.5 |
| うち雑収入 | 3,869 | 2,629 | 1,240 |
| 農業経営費 | 8,741 | 9,208 | -467 |
| 世帯農業所得 | 6,849 | 646 | 6,203 |
| 世帯農業所得率 | 43.9% | 6.6% | 0.4 |
※金額の単位は千円。
費用の収入金額合計との比率は以下の通りです。
所得率下位のグループでは、ほとんどの主要生産費の割合が高くなっています。このような場合、およそ費用が多いというよりは、収益が少ないことが問題と言えます。アスパラガス経営の所得率下位のグループは、技術力(単収)や販売力(単価)に問題があるということです。
費用の中で最も大きな差があるのは雇人費ですが、下位グループは0.6人ほど専従者が少なく、それを埋めるための608千円の支出であれば、逆に少なく抑えていると考えられなくもありません。
雇人費より問題なのは、減価償却費と地代・賃借料の多さです。およそ低所得率のグループは、設備投資や作付面積が過大なのでしょう。技術力が低いにもかかわらず、経営面積の確保や投資が先行してしまっているだと思われます。
しかしこれらの傾向は、実はアスパラガスの低所得率の経営に限った話ではなく、どの経営品目にもみられる傾向です。つまりこれは、農業経営共通の“落とし穴”ということでしょう。
| 所得率 上位20% | 所得率 下位20% | 差 | |
|---|---|---|---|
| ⑨種苗費 | 1.7 | 2.1 | -0.5 |
| ⑪肥料費 | 5.7 | 9.6 | -3.9 |
| ⑭農薬・衛生費 | 2.7 | 4.5 | -1.8 |
| ⑮諸材料費 | 3.4 | 5.1 | -1.7 |
| ⑯修繕費 | 3.5 | 4.3 | -0.8 |
| ⑰動力光熱費 | 3.8 | 7.7 | -3.9 |
| ⑳減価償却費 | 7.1 | 13.1 | -6.0 |
| ㉑荷造運賃手数料 | 10.3 | 9.9 | 0.4 |
| ㉒雇人費 | 3.8 | 12.2 | -8.4 |
| ㉔地代・賃借料 | 3.5 | 10.0 | -6.5 |
| 専従者数 | 1.1 | 0.5 | 0.6 |
| 専従者給与総額平均 | 2,407 | 548 | 1,859 |
| 専給一人当たり | 1,972 | 1,059 | 913 |
| 雇人費 | 598 | 1,206 | -608 |
※金額の単位は千円。
主要産地別の経営概要
最後に各地の主要産地の経営データを見てみます。まず、収入規模は北海道が圧倒的に大きいのですが、アスパラガスの販売比率は非常に低くなっており、極端な分散型経営となっています。
これに対し栃木県はアスパラガスの販売比率が集中型といってよいぐらい高く、所得率は最も高くなりました。
アスパラガスの経営は、単作よりは複合経営の方が所得率は高いと上述しましたが、アスパラガス販売高の比率が低すぎるのも好ましくないようです。ここら辺は地域性や費用との兼ね合いなど、様々な係数による微妙なバランスがあるのでしょう。経営は難しいものです(笑)。
| 北海道 | 栃木県 | 熊本県 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 12 | 13 | 11 |
| 収入金額合計 | 32,281 | 16,529 | 11,792 |
| うち販売金額 | 22,486 | 13,766 | 9,604 |
| うちアスパラガス | 9,311 | 11,730 | 7,768 |
| アスパラガス比率 | 28.8% | 71.0% | 65.9% |
| うち雑収入 | 9,688 | 2,691 | 2,107 |
| 農業経営費 | 23,702 | 11,266 | 8,622 |
| 世帯農業所得 | 8,579 | 5,263 | 3,170 |
| 世帯農業所得率 | 26.6% | 31.8% | 26.9% |
※金額の単位は千円。
以上、少品目分散型という珍しい形態に分類されたアスパラガス経営を見てきました。アスパラガスは転作向けの野菜として、普通作との組み合わせで経営されているパターンが多いことがわかりました。
この先さらに米の需要が落ちてくると、アスパラガスは転作野菜としてもっと注目されてくるかもしれません。
関連リンク
農業利益創造研究所「品目ごとの経営特徴は? 15品目の野菜経営を比較分析する」
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、アスパラガスについて、いろいろと興味あることが明らかになりました。 例えば、(1)アスパラガス+主食用米+転作作物の組み合わせが多い、(2)アスパラガス経営は単作よりも普通作などと組み合わせるほうが良い、といった点です。
これは、水稲経営の転作作物としてアスパラガスの人気があることを示してます。水稲との作業競合が少なく、余裕のある育苗ハウス等の施設を活用できるといった面もありそうです。
農業経営では、単作経営と複合経営のメリットやデメリットが古くから議論されてきました。一般的には、気候風土や経営条件によって、単作経営と複合経営のどちらが経営的に有利かは変化します。今回の分析では、現状では、アスパラガスは複合経営の方が望ましいようです。
