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都道府県ランキング! 2022年果樹経営の農業所得TOP5

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農業所得の都道府県ランキングシリーズを昨年から発表していますが、野菜経営に続き果樹経営のランキングも調べましたのでご覧ください。

※なお、このランキングはあくまでも『農業簿記』ユーザーの分析結果です。全国の農家全体のランキングとは異なっている可能性がありますので、ご了承ください。

果樹経営の前年比較

では、2022年の果樹経営は良かったのでしょうか、悪かったのでしょうか? 果樹農家1,953件の中で、果樹の有名産地である8県を選び、2021年と2022年の増減率を計算し、グラフにしてみました。

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農産物販売金額と世帯農業所得額ともに、青森県、長野県、山形県、福島県が増加しました。
逆に和歌山県、愛媛県、熊本県が大きく落ち込んでいます。

農林水産省の作況調査によると、2022年のりんごの生産量は2021年に比べ11%増え、サクランボは23%増加、モモも9%増加ということなので、それらの産地は好調だったということです。

しかし、ミカンの生産量が9%減少したので、ミカンの産地の所得が落ちました。果樹はその年の気候や災害に左右されやすいことがわかります。

生産量だけでなく、和歌山県の経費構造を分析すると2021年よりコストが100万円増加していて、動力光熱費と雇人費と荷造運賃手数料が増えていました。

近年の資材価格や燃料、人件費の高騰の影響なのでしょう。これは和歌山県に限らず全国的にコスト増の影響を受けていると思われます。

収入金額 都道府県TOP5

次に、収入金額を都道府県ごとにランキング集計すると、以下のような結果になりました。 (経営体数が30件未満の都道府県はデータの信頼度が低いとみなしてカットしています。)

農家一戸当たりの収入金額平均の1位は、2021年は和歌山県、2022年は栃木県(2,146万円)でした。

栃木県は日本ナシの産地ですが、日本ナシの2022年の生産量は前年より6%増加、和歌山県のミカンは9%減少なので、その差が出たのでしょう。

収入金額
2021年度2022年度
全国平均14,926全国平均14,887
1位 和歌山県21,9211位 栃木県21,468
2位 栃木県20,4762位 和歌山県20,237
3位 大分県18,2233位 福島県18,058
4位 山形県17,6624位 新潟県17,992
5位 熊本県17,2785位 山形県17,575

※金額の単位は千円。

簿記データから県別に農家がどのような品目を生産しているか調べてみると、栃木県は日本ナシ、和歌山県はミカン・ウメ、福島県はモモ・リンゴ、新潟県は日本ナシ・西洋ナシ、山形県はサクランボ・リンゴ・西洋ナシの農家数が多かったです。

世帯農業所得 都道府県TOP5

世帯農業所得では、またもや栃木県が1位で852万円でした。2位は和歌山県で僅差です。2021年も栃木県と和歌山県は1位、2位ですから、日本ナシとミカンは儲かり果実と言えます。

世帯農業所得
2021年度2022年度
全国平均5,357全国平均5,187
1位 和歌山県10,2931位 栃木県8,529
2位 栃木県8,4592位 和歌山県8,166
3位 山梨県6,3623位 福島県6,392
4位 大分県6,3504位 山梨県6,295
5位 福島県6,0595位 新潟県5,637

※金額の単位は千円。

世帯農業所得率 都道府県TOP5

世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)を見ると、山梨県がトップに躍り出てきました。
山梨県はブドウやモモが有名ですが、所得率が高いということは、販売だけでなく経費効率が良い経営を行っているということになります。

また、岡山県がTOP5位に滑り込んできました。岡山県もブドウとモモが有名ですので、もしかしたら、ブドウとモモが所得率の高い果樹なのではないでしょうか。新しい発見です。

リンゴで有名な青森県やミカンで有名な愛媛県がランキングに入っていませんでしたが、どちらも所得率は全国平均程度でした。

世帯農業所得率
2021年度2022年度
全国平均35.9%全国平均34.8%
1位 和歌山県47.0%1位 山梨県44.0%
2位 山梨県45.4%2位 和歌山県40.4%
3位 栃木県41.3%3位 栃木県39.7%
4位 岡山県39.1%4位 長野県37.3%
5位 広島県38.8%5位 岡山県36.7%

下の表は、所得率の高い果樹の品目を6位まで調べてみた結果です。人気の高いシャインマスカットは特別に分けて調べたのですが、案の定所得率46.1%という一番高い儲かり果実でした。ウメも意外と効率が高い作目ですし、ブドウ、モモがやはり高いです。

果樹別の経営内容比較(一農家平均値・所得率順)
収入金額世帯農業所得世帯農業所得率
シャインマスカット15,5297,15746.1%
ウメ16,9267,45944.1%
ブドウ14,4565,96741.3%
スモモ12,3414,94740.1%
モモ13,1394,94337.6%
日本ナシ15,2615,70637.4%

※金額の単位は千円。

3県の果樹農家の特徴

所得率ランキングTOP3の県は経費構造に何か特徴があるのか、収入金額を100とした各費用金額の比率で比較してみました。

それぞれの県は得意とする果樹が色々ですので、単純に比較しても特別な特徴は見出すことは難しいようです。参考程度に見てください。

2022年度 収入金額を100とした比率の比較
山梨県和歌山県栃木県全国平均
肥料費2.4%4.3%3.4%3.1%
農薬衛生費3.4%4.7%5.4%5.7%
諸材料費4.6%3.1%3.6%4.1%
動力光熱費4.4%3.8%4.2%4.9%
減価償却費6.1%7.1%8.4%7.1%
雇人費5.8%8.3%5.2%6.9%
荷造運賃手数料14.4%12.6%14.3%15.7%

まとめ

果樹経営の都道府県ランキングを調べましたが、山梨県、和歌山県、栃木県が果樹の産地として優れていることがわかりました。

農林水産省の資料では、果樹の栽培面積は年々減少し、生産量や流通量も減っているが、需要が高いので卸売価格は上昇傾向で推移しているそうです。

近年、おいしい新品種や消費者ニーズにあった高品質な国産果実が生産されるようになってきましたので、まだまだ果樹経営は伸びていくと思われます。今後も都道府県ランキングから見える農業生産の動向を注視していきましょう。

関連リンク

農林水産省「作況調査(果樹)

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、2022年度の世帯農業所得率を樹種別にみると、TOP3は、シャインマスカットが46.1%で第1位、ウメが44.1%で第2位、ブドウが41.3%で第3位であることが明らかになりました。

世帯農業所得率の高低は、販売面と生産面の要因があります。生産面の要因は、生産コストです。収入金額が同じであれば、経営外に支払う肥料や農薬などの資材費、電気や軽油などの動力光熱費、機械や設備の減価償却費などが下がれば、所得率は上昇する傾向があります。

一方、生産コストや収量が同じであれば、生食用の果実やジュースなどの加工品などの販売価格が上昇すれば、所得率は上昇する傾向があります。ここ数年は、資材費や動力光熱費の高騰が社会的な関心を集めるほど、生産コストは上昇傾向があります。このため、所得率の上昇の主要因は、果樹経営の収入の増加が背景にあると思われます。

世帯農業所得率の樹種別TOPのシャインマスカットは、消費者の人気が高く、需要が好調で、高価格の販売が期待できるといわれています。ただし、シャインマスカットへ転換する果樹農家も多いので、数年後のシャインマスカットの所得率がどうなっているか、気になるところです。

果樹は、収穫ができるようになるまでに年数を要し、毎年の生産量を制御することは困難ですので、他作物よりもさらに長期的な観点から経営戦略を策定することが重要になります。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。