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作目

日本一はどこ? 儲かるイチゴ経営の都道府県合戦

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農林水産省の統計資料によると、施設野菜の中で10a当りの所得額が多いのはミニトマトが一番で、続く2位がイチゴです。また、イチゴの生産は初年度から売上が見込め、需要が高くなるクリスマスシーズンに収穫を合わせた促成栽培で単価を上げることもでき、販路も多くあるため新規就農者にオススメの品目と言われています。

そのように注目されているイチゴはどれくらい儲かるのか、農業簿記ユーザーのイチゴ農家412件の経営実態や、有名イチゴ産地の経営の特徴を探ってみたいと思います。

イチゴ農家の特徴

イチゴといえば栃木県が産地として有名ですが、栃木県農業試験場からイチゴ新規参入マニュアルが公開されており、イチゴ農家からのヒアリングをもとにした経営モデルが示されています。

そのモデルとは、具体的には以下のような条件です。

夫婦2人でいちご栽培20a(パイプハウス8棟)
手持ちの資金600万円
設備投資額1,280万円

※農地は借地で、借地料は10a当り2万円

このモデルでは、初年目は十分な収入が得られませんが、3年目には以下のような経営になるとシミュレーションされていました。

3年目の経営シミュレーション
収入金額774万円
経費460万円
所得314万円

当初は経営的に厳しいので、当初の自己資金の準備や、単収アップの努力が必要だとも記されています。

実るのに何年もかかる果樹と違ってイチゴは早期から収穫ができますが、就農したてが厳しいことは事実のようです。では、ベテランのイチゴ農家が多いであろう農業簿記ユーザーの経営はどうなっているのでしょう。

イチゴ農家平均と野菜農家平均の比較、および収入金額3,000万円以上の大規模イチゴ農家の経営状況をグラフにしてみました。

イチゴ農家平均の収入金額は1,800万円、世帯農業所得(控除前所得+専従者給与)は652万円であり、全国の野菜農家平均とさほど変わりはありません。

しかし、世帯農業所得率(世帯農所得÷収入金額)は34.6%と野菜農家の平均より高く、少ない経費で高い売上をあげている効率の良い経営であることがわかります。また、収入金額が6,000万円くらいの大規模経営では、所得2,000万円という夢のような高所得経営となっています。

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次に、イチゴ農家の主な費用構成は以下のようになっています(参考として所得と専従者給与を含めています)。イチゴが傷まないような品質保持の梱包資材や直接販売が多いことにより荷造運賃手数料や諸材料費が多く、そしてハウスの光熱費や雇人費が多くなっていることがわかります。

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イチゴの産地による特徴

農林水産省の作況調査(野菜)によると、イチゴの収穫量1位は栃木県、2位は福岡県、3位は熊本県であり、3県あわせて、国内生産量の約3分の1を生産しています。

栃木県の品種はなんといっても「とちおとめ」ですが、2014年頃から高級品種「スカイベリー」、2019年頃から「とちあいか」も生産しています。福岡県は「あまおう」、熊本県は「ひのしずく」が有名です。

栃木県福岡県熊本県
作付面積509ha428ha298ha
収穫量24,400t16,600t12,100t

イチゴ農家平均と3つの県の経営の特徴を整理してみました。収入金額は2,300万円の栃木県がトップ、世帯農業所得額も1位、所得率も37.4%の1位であり、さすがいちご王国栃木県です。

他に特徴的なこととして、減価償却費が高いのは福岡県、荷造運賃手数料が高いのは熊本県です。おそらく福岡県はハウスなどの施設栽培が盛んなのだと思われますし、熊本県は、ブランドを広めるために品質保持の容器に入れ、遠距離の消費地に出荷しているのかもしれません。

イチゴ農家平均栃木県福岡県熊本県
収入金額18,82323,17917,33122,877
世帯農業所得6,5208,6635,2366,846
世帯農業所得率34.6%37.4%30.2%29.9%
減価償却費1,5951,8101,6581,448
 収入金額に対する比率8.5%7.8%9.6%6.3%
荷造運賃手数料2,1722,5732,3974,095
 収入金額に対する比率11.5%11.1%13.8%17.9%

※金額の単位は千円

産地別に損益分岐点分析してみる

イチゴは施設栽培が多く、気候に大きく左右されないので、工業製品的な生産に近いのではないかと思います。こういった生産での分析手法に、損益分岐点分析というものがあります。

これは、経費を変動費(売上が増えれば経費も増えるもの)と、固定費(売上の増減とは関係ない一定額の経費)に分解して、利益がトントンになる売上額を損益分岐点売上として計算し、その金額と現在の自分の経営の売上額とを比較して経営の安全性を見るという方法です。

ちなみに、イチゴ栽培においての変動費・固定費は、以下のようになります。

変動費: 種苗費、肥料費、農薬費、動力光熱費、雇人費、荷造運賃手数料
固定費: 農具費、修繕費、減価償却費、地代賃借料、その他雑費

産地別にイチゴ農家の経営を損益分岐点分析してみました。

イチゴ農家平均栃木県福岡県熊本県
売上高16,49820,37214,80719,958
変動費7,6579,4067,14611,192
固定費4,6625,1324,9425,010
変動費率46%46%48%56%
固定費率28%25%33%25%
損益分岐点売上高8,6999,5349,55111,406
安全余裕率(%)=高いほど良い47%53%35%43%

※損益分岐点売上高=固定費÷((売上高-変動費)÷売上高)
※金額の単位は千円

変動費率が多いのは熊本県、固定費率が多いのは福岡県となっていますが、これは前述した減価償却費と荷造運賃手数料が多いためだと思います。

損益トントンとなる損益分岐点売上高と実際の売上高を比べた安全余裕率(高いほど良い)は、栃木県が53%と一番高く、逆に他の2県は福岡県35%、熊本県43%と意外にも平均より低くなっています

福岡県は固定費が高いので売上をたくさん上げないといけませんし、熊本県は売上を上げようとすると変動費も比例して上がるので、効率の悪い経営となっています。

最近の資材費や燃料費が高騰している状況からすると、変動費率の大きい熊本県は少しリスクが高いのではないかと思われます。

まとめ

イチゴは、収入金額5,700万円ほどの経営なら所得2,000万円が期待できる高収益作目であるとわかりました。

そして、産地ブランド化により高単価が可能で、いちご狩りによる観光農園、スイーツの材料としての販売など、多様性に優れていますし、栽培方法も地域ごとに確立されているので、新規就農者によるイチゴ作付けの選択は増えていくことでしょう。

近年では香港、台湾、シンガポールにも輸出が増えているようですので、どんどんイチゴを輸出して日本農業の活性化をけん引していってほしいです。

関連リンク

栃木県農業試験場「イチゴ新規参入マニュアル
農林水産省「作況調査(野菜)
農業利益創造研究所「みんなが大好きな「いちご」は、儲かる優良農産物です!
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南石教授のコメント

今回の分析では、実際の売上高は、栃木県2,037.2万円、福岡県1,480.7万、熊本県1,995.8万となっています。売上高が最大の栃木は最低の福岡の1.38倍になります。損益分岐点売上高は、栃木県953.4万円、福岡県955.1万円、熊本県1,140.6万円となっています。損益分岐点売上高が最大の熊本県は最低の栃木県の1.20倍であり、売上高よりも最高最低の差は小さくなっています。

特に注目されるのは、売上高が最大の栃木県の損益分岐点売上高が、売上高が少ない福岡県や熊本県よりも小さい点です。損益分岐点売上高を超えて売上高が伸びれば、その分所得が増加しますので、栃木県のイチゴ農家の所得が高い理由がここにあります。

栃木県の場合、実際の売上高は、損益分岐点売上高の2.14倍(=2,037.2万円÷953.4万円)あります。同様に計算すると、福岡県は1.55倍、熊本県1.75倍となります。

施設や労働力の制約もあり、売上高の増加には様々な制約がありますが、この比率が高いほど所得が増加する傾向があります。

なお、安全余裕率は、実際の売上高と損益分岐点売上高の差を実際の売上高で割って算出していますので、上述の比率の値は異なりますが、同様の傾向を読みとることができます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。