農業利益創造研究所

農業経営

会計データでわかった、挑戦する新規就農者のリアルな経営実態

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

ソリマチ株式会社では、新規就農者を応援する目的で、農業簿記ソフトを低価格で購入できる「新規就農者応援特別価格キャンペーン」を行っています。この取組を行っているせいか、新規就農者の簿記データが多く集まっていますので、今回は新規就農者がどのような経営を行っているか見てみたいと思います。

なお、新規就農者のデータ抽出は、雑収入の中に「経営開始資金」など、認定新規就農者しか受け取れない交付金の収入があるかどうかで判断しました。

新規就農者とは

前述の交付金をもらうためには、「青年等就農計画」を作成し、市町村から認定してもらわなければなりません。

農業簿記データの中で、認定新規就農者(49歳以下)として交付金をもらっている農家は455件ありました。新規就農は「独立自営新規就農」と「親元継承就農」がありますが、簿記データだけでは判別ができないため混在して分析しています。おそらく経営規模が大きい経営は、親元就農によるものと思われます。

経営開始資金は、年間150万円を最長3年間もらえる資金です。細かな交付条件がありますので、詳しくは農林水産省のサイトを見てください。

就農当初は経営規模が小さく、農産物の収量も少ないですから、この150万円は新規就農者にとってなくてはならない収入です。また、その交付金があることで、新規就農者の農業所得率はベテラン経営の平均とほぼ同じ数値になっています。

稲作の新規就農者経営

稲作を行っている新規就農者の経営は24件あり、それを散布図にしましたので見てください。

横軸は「収入金額(経営規模)」、縦軸は「世帯農業所得額(特別控除前農業所得+専従者給与)」であり、規模が大きくなるほど所得は増加していきます。

世帯農業所得を500万円得るには、概ね収入金額は1,500万円以上必要であることがわかります(水田面積は約4ヘクタール)。2024年は米価が上がりましたので、新規就農者は一息付けたのではないかと思います。

次に新規就農者の稲作経営を、全国の稲作経営4,254件の平均と比較して表にしました。

【稲作】新規就農者と全国平均との比較
全国平均新規就農者
の平均
経営体数4,25424
平均年齢60.142.3
収入金額24,96913,130
 うち販売金額18,6499,965
  うち米 販売15,3069,195
  うち野菜 販売1,426364
 うち雑収入 (交付金等)5,9742,895
雑収入÷収入金額 率23.9%22.1%
専従者 人数1.10.3
専従者給与①1,852236
特別控除前 農業所得②6,6164,292
世帯農業所得①+②8,4684,528
世帯農業所得率33.9%34.5%
建物構築物 資産額5,6341,746
農機具 資産額8,8005,785
借入金 残高8,8795,355
借入金÷収入金額 率35.6%40.8%

※金額の単位は千円。

新規就農者の収入金額平均は1,313万円で、全国平均の約半分です。雑収入(交付金等)は289万円で、割合的には全国平均とほぼ同じ。世帯農業所得は452万円と低いですが、野菜の新規就農者よりは高いです。固定資産額と借入金は全国平均よりは少ないですが、収入金額に対する割合としては高いので注意が必要です。

イチゴの新規就農者経営

イチゴを栽培している新規就農者の経営は38件あり、こちらも散布図にしました。

イチゴは新規就農者に人気の作目のようで、データ数がたくさんありました。経営規模と農業所得にあまり相関がなく、全体的にばらつきが大きいです。所得500万円を得るための収入金額は、1,000万円~2,000万円まで幅があります。

新規就農者のイチゴ経営と全国のイチゴ経営899件の平均と比較して表にしました。

【イチゴ】新規就農者と全国平均との比較
全国平均新規就農者
の平均
経営体数89938
平均年齢59.143.5
収入金額18,80812,219
 うち販売金額17,4649,458
 うち雑収入 (交付金等)1,2162,752
雑収入÷収入金額 率6.5%22.5%
専従者 人数1.40.6
専従者給与①2,535672
特別控除前 農業所得②3,6112,035
世帯農業所得①+②6,1452,707
世帯農業所得率32.7%22.2%
建物構築物 資産額5,2944,510
農機具 資産額4,1696,008
借入金 残高4,3329,276
借入金÷収入金額 率23.0%75.9%

※金額の単位は千円。

新規就農者の収入金額平均は1,221万円で、全国平均より多少少ないです。雑収入は275万円であり、交付金をもらっているので全国平均より多くなっています。世帯農業所得は270万円と低いので、イチゴ経営だけでは生計が成り立たないかもしれません。

固定資産額は1,000万円で借入金は927万円と高額です。新規設備投資のため借入金(年間の販売金額と同額)をしており、徐々に生産量を拡大していく必要があります。

また、イチゴ経営の費用を、販売金額を100とした比率で計算したところ、全国平均より高額なのは減価償却費でした。前述したように、まだ多額な設備投資に見合った販売金額になっていないのです。

そして、新規就農者は全国平均と比べて、「雇人費+専従者給与」の労働費が少なくなっています。事業主が1人で長時間労働しているのではないかと想像できます。所得を増やすには規模拡大し売上を増やすことですが、そのためには高額な機械投資をするか、労働力を多く確保するか、ということにつながりどちらも費用がかかります。

機械や労働の費用投資と売上増加のバランスを考えていくことが経営の本質だと思います。

新規就農者の他の作目の経営概況

稲作とイチゴ以外の作目の新規就農者の経営概況を以下のようにまとめ、表にしました。農業所得はまだ十分とは言えませんし、借入金率(借入金÷収入金額)が高く、安全性に不安があります。

表を見て気づくことは、稲作経営の所得は多いですが、大きな設備投資が必要になるため親元就農が良いと思われます。イチゴやトマト、ミニトマトは新規就農の人気が高い作目ですが、やはり最初の設備投資が必要であり借入金が多いです。

一番所得が高いのはスイカであるという点は意外です。新規就農のスイカ経営農家は鳥取県、山形県、熊本県に多いです。また、所得率が一番高いのはモモ経営で、岡山県の農家が多かったです。新規就農時は、何の作目を選択するかということと同じくらい、どの地域で就農するかということも重要です。

作目別 新規就農者の経営概況
経営体数収入金額世帯農業所得固定資産額借入金
稲作2413,1304,52834.5%7,5325,35540.8%
イチゴ3812,2192,70722.2%10,5189,27675.9%
トマト5613,4133,82328.5%6,5507,46955.7%
ミニトマト2410,9172,62324.0%8,9397,43468.1%
キュウリ3314,3223,96527.7%6,0555,17036.1%
ネギ209,0983,10434.1%3,9423,56139.1%
アスパラ99,8372,88229.3%6,5807,04371.6%
ナス136,3431,95630.8%1,7032,73843.2%
ピーマン1213,6793,81327.9%4,3463,77727.6%
スイカ1113,0854,56934.9%4,0415,44141.6%
カンキツ類316,5481,94329.7%3,5982,57639.3%
ブドウ417,4492,53334.0%4,2344,24457.0%
リンゴ198,5902,87033.4%2,3852,25826.3%
モモ117,8343,42843.8%1,7616638.5%

※金額の単位は千円。
※各項目の太字は最大値3つ。
※借入金率(%)=(借入金÷収入金額)×100。

まとめ

農林水産省の資料では、2023年の49歳以下の独立自営新規就農者は2,590人でした。離農農家より新規就農者が少なくなったら日本農業は衰退の一途です。今回の分析で、新規就農者は十分な所得は得られていないので、交付金の支給と設備投資への支援、そして地域内での栽培技術の指導を行ってもらいたいものです。                                     

さらに所得を増やしていくためには周りからの支援だけでなく、自分の「経営力」が必要です。農業簿記をつけて経営を把握し、経営をコントロールする力を身につけてもらいたいと思います。

関連リンク

農林水産省「経営開始資金」

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、新規就農者の経営実態が明らかになりました。世帯農業所得を、作物別にみると、スイカ(456.9万円)、稲作(452.8万円)、キュウリ(396.5万円)が高く、カンキツ類(194.3万円)、ナス(195.6万円)、ブドウ(253.3万円)が低くなっており、最大2倍以上の開きがあります。

作物によって、自然条件の適地やブランドのある産地が異なるため、「独立自営新規就農」の場合には、栽培する作物と共に、新規就農を行う地域の選択を慎重に行う必要があることが分かります。

「親元継承就農」には、親の経営資源を活用でき、技術継承も容易なメリットがありますが、「独立自営新規就農」は最適な地域や作物を自分で決められるメリットがあります。重要な事は、それぞれのメリットを最大限活かしていく、発想と工夫のようです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。