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農産物の価格は適正か? 2023年の農業所得を徹底調査<畜産経営編>

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

「食料・農業・農村基本法」が改正され、食料の持続的な供給のため合理的な費用が考慮されるような価格形成の検討が始まろうとしています。

近年の物価高騰により農産物の生産費がどれくらい上昇し、持続可能な経営が行えるような農業所得が得られているのか、

そして価格形成を検討する際の調査データはどのような考慮をしなければならないのか、考えていかなければなりません。

すでに普通作・野菜作・果樹作経営についての分析コラムは掲載していますが、今回は酪農と肉用牛の畜産経営について農業簿記利用ユーザーのデータから分析してみます。

飼料費の高騰

農林水産省が発表している農業資材価格指数の中の飼料の価格を調べてみると、2020年を100とした飼料の価格は、2023年は145.8であり1.5倍に上がっています。

畜産経営における飼料費は、販売金額の40~50%を占める高額の費用ですから、もし飼料費が3,000万円の経営の場合1.5倍に上がると4,500万、つまり1,500万も経費が増えて所得が全部吹っ飛んでしまう計算です。

但し、2024年に入ってから飼料価格は多少下がり傾向で、6月時点では139.5で落ち着いており、現在では上げ止まっているのはないかと思われます。いずれにしても、この高騰は畜産経営に大きな影響を与えているであろうと推察されます。

酪農経営の変化

それでは、酪農経営において物価の高騰が農業所得にどう影響しているのか、農業簿記利用ユーザー酪農経営276件のデータから分析してみます。

2023年の全国の酪農経営の収入金額平均は7,416万円、経営費は6,722万円、飼料費3,335万円(販売金額の53%)、世帯農業所得は694万円でした。

「酪農経営は厳しい」というニュースをよく見かけましたが、農業簿記ソフトユーザーは694万円の所得を得ており、意外と普通ではないか、と思った方も多いのではないかと思います。

下のグラフは、2023年の実績が2022年と比べて1年間でどれくらい増減があったのか、さらに2020年から2023年までの3年間でどのように変化したのか、ということを示しています。

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2020年からのこの3年間の変化は、収入金額は18%上がったのですが、物価高の影響で経営費が26%増加したため、農業所得は約25%ダウンしました。

2022年から2023年の1年間の変化は、収入金額が少しアップしましたが、経営費も農業所得もほとんど変わらない、という状況です。

2023年の世帯農業所得は694万円ですが、2020年は927万円という高所得でした。近年、牛乳の価格は何度か値上げをしていますので、そのお陰で販売金額が増加しているかもしれません。これ以上の価格転嫁は必要無いのかどうか検討は必要です。

酪農経営の費用額の推移

では、物価高騰により各費用はどのように変化したのでしょう。2023年を基点として1年間と3年間の金額の差は下のグラフのようになりました。

予想通り、3年前と比べて飼料費の値上がりがすさまじいです。約970万円の差があります。2022年からの1年間の差はほとんど無いので、費用額は現在安定していると言えます。

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酪農経営の収入金額規模別の経営内容

2023年の酪農経営農家を収入金額規模別に、世帯農業所得と世帯農業所得率をグラフにしました。

収入金額が3,000万円以下の経営は農業所得が少なく厳しいことがうかがえます。しかし、7,000万円ほどで所得率が最高となり効率的な経営を行っていることがわかります。7,000万円以上の経営は、所得率は落ちてきますが、所得額はりっぱなものです。

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では、大規模酪農経営ならば価格転嫁の必要は無いと言えるのでしょうか。
収入金額別に、販売金額を100とした飼料費の比率を調べると、下のグラフのように約50%程度であることがわかります。

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しかし、3,000から7,000万円の中規模層の経営は、2023年になったら急に飼料費の率が上がっています。

この理由について調べてみると、中規模層の2023年の販売金額が減少していました。よって販売金額を100とした飼料費率が上がったのです。もしかしたら、飼料費高騰により、乳牛の頭数を減らしたのかもしれません。

いずれにしても、小規模中規模の酪農経営にたいする経営支援が必要ではないかと思われます。

肉用牛経営の変化

次に、肉用牛経営の3年間の変化を、農業簿記利用ユーザー肉用牛経営324件のデータから分析してみます。

2023年の全国の肉用牛経営の収入金額平均は3,310万円、経営費は3,090万円、飼料費1,157万円(販売金額の44%)、世帯農業所得は217万円でした。 この数字だけ見ると、肉用牛経営は酪農経営に比べて非常に厳しい状況である、と言えます。

下のグラフは、2023年の実績が2022年と比べて1年間でどれくらい増減があったのか、さらに2020年から2023年までの3年間でどのように変化したのか、ということを示しています。

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2020年からのこの3年間もこの1年も、販売額と経営費ともにダウンしています。物価高騰の中で経営費が減少していると言うことは、おそらく飼養頭数を減らして飼料費を下げ、結果として販売金額も減ったということかと思われます。

高い飼料費を下げようということで飼養頭数を減らす苦肉の策は、結果として農業所得の減少となっているのはつらいところです。

肉用牛は、子牛を生ませて販売する繁殖経営と、子牛を買って育てて成牛を売る肥育経営と2種類ありますが、その経営タイプ別に詳細に分析することはできませんでした。

肉用牛経営の費用額の推移

費用額の推移をもっと詳しくみてみましょう。2023年を基点とした1年間と3年間の主要費用科目の金額の差は下のグラフのようになりました。

素畜費は3年前も1年前も両方とも減少し、飼料費は3年前からは増加していますが、1年前からは減少しています。肥育経営農家は、子牛を買うことを減らし、飼料費を減らしてきたということが一目瞭然です。

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肉用牛経営の収入金額規模別の経営内容

2023年の肉用牛経営農家を収入金額規模別に、世帯農業所得と世帯農業所得率をグラフにしました。

収入金額が7,000万円以下の大規模経営は農業所得が800万円以上です。しかし、7,000万円以下の中小規模経営は、所得が確保できません。

経営体数を調べると、3,000万円以下の経営体は全体の65%も占めています。肉用牛全体の経営成績が悪いのは、この小規模経営の実態が表れているのだと思われます。

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収入金額別に、販売金額を100とした主要費用の比率を調べると、下のグラフのようになりました。小規模経営は減価償却費の割合が高いです。ということは子牛を生ませて販売する繁殖経営が多いと思われます。

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2023年は和牛子牛の価格下落が問題となっていましたので、肉用牛経営は飼料費高騰だけでなく子牛の販売価格の価格転嫁も課題であることがわかります。以上のことから、肉用牛経営はなんらかの価格転嫁や所得支援が必要だと思われます。

まとめ

今後、国は価格形成について議論を深め具体的な施策を検討するうえで、「コスト指標」の作成を進めていく、とのことです。

この3年間の酪農経営は、コストは増加したが販売額も増加して農業所得は増えた、ということがわかりましたが、肉用牛経営(特に繁殖経営)は飼料費高騰だけでなく子牛の販売価格の課題も見えてきました。

畜産は昔から飼料が外部依存体質であるということはわかっていましたが、これまできちんと対応してこなかったのではないかと思います。

自給飼料を増やすことが畜産経営の所得確保と、国全体の自給率向上につながります。畜産経営は、農地の活用、農畜連携、観光、エネルギー活用など、社会全体として総合的に考えていく必要があると思います。

関連リンク

農業物価統計調査(令和2年基準)
令和5年度 食料・農業・農村白書

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、畜産経営の2020年から2023年の経営動向を明らかにしていますが、酪農経営と肉用牛経営では経営実態がかなり異なることは明らかになりました。

どちらも大家畜である牛を飼養する点では共通していますが、牛が日々生産するものが牛乳か、牛そのもの(牛肉)であるかによって、生産構造や市場構造が異なっています。

酪農経営が受け取る乳価は制度的に事前に決められていますが、肉用牛経営が受け取る牛販売価格は市場の需給によって変動します。これは市場構造からみた酪農経営と肉用牛経営の大きな違いです。

今回の分析期間では、肉用牛経営の農業所得の減少傾向が明らかになりましたが、過去には肉用牛価格が高騰し肉用牛経営の所得増加が見られた時期もありました。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。