
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
9月10日の農業新聞に「農林水産省の調査によると、10年後に耕作者を確保できない農地は全国平均で31.7%である」と発表されました。日本の食料を維持するには、地域の担い手農家にさらに農地を引き受けてもらうことになり、大規模経営が増えていくことになります。
ソリマチ農業簿記ユーザーの中で、収入金額1億~1億5,000万円の大規模個人稲作農家は26件ありました(稲作経営全体4,254件の6%)。これらの農家の経営の特徴を調べますので、これから大規模経営を目指そうと考えている稲作経営者はぜひご覧ください。
1億円大規模経営の内容
日本農業法人協会が全国の農業法人を調査分析した「農業法人白書2024年版」(回答数1,401件)によると、稲作の農業法人のうち、売上5,000万円未満が26%、5,000~1億円が32%です。
よって、1億円以下が58%ですので、1億円程度の経営規模であれば一般的に法人化することが多いようです。1億円経営でも法人化せずに個人事業で行っている経営というのはどのような内容なのでしょうか。
稲作経営4,254件の平均と、収入金額1億~1億5,000万円の大規模個人稲作農家(26件)の平均を比べてみました。
大規模経営の収入金額は1億2,000万円、農産物の販売金額は8,727万円なので、推定作付面積は40haくらいだと思われます。農業所得は2,691万円、専従者給与は1,312万円、世帯農業所得は4,000万円と非常に高額です。(所得率は全国平均と同じです)
固定資産額は、建物と農機具を合わせて3,800万円と高額ですが、経営規模から見たら決して高くありません。
また、借入金も高いですが、収入金額に対する率は全国平均より低いです。よって、1億円大規模経営は収益性も安全性も高く、優れた経営であることがわかりました。
| 全国平均 | 1億円 大規模経営 |
|
|---|---|---|
| 平均年齢 | 60.1 | 56.7 |
| 推定作付面積 | 8.6ha | 40.4ha |
| 収入金額 | 24,969 | 119,246 |
| うち販売金額 | 18,649 | 87,276 |
| うち雑収入 5,9 | 4 30, | 75 |
| 収入金額対雑収入率 | 23.9% | 25.2% |
| 経営費 計 | 16,500 | 75,043 |
| 特別控除前 農業所得 ① | 6,616 | 26,918 |
| 専従者給与 ② | 1,852 | 13,125 |
| 世帯農業所得 ①+② | 8,468 | 40,043 |
| 世帯農業所得率 | 33.9% | 33.6% |
| 建物・構築物 資産 | 5,634 | 13,114 |
| 農機具 資産 | 8,800 | 25,683 |
| 借入金 | 8,879 | 14,996 |
| 収入金額対借入金率 | 35.6% | 12.6% |
※金額の単位は千円
次に、費用構成に違いはあるでしょうか。下記のグラフは、販売金額を100とした費用比率です。大規模経営は、動力光熱費、減価償却費が低くなっており、雇人費と地代賃借料がかなり高くなっています。
大規模化することによるスケールメリットで、減価償却費のような固定費が低くなるのが特徴です。雇人費は、常時年間雇用している労働者は固定費的性格であり、生産量が増えると雇人も増やしていくような場合は変動費であり、両方の性格を持つ費用と言えます。
販売費を100とした比率が高くなっているということは、あまり仕事が無い時でも常時雇用していることによるロスと言えるのかもしれません。
また、下のグラフのように、収入金額規模別に世帯農業所得率と、販売金額を100とした主な費用比率を比べてみました。世帯農業所得率は経営の効率性を表す指標ですが、規模が大きくなると高くなり、一定の規模を超えると下がってきます。
なぜ下がるのか、費用比率を探ってみると、規模が大きくなると減価償却費は下がりますが、雇人費はどんどん上がっていきます。
やはり、雇人費が大規模経営の重要な要素であることがわかります。
専従者と雇人費の関係
大規模経営のポイントは雇人費であるということがわかりましたが、専従者と雇人費の関係はどのようになっているのでしょうか。
下記のグラフは、専従者の人数と雇人費額を経営体ごとにプロットしたグラフです。同じ経営規模ですから、専従者が多ければ雇人は少ないだろうと考えますが、そうはなっていません。
詳しく調べてみると、専従者が4人いる経営でも高齢の父母がいるケースや、専従者も雇用も少ない経営は外部に作業を委託しているケース、稲作だけでなく野菜や果樹も栽培していて雇用が多いケース、など様々でした。

それでは、経営規模別に専従者1人当りの給与額平均はどのようになっているのでしょう。
表のように、小規模経営は約100万円であり、いわゆる「103万円の壁」を意識しているのだと思われます。
1億円大規模経営は497万円ですので、全国の平均給与460万円とほぼ同額です。詳細に調べると事業主の父母は約250万円、妻や子には650万円という高額な給与を払っています。
また、1億円大規模経営において、事業主の報酬である特別控除前の農業所得は2,682万円です。
これだけ高額だと事業主の所得税は非常に高くなりますので、専従者給与とのバランスを考えると節税になると思います。(もちろん適正な労働に見合った専従者給与でなければなりませんが)
| 1000~2000万円 | 2000~3000 | 3000~5000 | 5000~1億円 | 1億円~ | |
|---|---|---|---|---|---|
| 専従者1人当りの給与額 | 1,035 | 1,389 | 1,911 | 2,810 | 4,972 |
| 特別控除前の農業所得 | 3,756 | 6,966 | 11,115 | 16,802 | 26,823 |
※金額の単位は千円
農業法人化の検討
1億円大規模経営で、さらに雇人費を効率化し所得を上げようと思うなら、稲作だけでなく年間を通じた農産物を生産して労働の平準化を図ることです。
しかし、1億円大規模経営の農業所得は十分に高いので、雇人費を下げる努力をするより、ゆとりある労働を行った方が良いという判断もあると思います。そして、労働者の社会保障のために、個人事業から農業法人に変えるという選択もあります。
農業法人化は、設立が面倒、会計・税務処理が複雑だという考えもありますが、社会的信用が高まり、取引先の安定、融資や補助金が受けやすくなる、節税効果、人材確保がしやすい、などメリットも多くあります。
よって、大規模経営で労働者を多く雇いたい場合は、法人化した方が良いと言うのが一般的です。
いずれにしても、今回の分析でわかったように、稲作経営の大規模化の課題は雇用労働者です。
近年は人手不足の影響で、スマート農業を行うことにより作業を効率化して労働者を減らす方向に進んでいます。「経営の規模と、家族の専従者の労働力と、雇用労働力」、これらのバランスを考えることが大規模化の大きなポイントになってくると思われます。
まとめ
法人事業や、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業では、労災保険への加入が義務付けられています。
近年機械を使う危険な業務が多いほか、担い手の高齢化や猛暑のための熱中症リスクが増加しているということで、政府は小規模な個人経営の農家が人を雇った場合、労災保険への加入を義務付けることを検討しているそうです。労働者にとっては良いことですが、事業主にとっては保険料を全額負担しなければなりません。
いずれにせよ、大規模経営になるほど常時雇用者の採用、パート労働者集めなど、頭を悩ますことが増えてきます。今後、農業経営者は人の問題についてのマネジメント能力が必要となってくるでしょう。
関連リンク
日本農業法人協会「農業法人白書」

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