
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2024年の野菜経営の品目ごとの経営概況を見てみます。
まず経営件数ですが、2024年の野菜経営は件数が大きく増加し、トップ20品目は以下の通りとなりました。イチゴが大きく増加したのは、福岡県のデータが大きく増えたからでしょう。
| 2023年 | 2024年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| イチゴ | 527 | 899 | 372 |
| トマト | 555 | 692 | 137 |
| キュウリ | 284 | 359 | 75 |
| ジャガイモ | 224 | 332 | 108 |
| ナス | 148 | 263 | 115 |
| タマネギ | 204 | 256 | 52 |
| ネギ | 237 | 244 | 7 |
| ミニトマト | 167 | 198 | 31 |
| スイカ | 134 | 161 | 27 |
| メロン | 125 | 147 | 22 |
| アスパラガス | 126 | 137 | 11 |
| ブロッコリー | 105 | 136 | 31 |
| レタス | 103 | 124 | 21 |
| ピーマン | 96 | 120 | 24 |
| ニラ | 82 | 98 | 16 |
| ホウレン草 | 89 | 96 | 7 |
| キャベツ | 81 | 96 | 15 |
| サツマイモ | 68 | 91 | 23 |
| ニンジン | 105 | 89 | -16 |
| キノコ | 68 | 58 | -10 |
| 野菜合計 | 4,593 | 5,910 | 1,317 |
経営ベクトル
以下は主要20品目の経営ベクトルです。縦軸が世帯農業所得率(効率)、横軸が収入金額合計(規模)となります。
多くの品目が真上に伸びています。つまり2024年は所得率が向上した経営体が多く、野菜平均もほぼ真上に伸びています。品目別では、キュウリ経営(4.8ポイント増)、レタス経営(4.3ポイント増)が大きく所得率を伸ばし、世帯農業所得金額では収益規模も大きく増えたキャベツ経営が最も増加(2,372千円増)しました。これらの野菜は猛暑の影響で2024年の後半から単価が高騰して、通常の1.5~3倍になったものです。そのことがベクトルを上方に動かしたのだと思われます。
逆に所得金額が落ち込んだのはタマネギ経営とニンジン経営で、共に収益規模が減少し、同額の1,400千円の所得額減となっています。これらは共に2023年に高騰した野菜ですので、2024年は元に戻ったともいえます。いずれにしても、これらの価格の高騰はいずれも夏の猛暑が原因なので、今後この水準で安定する保証はありません。
以上のような変化があった年ですが、スイカ、メロン、イチゴのいわゆる“甘い野菜”の経営は所得率が高く、タマネギ、ジャガイモ、ニンジンの北海道が主産地の露地野菜の経営は規模が大きいという図式は変わりません。今後サツマイモが高所得率の甘い野菜の仲間入りをするか注目したいところです。


変動係数
次は所得率と収入金額合計の変動係数を見てみます。変動係数とは、母集団のバラツキを表しているもので、値が大きいほど上下の幅、つまり経営体ごとの格差があるということです。
2024年は野菜平均が左下に向いているので、全体的に所得率、収入金額ともに経営体ごとの経営格差が縮まった年と言えます。これを上記のベクトル(所得率上昇、収益変化なし)と合わせて考えると、野菜経営全体としては所得率の低かった層が上がったことで平均が上がったといえます。また収入金額合計は大規模経営層が下がり、小規模経営層が上がったことで格差が縮まったと考えられます。
左下に位置するタマネギ、ジャガイモ、メロン、イチゴ、スイカの各経営体は、経営規模または経営効率で上位にいる品目です。つまりこれらの品目の経営は、高位平準化しているということになります。
もちろん高位平準化しているのは、我々のサンプルデータに限ったことなのかもしれませんが、イチゴなどは2024年に最もデータが増えた品目にもかかわらず、変動係数が低下していますので、やはり全体的にレベルの高い経営体が多いのか、品目自体が非常に安定しているのだと推測されます。前者であるなら、新規参入のハードルは高いといえますし、後者であるなら逆におススメ品目といえるでしょう。
ホウレン草とブロッコリーは、変動係数が大きく右上に伸びたので格差が広まったと思われます。しかし経営ベクトルは共に右下に向いていますので、規模が大きな経営体がさらに大きくなった一方、効率の低い経営体がさらに低くなったとも読めます。もしかしたら、経営規模を大きくしたことで手間や借入金が増えたものの、所得金額は変わっていない、という経営体もあったのではないでしょうか。

複合経営の状況
以下は、複合経営の状況を示した図です。縦軸が第一主幹比率(第一主幹品目の販売金額÷収入金額合計×100)で、横軸が青色決算書の2ページ目の収入金額の内訳に記載された品目数です。
2024年度は、第一主幹比率の平均が64.1%、品目数の平均は3.0です。昨年は60.8%、3.1だったので、平均はほぼ真上に上がりました。つまり第一主幹作物の割合が高まったということです。また各経営品目を見ると左上に上がっている経営体が目立ちますので、「少品目集中型」に向かった経営体が多いことも読み取れます。
これらの理由としては、猛暑や資材価格の高騰等により経営品目を減らした経営体が多く、それが作物の高単価と重なり、結果的に第一主幹品目の販売金額のウェイトが高まった、と考えられるかもしれません。また第一主幹品目に集中したことで、効率(所得率)が高まったとも考えられます。
概ね、品目を集中すれば単年度の所得率は高まる可能性が上がりますので、それが野菜単価高騰と重なった2024年のような年は、“当たり年”だったのかもしれません。しかし品目集中型の経営は、単価が下がった年や個別の事情で収量が低下した場合等は、所得減少のリスクが非常に高まるというデメリットもあります。
このように2024年は個々の経営体では変化はあったものの、それがほぼ全経営品目にわたっているため、相対的なポジションに変化はありませんでした。2024年もイチゴやニラ経営は少品目集中型であり、ジャガイモ、ニンジン経営は、複数の品目を作る多品目分散型であるこということです。
但し、今後資材価格の高騰や猛暑などの外部環境が大きく変わることで、野菜経営も品目の構成などの経営戦略を再検討する必要がでてくるのかもしれません。

南石名誉教授のコメント
今回の分析では、野菜作の経営概況が明らかになりました。特徴的な野菜に注目すると“甘い野菜”の代表格であるスイカ、メロン、イチゴは所得率が33%以上と高く野菜全体の中で最も高い野菜であり、所得率の変動係数が野菜全体の中で最も小さく、農家間の所得率のバラツキが小さい品目であることが明らかになりました。
スイカ、メロン、イチゴは嗜好品的な野菜で需要の季節性があり、栽培面からみれば需要にあわせて品質や収量を向上させるには栽培技術や施設が重要な品目といえます。このため、野菜の中では参入障壁が高い品目で、経験のない人が気軽に参入できる作物ではありません。
農業に限らず、参入障壁が高い品目の生産は、所得や利益の向上に向けた基本的な経営戦略の一つであり、“甘い野菜”はその代表例といえそうです。

コメントを投稿するにはログインしてください。