
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2023年の家計調査では、肉の支出金額No.1は豚肉で年間33,000円だそうです。(2位は牛肉、3位は鶏肉)肉を生産するにはたくさんの穀物が必要であり、農林水産省の資料によると、肉1kgの生産に必要な穀物量は、牛肉で11kg、豚肉で6kg、鶏肉で4kgとのことです。
飼料は輸入に頼っているので、価格が高騰し畜産経営に影響を与えていますが、今回は豚の経営について見てみましょう。経営体の件数は少ないのですが、農業簿記ユーザーの養豚経営農家19件を分析します。
養豚経営農家の動向
農林水産省によると、全国の養豚経営農家は2023年2月時点で3,370件であり、44%が個人事業、残りが法人経営です。都道府県では、鹿児島県、宮崎県、熊本県、沖縄県と温かい地方に養豚農家が多くなっています。
養豚経営農家も年々減少しており、グラフのように1年で平均6%減少しています。しかし、2,000頭以上飼育している農家は増加していますので、この経営規模は所得が高い経営なのでしょう。
では、畜産農家の経営を圧迫しがちな飼料費の割合はどうなっているのでしょうか。下のグラフの畜産別飼料費割合のグラフ(農林水産省資料)を見ると、豚が67%と一番高くなっています。
豚の飼料は子実用とうもろこしなどの濃厚飼料でありほとんど輸入に頼っていますから、飼料代が高くなっているのだと思われます。
養豚農家の経営内容
最近の畜産農家の変化を探るため、農業簿記ユーザーの2021年と2022年の経営を比較分析しました。豚の販売金額は160万円減少しましたが、雑収入(交付金等)が200万円増えており収入をカバーしています。
| 2021年 | 2022年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 収入金額 | 66,703 | 66,989 | 286 |
| 豚 販売金額 | 59,559 | 57,874 | -1,686 |
| 雑収入 | 6,971 | 9,000 | 2,030 |
| 経営費 計 | 56,984 | 59,741 | 2,757 |
| 素畜費 | 1,723 | 1,219 | -504 |
| 飼料費 | 34,404 | 38,087 | 3,684 |
| 動力光熱費 | 2,714 | 2,923 | 209 |
| 荷造運賃手数料 | 3,180 | 3,356 | 176 |
| 雇人費 | 1,272 | 1,557 | 285 |
| 世帯農業所得額 | 8,838 | 7,247 | -1,591 |
| 世帯農業所得率 | 14.8% | 12.5% | -2.3% |
※金額の単位は千円。
しかし、経営費が275万円も増加しており、何と言っても飼料費368万円アップが世帯農業所得159万円減につながっています。素畜費だけ費用が減少しているのは、子豚を他から購入せず自家繁殖する農家が増えたのかもしれません。
とにかく飼料費が高いことに驚きです。飼料費が販売金額の66%を占めていますから、前述した農林水産省のデータと同じです。
豚は牧草は食べず、トウモロコシなどの濃厚飼料がほとんどです。国としては、稲作の畑地化促進事業で子実用トウモロコシの栽培に交付金を支援し、飼料用として増産を促しています。
次に、収入金額階層別に経営内容を分析しました。各階層に5件くらいしか農家数がないので、傾向として見てください。
収入金額6,000万円以下は、世帯農業所得(折れ線グラフ)が460万円以下なので経営的には少し厳しい状況です。しかし、6,000万円を超えると所得が1,000万円以上となりすばらしい経営になっています。
豚1頭の販売単価は一般的に45,000円と言われていますので、1億円の販売金額なら豚2,200頭の経営です。前述した農林水産省の資料で、養豚経営体が増えたのは2,000頭以上でしたので、これくらいの規模であれば所得が1,000万円ほどあることとなり、その層の農家数が増えているのは納得です。
それから、収入金額階層別に飼料費の割合を調べてみると、4,000~6,000万円の階層は75.5%という異常な高さであり、1億円以上の階層では63%と低くなっていました。
また、所得率22%という高所得率経営の飼料費割合を調べてみると59%という低さで、低所得率(1%)経営は75%という高さです。とにかく、飼料費を如何に下げるかということが所得増につながります。
まとめ
養豚経営の所得向上には、経営費の約64%を占めている飼料費が大きく影響していることがわかりました。
豚は人間の食べるものならほとんど食べることができます。ということは、食物残渣(ざんさ)を活用できるのではないでしょうか。
日本の食品ロスは、全国民1人が一年間食べるご飯と同じ量を捨てているとのことですから、その食品をうまく集めて飼料にするシステムができることが望まれます。
他にも飼料費を下げる工夫として、最近稲作では、衛星から生育量をモニタリングしてピンポイントで適正な肥料散布を行って肥料費を下げている例がありますので、養豚も豚ごとに餌の栄養価の調整を行う自家配合が行えるようになると良いかもしれません。
さらに、豚のふん尿を堆肥化して飼料米を生産し、それを餌にするという循環型農業を行うなど、様々な工夫が考えられます。飼料費を下げる工夫で経営改善し、日本人が一番食べている豚肉を今後もずっとおいしく食べていきたいものです。
関連リンク
農林水産省「飼料コンテンツ集」
農林水産省「豚コンテンツ集」
農林水産省「畜産統計調査」
農林水産省「食品ロスとは」
南石名誉教授のコメント
飼料や肥料等の農業資材の多くは輸入依存度が高く、その価格は国際情勢や為替レートに大きく影響されます。今回の分析では、近年の国際紛争や円安により高騰している飼料価格高騰が養豚経家の収支悪化を招いていることが明らかになりました。
こうした大きな経営環境変化のリスクを可能な限り回避し悪影響を最小化するためには、飼料等の経営内又は地域内での自給率を向上する選択肢もあります。その一方で、飼料等が安価に輸入できる経営環境にある場合には、国内生産飼料が相対的に高価格となる傾向もあります。
今後、さらに経営環境の不確実性が増大する時代が続くと判断される場合には、飼料等の国内供給増大に向けた取組みや国内未利用資源の有効活用などの新たな発想が求められています。
