
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2024年2月に発表された総務省の家計調査による年間一世帯当たりの支出額日本一が毎年話題になっています。餃子は、宮崎市と宇都宮市を上回り浜松市が日本一になり、ラーメンは前回新潟市に一位を奪われた山形市が奪還しました。
総務省のサイトには、品目別支出額の市ランキングがありますので、見ているととてもおもしろいです。
今回は、家計調査の結果から農産物の支出額の推移を確認し、野菜の消費が高い地域を探して分析してみたいと思います。
食料品の支出額推移
まず、家計調査のデータをもとに食料品の2022年と2023年の一世帯当り年間支出額を以下の表のように比較しました。
まず気づくのは、2023年はほとんどの食料の支出額が上がっている点です。まさに物価高騰や異常気象による値上がりの影響だと思われます。
表には書いてありませんが、購入数量はほとんどの食料品が減っているのです。(購入数量が増えたのは、サツマイモ、ジャガイモ、タマネギ、レンコン、リンゴだけでした)
それから、米よりパンを多く購入していますが、パンの小麦はほとんど輸入しているので値上がりが大きくなっています。
野菜と果物が3品目ありますが、これは支出額が高い品目トップ3です。野菜はトマト、タマネギ、キュウリで、これらを多く購入しているのは理解できます。納得のラインナップです。
しかし、果物はどうでしょう、果樹生産量が一番高いものはミカンやリンゴなのですが、最も購入している国民的フルーツは実はバナナだったのです。
バナナは海外からの輸入果物全体の約6割を占め、バナナ自体としては99.9%を輸入しているそうです。バナナが日本で生産できれば自給率が少し上がるのですが、熱帯に適した作目のため、現状では日本での大規模生産 は難しいようです。
| 2022年 | 2023年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 食料 | 982,661 | 1,038,653 | 55,992 |
| 米 | 19,825 | 20,397 | 572 |
| パン | 32,497 | 33,874 | 1,377 |
| 麺類 | 20,112 | 20,672 | 560 |
| 生鮮野菜 | 70,843 | 71,517 | 674 |
| トマト | 7,919 | 7,952 | 33 |
| タマネギ | 4,518 | 3,704 | -814 |
| キュウリ | 3,232 | 3,351 | 119 |
| 生鮮果物 | 36,445 | 37,696 | 1,251 |
| バナナ | 5,354 | 5,829 | 475 |
| リンゴ | 4,569 | 4,672 | 103 |
| ミカン | 4,094 | 4,386 | 292 |
※金額の単位は千円。
※野菜と果物は、支出額の高い品目上位3つを選んだ。
野菜の支出額が多い市は
ここで上記の表にあるトップ3の野菜と果物の支出額日本一の市はどこなのか調べてみました。リンゴは青森市、バナナは京都市です。トマトは千葉市、タマネギは横浜市、キュウリも横浜市です。
ん?横浜市・・・? なぜ横浜市の野菜支出額が高いのか気になります。
総務省の家計調査品目別の市ランキング資料で、20種類の野菜の支出額全国トップ3の市を抽出してカウントしたところ、下の図のようになりました。明らかに横浜市が多いのです。横浜市は野菜の支出額が高い「野菜消費王国」だったのです。

新潟市も野菜支出が高くなっており、何の野菜かを調べるとジャガイモとニンジンでした。もしかしてこの野菜といえばカレーの具? そこで調べてみるとカレールウの支出額日本一はやはり新潟市でした。
つまり、新潟はラーメン王国でもあり、同時にカレー王国だったのです。それが野菜の支出に表れているとは、データから得られたおもしろい発見です。(その両方を合体させたような新潟のカレーラーメンも有名です)
神奈川県の野菜農家の特徴は
横浜市が野菜をよく食べることはわかりましたが、消費が盛んであることは、神奈川県農家の野菜生産と何か関係あるのでしょうか。神奈川県農業簿記ユーザーの野菜農家38件と全国平均とを比べてみました。
| 神奈川県 | 全国 | |
|---|---|---|
| 経営体数 | 38 | 4,452 |
| 平均年齢 | 66 | 54 |
| 収入金額 | 11,172 | 23,113 |
| 経営費 計 | 7,782 | 16,999 |
| 世帯農業所得 | 3,390 | 6,114 |
| 世帯農業所得率 | 30.3% | 26.5% |
※金額の単位は千円。
まず神奈川県の野菜農家は平均年齢が66歳であり、全国平均の54歳より高くなっています。収入金額が低いので小規模経営が多く、世帯農業所得も339万円と低くなっていますが、所得率が30%と高く、生産効率や販売単価が高いことがわかりました。
費用構成を見るために、販売金額を100とした費用比率をグラフにして比較すると、神奈川県の野菜農家は、肥料費、農薬費が少なく、減価償却費は高く、地代賃借料が低く(自作地が多い)なっています。特徴的なのは、消費地が近いからか荷造運賃手数料が低い点です。
神奈川県の野菜農家は、高齢で、小規模だが所得率は高く、有機栽培を行っていて、都市の消費地に新鮮な野菜を販売している、という経営スタイルが見えてきました。
神奈川県は都会というイメージがありますが、農地もあり農業が盛んであるという情報がネットにも多く見うけられます。
さらに、横浜市には農産物の直売所が1,000か所もあるという情報もありました。都市近郊であるがゆえに生産者と消費者の距離が近く、有機栽培で新鮮な野菜を直売所で販売することに適した地域なのです。ゆえに所得率が高くなっているのでしょう。
まとめ
今回は、家計調査から「野菜消費王国・神奈川県」の野菜生産の特徴が見えてきました。まさに神奈川県の野菜経営は、都市の中に農業がある地産地消の「都市型農業」と言えます。生産者と消費者の双方が、安心と信頼でつながっているすばらしいカタチです。ぜひ、新規就農を考えている方は神奈川県という場所も候補に入れて良いのではないでしょうか。
それから、農業簿記ユーザーで不動産の青色申告も提出している農家は全国平均で8%なのに対して、神奈川県は64%(全国No.1)である、ということがわかりました。アパートや駐車場経営も行っている農家が多いということですが、これも「都市型農業」の特徴の一つと言えるのかもしれません。
関連リンク
総務省「家計調査 2023年平均」
総務省「家計調査 品目別の市ランキング」
南石名誉教授のコメント
今回の分析の前半では、食料品の支出が明らかになりました。一世帯当りの食料の年間支出額をみると、最新のデータでは、パンは米の1.7倍も支出額が多くなっています。
パンの支出額が、「主食の米」を超えたのは、2010年頃といわれています。その家計調査の結果が公表された2012年には、新聞やTVでも「家計の食料品支出、パンが初めてコメを逆転」とニュースになりました。その後10年以上を経て、パンとの格差がさらに進んでいることが再確認できます。さらに、麺類の支出額が米をわずかながら上回っており、「主食」といわれる米は第3位となっています。
生鮮野菜第1位のトマト、生鮮果実第1位のバナナは、共に、季節を問わず安定した供給と需要がある品目なので、周年的な消費につながり支出額が多くなっているようです。

コメントを投稿するにはログインしてください。