
農業利益創造研究所では、11月28日~12月11日の期間で「インボイス制度への対応は進んでいますか?」のアンケートを実施しました。ご回答いただいた方々にはお礼を申し上げます。
インボイス制度とは
2023年10月から消費税のインボイス制度がスタートしますが、まだよくわからなくて対応に戸惑っている農業者の方が多いのではないでしょうか。この制度は、これまでとは違う新しい様式の「記載義務を満たした適格請求書」によって消費税を計算し納付しましょう、という制度です。導入後は、消費税を納める必要のある企業や個人事業主はもちろんのこと、特に免税事業者に大きな影響が出てきます。
詳しくは、こちらを参考にしてください。
「消費税インボイス制度で農業経営は何が変わるのか?」
一般企業のインボイス登録手続きの状況
インボイス制度がスタートすると、課税事業者はインボイス(請求書や領収書等)の中に「事業者登録番号」を記載しなければならないのですが、この登録番号をインボイス制度が開始される2023年10月1日までにもらうためには、「適格請求書発行事業者の登録申請手続」を2023年3月31日までに国税庁に申請しなければなりません。
一般企業の「適格請求書発行事業者の登録申請」は進んでいるのでしょうか。国税庁の適格請求書発行事業者サイトの2022年10月現在の公表データを見ると、インボイスの登録を行っている個人事業者は約29万件であり、個人事業者全体の中で14.6%という低さです(法人は約40%)。
全国の個人事業者全体がこのような現状ですので、おそらく農業者も対応が遅れているのではないかと思われます。
アンケートの結果は
それでは、農業者のインボイス制度への対応はどのような状況なのでしょうか。以下のような営農類型の農業経営者、計12件の方から興味深い回答を得ることができました。
回答者の営農類型
普通作(稲作+大豆・麦) | 41.7 |
---|---|
野菜作 | 25.0 |
施設園芸 | 16.7 |
果樹作 | 8.3 |
肉用牛 | 8.3 |
皆さん、インボイス制度のことをある程度知っている
インボイス制度の話題を最近よく聞くようになったためか、「ある程度知っている・知っている」方は91.6%にも及んでいます。
知っている | 33.3 |
---|---|
ある程度は知っている | 58.3 |
名前くらいは聞いたことがあるがよく知らない | 8.3 |
まったく知らない | 0.0 |
原則課税事業者が意外と多い
年間課税売上が5,000万円以下なら簡易課税事業者を選択することができ、超えた場合は原則課税事業者になる必要がありますが、アンケートの回答者の内訳は原則課税事業者が33.3%と意外と多いです。
おそらく、原則課税事業者がこのインボイスアンケートに興味を持って回答してくれたのだと思われます。農業簿記ユーザー全体の課税区分を集計すると、免税:簡易:原則の比率は、3:5:2となっており、原則課税者が多いわけではありません。
課税事業者は対応の準備が進んでいる
課税事業者の方のみに、現在の対応状況を質問したところ、「対応準備進行中」が72.7%と多くなっていました。ちなみに、免税事業者に同じ質問をしたところ、回答者数が少なかったのですが、全員「情報収集中」との回答でした。
「適格請求書発行事業者の登録」は申請済みの方が多い
課税事業者で、「適格請求書発行事業者の登録申請手続」をすでに行っている方は63.6%です。課税事業者には、意外とインボイス制度が認知されている、ということがわかりました。課税事業者である場合は、インボイス対応のために課税事業者になるべきかどうかを選択する必要が無いので、比較的対応がスムーズに進むのかもしれません。
消費税事業者別の対応
既にご存知の方も多いと思いますが、事業者別に必要なインボイス対応について、もう一度おさらいしましょう。
免税事業者の場合
例えば、免税事業者が原則課税事業者にお米を販売したとしても、免税事業者はインボイスを発行できないため課税事業者は消費税の課税仕入れにできません。
よって、より多くの消費税を税務署に収める必要が出てくるので、原則課税事業者は免税事業者からの仕入れをやめざるを得ないことになるかもしれません。
原則課税事業者と取引している免税事業者は、免税のままでいるか、消費税の申告をする課税事業者になるかよく考えて、課税事業者になる判断をしたら、「適格請求書発行事業者の登録申請手続」を2023年3月31日までに行ってください。
ただし、農産物を販売する相手が農協や消費者、免税事業者、簡易課税事業者であれば、免税事業者のままで問題ありません。
原則課税事業者の場合
免税事業者からの農産物仕入れ分や、農作業を委託するなどの場合は、消費税の仕入れ控除にならないので、免税事業者との取引をやめるか、値引き交渉させてもらうなどの検討が必要かもしれません。
簡易課税事業者の場合
免税事業者からの仕入れも販売も特に問題ありませんので、今まで通りで構いません。
農業特有の注意すべき点
農作業の委託、機械を借りる、苗などを購入する
原則課税事業者は、免税事業者からこれらの対価として請求書を受けてお金を支払った場合、この経費分の消費税額は仕入れ控除することができなくなります。また、「特定作業受託」(細かなことは省略します)についても注意を要します。同様に仕入れ控除ができなくなるかもしれません。
和牛繁殖農家は簡易課税事業者に
免税事業者が子牛を販売する場合にインボイスを発行できないので、肥育農家や家畜市場への販売時に取引上で不利になる可能性があります。子牛は高額ですから10%分の減額は大きく、インボイスを発行できる農家から買いたいと考える方が多いかもしれません。この機会に簡易課税事業者になることを検討してみてください。
農事組合法人の場合の従事分量配当
今までは従事分量配当は消費税対象外でしたが、今後は組合の構成員の中に免税事業者がいたらその人の分の消費税を支払わなければならず、組合として多くの税金を払うことになります。
ただ、インボイス制度には経過措置があり、原則課税事業者が免税事業者から仕入れても経過措置期間内は何%かは仕入れ控除しても良いことになっていますので、この措置の内容について確認しておきましょう。
まとめ
インボイス制度スタート後は、請求書の様式が変わりますので、請求書発行ソフトはインボイス対応のソフトに変更する必要がありますし、会計ソフトも同様に対応済みのものに変える必要があります。ソフトウエアのメーカーからの情報にご注意ください。
課税事業者の方は、2023年3月までに「適格請求書発行事業者の登録申請手続」を必ず行ってください。そして、現在取引を行っている事業者がインボイスを発行できるかどうか、早めに確認していった方がよいでしょう。
免税事業者の方は、もし課税事業者になる選択をした場合「登録申請手続」を行ってください。簡易課税事業者になる場合は、合わせて簡易課税制度選択届出書も提出する必要があります。
具体的な方法については、このページ下の「リンク」や国税庁のホームページにある解説動画を参考にしながら、早めに対応していきましょう。
関連リンク
国税庁「インボイス制度の概要」
国税庁「適格請求書発行事業者公表サイト」
国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」