
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2023年の12月に農林水産省から発表された米の作況調査で、10a当り収穫量が一番高い都道府県はどこなのか、と見ていたら青森県と長野県が同じ614Kgで1位でした。
青森県は米どころというイメージがありますが、長野県が1位というのは少し意外です。しかも、一等米比率も調べたところ長野県は岩手県に次ぎ、わずかな差で2位でした。
収量が高く、しかも品質も良いお米を作っている長野県は、米どころと言って良いのではないでしょうか。そこで長野県の農業簿記ソフトユーザー稲作農家59件の経営を調べてみました。
長野県のお米の特徴
2023年農林水産省の作況調査によると、主なお米産地の10a当り収量は以下のグラフの通りです。2020、2021年度は青森県や山形県が上位だったのに、徐々に長野県が上がってきています。
また、2023年度の1等米(粒がそろいきれいな米)比率は、岩手県が91.5%、長野県91.2%、千葉県87.6%であり、なんと新潟県は15.6%です。収量や等級の変化は、おそらく温暖化の影響を受けているのではないかと推測できます。
日本穀物検定協会の資料では、長野県は今まで食味が優れている「特A」ランクのお米がなかったのですが、2023年度は、長野県北信と東信地域のコシヒカリが「特A」に上がりました。
長野県のホームページを見ると、お米がおいしいのには以下の理由があると書かれています。
●周囲を高い山々に囲まれ、冷涼で降水量が少ないことから、病害虫の発生が少ない
●昼夜の温度差が大きく、お米の美味しさを決める「デンプン」が光合成で効率よく蓄積できる
●山々の雪どけ水を源流とするやわらかで清らかな水
こうして見ると、長野には米どころになる条件が揃っているといえるでしょう。長野のお米を食べてみたくなりますね。
長野県の稲作経営の特徴
次に農業簿記ユーザーのデータを分析し、長野県と新潟県と秋田県の稲作農家の経営概要をグラフにしてみました。
収入金額は長野県が1,800万円と一番高く、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)も470万円、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額×100)は26.2%と、一番良い経営内容です。
所得率が高いということは、長野県の稲作は売上が高いか、もしくはコストが低いか、その両方か、という高効率な優良経営であると言えます。
それでは、長野県稲作経営は、売上の内訳に何か特徴があるのでしょうか。
販売金額計の中の稲作以外の販売比率を調べたところ、長野県は野菜、果樹、花き、その他、がそれぞれ高い比率で販売されていることがわかりました。
(稲作の販売比率は、長野県は79%に対して、新潟県は93%です)
つまり、長野県の稲作経営は複合経営型であり、しかも野菜だけなく果樹や花きという多様な作目を作付けているのです。
ちなみに、長野県の稲作経営で世帯農業所得率が30%以上の高所得率経営の第2作目を調べたところ、以下の図のように、転作作目の麦と蕎麦が多くて果樹や花きもありますが、何と言っても野菜のブロッコリーが多いことが特徴的です。
ブロッコリーは2026年から指定野菜になりますが、長野県では儲かる第2作目として、すでに注目されているようです。

長野県と新潟県を比較
それでは次に、複合経営の長野県と稲作主体の新潟県の費用構成に違いはあるでしょうか。
販売金額を100とした各費用の比率を、長野県と新潟県とで比べてみました。
長野県の方が低い費用
・農薬衛生費(長野県は涼しくて日射量も多いので病害虫が少ないからか)
・地代賃借料や土地改良費(新潟県は基盤整備が進んでいるからか)
長野県の方が高い費用
・減価償却費が少し高い(野菜や果樹の機械や施設があるからか、修繕費も高い)
・雇人費(野菜、果樹で人手がかかるからか)
複合経営の稲作経営と稲作主体の経営と、どちらが良いということは一概に言えませんが、費用構成に違いがあることがわかりました。
一般的に農業所得は、「販売金額(数量×単価)-生産コスト」という公式が成り立ちます。
(1)稲作メインで規模拡大指向の経営は、収量増で販売金額を上げる+固定費コストの減少
(2)複合経営指向の経営は、多様な作目で販売金額を上げる+農機具や雇人費が増加する場合もある
長野県の場合は(2)の経営ですが、地域性を生かした米の収量増、多様な作目の売上、品質向上による単価アップ、様々な点で優れているのです。
いずれにしても、(1)(2)どちらか択一にしなくてはならないわけでなく、気候や地域に合わせてどちらにウエイトを置くかのバランスを工夫することが重要です。
まとめ
今回は長野県の米の収量と品質がともに高い、という事実から分析してみましたが、すでに多くの人が知っているわりと当たり前の分析結果になったという印象があります。
ただ、あらためてそれをデータで確認したことで、長野県のお米の良さを再認識することができました。JAの方は地域のブランド化、農家は経営バランスの再検討、を意識するきっかけになってもらえればと思います。
関連リンク
農林水産省「作況調査」
農林水産省「米穀の農産物検査結果」
日本穀物検定協会
長野県「長野県のお米情報」
南石名誉教授のコメント
農業を工業と比較すると、農業の方が地域の地形や気象の影響を受けやすい傾向があります。農業の中でも、水稲や露地野菜等は、施設園芸や植物向上に比較すると、これらの影響を強く受けます。
今回の分析対象の長野県と新潟県は隣接していますが、農作物を栽培する自然環境はかなり異なっています。地域の自然環境や資源を最大限有効活用することで、持続可能な営農が可能になります。
農業分野では、古くから適地適作の重要性が指摘されてきました。気候変動により地球規模の異常気象が各地でみられますが、地域の農業環境にも様々な影響を及ぼします。こうした自然環境の変動により、適地適作の具体的な場所や作目も変化していきます。米どころもその例外ではないのかもしれません。

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