農業利益創造研究所

農業経営

日本の食料生産のために今後の農業構造に期待すること

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

政府は2024年に「食料・農業・農村基本法」の改正を検討しており、その中で食料の安定供給の確保や、農業の持続的な発展の方向を定めようとしています。

さらに「多様な経営体」をどう位置付けるかということも議論しており、今後の農業構造の姿として、農業法人や大規模、中小規模、半農半Xまで、様々な経営体に合う施策を行おうと検討しているそうです。今後の農業構造はどうあるべきか、簿記データから探ってみたいと思います。

現在の農業経営体はどうなっているか

2023年11月現在の農林水産省 農林水産基本データによると、経営体総数は93万、そのうち農業所得が主である主業経営体は19万です。

さらに、大規模経営を行っているであろう農業法人数は3.3万です。農業法人が日本の食料を支えていることは間違いないのですが、小規模農家の数が圧倒的に多いですから、小さな農家も日本農業にはなくてはならない経営体だということがわかります。

経営体種類備考
農業経営体 総数92.9万農地30a以上又は販売50万円以上
副業的経営体58.2万65歳未満の60日以上作業しない
準主業経営体11.万農外所が主、60日以上作業あり
主業経営体19.1万農業所得が主、60日以上作業あり
農業法人3.3万株式・有限会社、農事組合法人

しかし、皆さん知っているように、農家数は年々減少しています。会社定年後に農業をはじめた年配者はいずれは農業をやめることになりますし、現在サラリーマンをやりながら農業をしている家庭は、その子供が農業を継承しない可能性もあります。

つまり経営体数を維持・増加していくべきは、主業経営体と農業法人であることは明白です。農業の担い手と言われている「認定農業者」は現在22万経営体です。これはまさに主業経営体と農業法人の数を合わせた数になり、認定農業者が日本農業を支えていくことになるのだろうと思われます。

農業法人が日本農業を救うのか?

農地を集積し大規模経営になると、従業員が増えてきたり、社会的な信用が必要になるという理由で、個人事業から農業法人に変わっていくケースが多く見られます。

農業法人がどんどん増えていけば日本の食料生産が維持できるのでは、と思ってしまいますが、実はそんなに農業法人は増えていません。2023年は3.3万ですが、2022年から800件くらいしか増えていません。ずっとこのペースだとしたら、10年経っても8,000件増えるだけです。

農業法人は大規模経営を行う上で有効な経営形態であることは確かですが、大規模個人事業農家がみんな法人化しようとしないことも事実です。

以下のような理由があると言われています。
・従業員の採用が大変で、給料を払い続ける責任を負わなければならない
・従業員に年間継続した仕事がなければならない
・倒産しないように成長し続けなければならない
・経営を大きくしようと設備投資し、多額の借入金を返済しなければならない
社長になると大変、ということです。

さらに、気象変動による生産量の減少や、資材費の価格高騰、規模が大きければ大きいほど一気に赤字になってしまうリスクが大きくなっていきます。法人化にはメリットもあるものの、法人化を目指す場合は経営者として大きな覚悟が必要です。

販売金額5,000万円以上の農家は増えている

2023年の農林水産省のデータによると、以下のグラフのように、前年と比べて農産物販売金額5,000万円以上の経営体数は増えています。

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ということは、中規模程度だったが5,000万円以上に規模を拡大した経営体が増えたということと、5,000万円以上の経営体は減らない(後継者が継いでいる)ということだと思います。

なんといっても、経営を継続し、後継者が継いでくれる要因は、農業所得がサラリーマン並みかそれ以上であるということが大きいと思います。それを踏まえて農業簿記ユーザーのデータから、収入金額5,000万円前後の経営データを掘り下げてみたいと思います。

収入金額5,000万円前後の経営は

収入金額5,000万円前後を分析するために、普通作経営の収入金額2,000~1億円以上の階層別の経営数値を以下の表のように調べてみました。

普通作の収入金額別 経営内容比較
2,000~3,000万円3,000~5,0005,000~7,0007,000~1億円1億円~
世帯農業所得 額6,4169,92315,46520,90227,934
世帯農業所得 率26.0%26.2%27.0%25.8%24.2%
雇人費5139071,4822,7927,569
建物・農機具 資産額15,96824,66831,89948,64243,309
借入金 額11,01719,79123,42232,92840,370

※金額の単位は千円。

やはり、世帯としての農業所得が1,000万円あればりっぱな経営といえますが、それは5,000万円以上の経営です。また、所得率(経営の効率性)が一番高くなるのも5,000万円前後ですし、雇人費も少なく、固定資産も適度な額で、借入金もさほど多くありません。

7,000万円以上の経営は、農業法人にした方が良いのではないか、というくらいの大規模経営です。所得額は高いのですが、所得率は下がってきて、固定資産と借入金(4,000万円)はかなり高くなっています。

5,000万円前後の経営の専従者数は平均2人です。事業主+妻+父あるいは母、という労働力で効率的に経営しているケースが一般的です。

以下は、野菜作の場合です。野菜作経営も同じように、5,000万円前後が農業所得1,000万円であり、所得率約27%で高効率、借入金も少なく安全経営を行っています。

野菜作の収入金額別 経営内容比較
2,000~3,000万円3,000~5,0005,000~7,0007,000~1億円1億円~
世帯農業所得 額6,85410,42815,24519,48230,639
世帯農業所得 率27.9%27.2%25.9%23.7%26.1%
雇人費1,5842,4633,3583,1205,418
建物・農機具 資産額1,6122,4903,3843,1435,445
借入金 額6,1319,97616,47822,47226,982

※金額の単位は千円。

まとめ

今後の日本農業が持続していくには、食料生産は勿論のこと農村地域の維持も考えて小規模農家から農業法人まですべての経営体が必要です。多様な経営体に向けて様々な施策を検討していってもらいたいものです。

今回の分析では、個人事業5,000万円規模クラスの経営が、今後増加もしくは維持していくのではないかと推測できました。しかし、個人事業の経営者は1人で経営しているので、それなりに限界が見えてくることもあります。

その場合は、JA等も入りながら、地域内の経営体間で生産技術や情報システム、地域ブランド商品や販売方法などを共有し、5,000万円規模の個人事業農家同志が連携すれば、大規模法人に劣らない高度な経営が実現できるのではないかと思います。

行政やJAは、ぜひそういった仕組みの構築や、経営者の育成を行ってほしいと思います。

関連リンク

農林水産省「農林水産基本データ
令和5年農業構造動態調査結果

南石名誉教授のコメント

農業を行っているのは「農家」であるが、毎日、農作業を行い農業で生計をたてている「農家」というイメージに近いのは、「主業経営体」と「農業法人」です。こうした「農家」は、農家全体の中では少数派ではないでしょうか。

「農業法人」は、21世紀に入って増加傾向が顕著になりましたが、今後は「農業法人」間や個人農家との経営統合が主流になると考えられますので、「農業法人の数」よりも、「農業法人の平均規模」が増加するとの見通しもあります。

個人経営の農家には、農業をビジネスして営む「農家」もいれば、ライフスタイルとしての農的生活を楽しみたい「農家」もいます。一時期はやった半農半X的な「農家」を目指す「農家」もいます。こうした多様な主体がそれぞれの目的を達成できるのが、農業の魅力でもあります。

さらにいえば、最初は農業法人へ就職して農業の技術や技能を身に着け、その後農業で生計を立てる個人農家になることもあります。半農半X的な「農家」の中から、農業法人を設立することもあるでしょう。人生のライフステージに応じて、多様な「農家」のキャリアパスを選択できる農業の実現が、活力ある農業につながると言えそうです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。