農業利益創造研究所

農業経営

何が変わる? どうすればいい? 農業における「電子帳簿保存法」

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2023年10月1日からスタートするインボイス制度については、「消費税インボイス制度で農業経営は何が変わるのか?」で詳しく解説させていただきました。では、電子帳簿保存法の制度について皆さんご存知でしょうか。

青色申告特別控除65万円を受けるには、電子申告か電子帳簿保存対応か、どちらかを選択すればよいということは知っている方も多いと思います。実は、2022年1月1日より電子帳簿保存法が改正されて、「電子取引に関するデータ保存の義務化」というルールが2024年1月から実施されるのです。

これについて、具体的に何が変わるのか、どうすればよいのかを確認してみましょう。

青色申告特別控除のおさらい

青色申告特別控除とは、青色申告の際に最大65万円か55万円、あるいは10万円を所得から控除できる制度のことです。例えば65万円が控除された場合、所得税率が20%の方であれば、単純に計算すると控除額がゼロの場合よりも13万円分税金が少なくなります。

以下の表のように、経理の方法や制度への対応の違いにより控除額が変わってきます。

控除額の違いによる要件
青色65万円青色55万円青色10万円白色申告
記帳方法複式簿記単式の簡易簿記
提出書類貸借対照表/損益計算書損益計算書収支内訳書
保存帳簿総勘定元帳/仕訳帳/現金・売掛・買掛帳/固定資産台帳現金出納帳/売掛・買掛帳/経費帳/固定資産台帳収入金額・経費の帳簿(法定帳簿)/任意帳簿
65万円
控除の要件
電子申告、または電子帳簿保存のどちらかを行っている

農業簿記ユーザーの申告方法を調べたところ、65万円控除が一番多くて57.5%、55万円控除は31.8%でした。地域別に見ると、65万円控除が多いのは東海地域、北海道は農業王国と呼ばれていますが意外にも10万円控除の農家が多く、北陸地域は白色申告が多い、という傾向がわかりました。

地域別 白色申告と青色申告特別控除額ごとの比率
白色申告10万円55万円65万円
全国2.3%10.7%31.8%57.5%
北海道0.7%26.2%29.8%44.1%
東北3.0%9.2%32.2%58.6%
北陸3.3%7.0%35.8%57.2%
関東・東山2.4%11.4%35.7%52.9%
東海1.9%4.3%24.7%70.9%
近畿2.0%10.1%33.9%55.9%
中国1.6%3.2%32.8%64.0%
四国2.7%1.3%36.6%62.1%
九州2.7%7.4%26.0%66.6%
沖縄1.9%8.6%25.7%65.7%

※白色申告の比率は個人事業全体の中の比率

やはり少しでも税金が少なくなる65万円控除を目指した方がよろしいかと思いますが、電子申告と電子帳簿保存のどちらかに対応する、という選択はハードルが高いかもしれません。

インターネットで電子申告するのは慣れていない方には難しいかもしれませんが、電子帳簿保存については、電子帳簿保存対応の会計ソフトを使うだけで対応できますので、こちらを選択してもよいでしょう。

電子帳簿保存法とは

青色申告65万円控除に対応するために電子帳簿保存を選択した場合、税務署に届け出をして、保存が義務付けられている帳簿・書類を電子データで保存しなければなりません。

保存する方法は、(1)電子帳簿等保存、(2)スキャナ保存、(3)電子取引データ保存の3種類に分けられます。以下の表のように、紙では無くデータとしての保存が求められます。

(1)電子帳簿等保存

「電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存」
自分が会計ソフト等で作成した帳簿や決算関係書類などをデータのままで保存する

(2)スキャナ保存

「紙で受領・作成した書類を画像データで保存」
相手から受け取った請求書や領収書などを、スキャンして画像データとして保存する

(3)電子取引データ保存

「電子的に授受した取引情報をデータで保存」
領収書や請求書などをメールで電子的に受け取った場合には「電子取引」に該当し、そのデータを紙に印刷して保存するのではなくデータのまま保存する

注意点として、電子帳簿保存を行って65万円控除とするには、税務署に届け出が必要です(詳しくは税務署に確認しましょう)。

「(1)電子帳簿等保存」は、例えばソリマチの「農業簿記」など、電子帳簿保存に対応している会計ソフトを使えば対応済みとなります。「(2)スキャナ保存」については、すべての紙書類をスキャナで読み込んでデータ保存しなければならないわけではなく、あくまでも任意だそうです

「(3)電子取引データ保存」が非常に厄介なもので、これは2024年1月からは義務となり、必ず対応しなければなりません。しかも、「(3)電子取引データ保存」は、電子帳簿保存の届け出を出したかどうかには関係なく、すべての事業所で対応しなければならない、ということです。

この「(3)電子取引データ保存」について、もう少し詳しく見てみましょう。

電子取引データ保存とは

「電子取引データ保存」とは、請求書・領収書・契約書・⾒積書などに関する書類を、メールで送信したり受け取ったりした場合や、インターネット上でしかこれらの書類が見られないような場合は、印刷して紙で保存することはできず、必ず電子的なデータで保存しなさい、というルールです。
※但し、それらの書類がメールで送られてきて、さらに紙でも郵送されてきた場合は、紙の保存でも構いません

青色申告している方がこの対応を怠ると、納税の際に青色申告として認められない場合があります

しかも、このデータ類は「⽇付・⾦額・取引先」で検索できるようにしなくてはいけません。この要件を満たすための具体的な保存方法は、例えばパソコン内の任意のフォルダに保存し、さらに、エクセルソフトで索引簿を作成して、日付、取引先、金額、PDFファイル名、をリスト化して必要な時にすぐ検索できるようにしておけば問題ありません。

もっと簡易な方法としては、請求書PDFのファイル名を「日付-金額-取引先」という探しやすいファイル名にする方法もあります。

まとめ

65万円を控除するために、電子申告に対応できるのであればそれで良いのですが、もし難しいなら電子帳簿保存に挑戦してみてください。

すべての事業所は、「電子取引のデータ保存」に2024年1月から対応しなければなりませんし、一足先に2023年10月からは「インボイス制度」もスタートします。

この電子帳簿保存法の意義は、デジタル化する社会に対応し、経理事務を効率化するためだとということですので、65万円控除のためというよりは、経理業務を取り巻く環境が大きく変わるなかで、時代の流れに適応していくという意識も必要かもしれません。

関連リンク

国税庁「電子帳簿保存法特設サイト
国税庁「電子取引データの保存方法

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。