農業利益創造研究所

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ブランドの山形 vs コストの北海道 サクランボ経営、勝つのはどっち?

個人情報を除いた2025年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家20,292人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

このコラムを執筆しているのは6月です。知人からもらったサクランボを食べながら、「気候変動により、近年サクランボの収穫量が減っている」というニュースを思い出しました。

調べてみると、2023年の夏の猛暑の影響と、2024年の春先の霜被害により、山形県の収穫量は過去半世紀で最低水準まで落ち込んだそうです。翌2025年も天候不順や受粉不良に見舞われ、サクランボは2年連続の不作傾向となりました。

マクロな収穫量の減少は報道の通りですが、実際のサクランボ農家の個々の経営はどうだったのでしょうか。

今回は、農業簿記データの中から37件のサクランボ農家を抽出し、その経営実態を分析してみました。

サクランボ収穫量ランキングと3年推移

農林水産省の統計によると、近年の主要産地におけるサクランボ収穫量の推移は以下の通りです。やはり山形県がダントツのシェアを誇り、北海道、山梨県、秋田県と続きます。

山形県が圧倒的な銘柄産地であることは広く知られていますが、北海道も有力な産地であることは意外と知られていないかもしれません。

山形県のサクランボは6月中旬~下旬に収穫のピークを迎えますが、北海道は7月上旬~中旬と時期が後ろにずれます。これがちょうど「お中元」の時期と重なるため、ギフト市場において北海道産は大きな強みを持っています。

サクランボの収穫量の3年推移
2023年 2024年 2025年
山形県 13,000 8,590 8,310
北海道 1,470 1,160 1,120
山梨県 897 468 546
秋田県 420 250 191

※重さの単位はt(トン)。

収穫量の3年推移をみると、2023年は平年並みだったものの、2024年から急激に落ち込んでいます。

2023年の収穫量を100とした場合の2025年の指数は、山形県が64、北海道が76、山梨県が61、秋田県が45という厳しい結果でした。

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2024年は春先の凍霜害や開花期の天候不順が全国的な不作を招き、2025年は前年の猛暑による花芽形成不良や、当年の高温障害が大きく響いた形です。

これだけ収穫量が減れば、農家の経営もさぞ厳しい状況にあると予想されます。しかし、データを紐解くと意外な事実が見えてきました。

サクランボ農家の経営内容

それでは、農業簿記ユーザーの中から抽出した、山形県(18件)と北海道(6件)のサクランボ農家の経営データを分析してみましょう。

驚くことに、山形県のサクランボ経営における「販売金額」を見ると、収穫量が大きく減っているにもかかわらず、売上はさほど減少していません。

これには、生産者が栽培技術の工夫で収穫量の減少を最小限に食い止めたか、あるいは市場の供給減に伴う単価上昇の恩恵を受けたか、のいずれか(あるいは両方)が考えられます。

結果として、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)も減少していません。

もう一つ注目すべきは「雑収入」の動きです。2023年は約96万円だった雑収入が、不作となった2024年以降は200万円台へと倍増しています。雑収入の主な内訳は補助金や共済金であるため、不作に対する手厚い支援策や経営安定対策が機能したと推察されます。

山形県のサクランボ経営の3年間推移
2023年 2024年 2025年
収入金額 18,422 20,103 22,336
 販売金額 17,378 17,841 20,326
 雑収入 967 2,162 1,903
経営費 計 13,178 13,692 15,912
世帯農業所得 5,244 6,411 6,424
世帯農業所得率 28.5% 31.9% 28.8%

※金額の単位は千円。

一方、北海道のサクランボ農家の特徴は、世帯農業所得額が約700万~800万円、所得率が30%以上と高く、山形県に比べて経営効率(収益性)が良い点にあります。

しかし、2024年は販売金額が落ち込んでいるにもかかわらず、雑収入は増えていません。
山形県ほどの強力なセーフティネットや気候変動対策の支援が、まだ十分に届いていない可能性がうかがえます。

北海道のサクランボ経営の3年間推移
2023年 2024年 2025年
収入金額 26,183 23,245 24,563
 販売金額 25,370 22,664 23,696
 雑収入 783 485 712
経営費 計 18,015 16,147 16,266
世帯農業所得 8,168 7,097 8,297
世帯農業所得率 31.2% 30.5% 33.8

※金額の単位は千円。

産地全体の収穫量が減少したにもかかわらず、なぜ山形県の農家は販売金額や農業所得を維持、あるいは伸ばすことができたのでしょうか。理由は大きく3つ考えられます。

① 産地一体となった技術指導と品種更新
県やJA、試験場が一体となってサクランボ生産をバックアップしており、2023年の猛暑直後から対策技術を研究し、生産者へ迅速に指導しました。
また、山形県では以前から「やまがた紅王」をはじめとする高温に強い新品種への更新を戦略的に勧めていました。

② セーフティネットへの高い加入率
山形県は果樹共済や収入保険への加入率が高く、不作の年でも共済金等の補填によって農業所得が大きく落ち込むのを防ぎました。

③ 圧倒的なブランド力による価格転嫁
「サクランボといえば山形」という強固なナショナルブランドがあるため、全国的な品薄状態において市場単価が跳ね上がり、収量減少による損失をカバーできました。
これらが見事に噛み合い、山形県が長年培ってきた「産地ブランド」と「支援体制」が、災害に強い足腰の強い経営を支えていることがわかります。

山形県と北海道の経営比較

山形県と北海道のサクランボ経営を、さらに深掘りしてみましょう。

双方の地域から、収入金額約2,500万円の同規模な経営体を6件ずつ抽出し、2025年の平均値を比較しました。

世帯農業所得を見ると、山形県の572万円に対し、北海道は829万円と、約250万円もの開きがあります。

同規模の売上でありながら経営費に約280万円の差があり、北海道のコストパフォーマンスの高さが際立っています。

2025年 山形県と北海道の同一規模経営の比較
山形県 北海道
収入金額 24,829 24,563
 販売金額 23,410 23,696
 雑収入 1,249 712
経営費 計 19,103 16,266
世帯農業所得 5,727 8,297
世帯農業所得率 23.1% 33.8%

※金額の単位は千円。

そこで、販売金額を100とした場合の各費用の比率をグラフ化し、コスト構造の違いを分析しました。

北海道の経営費が低い最大の理由は、「諸材料費」と「動力光熱費」が圧倒的に抑えられている点にあります。

山形県では、冬の豪雪から果樹を守るための頑丈なハウス(雨よけ施設)の設置・維持に諸経費がかかるほか、市場へ早期出荷して高単価を狙うためにハウス内の暖房を稼働させています。近年の燃料費高騰も手伝い、この動力光熱費が経営を圧迫する要因となっています。

対する北海道は、自然の気候を活かして7月以降に収穫する露地中心の栽培モデルであるため、暖房費などのエネルギーコストがほとんどかかりません。
この栽培暦(サイクルのズレ)が、そのまま高い収益性へとつながっています。

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まとめ

今回の分析から、コストパフォーマンスや収益性の面では北海道が優れていることがわかりました。

しかし一方で、ブランド力と手厚いサポート体制を持つ山形県には、気候変動という危機に対しても経営を維持できる高い復元力(レジリエンス)があります。
今後も両産地は競い合いながら、美味しいサクランボを全国に届けてくれるでしょう。

これからのサクランボ経営、ひいては果樹経営においては、
〇猛暑や降雨に強い「耐候性品種」への転換
〇気象変動リスクを技術で回避するための設備・栽培手法への投資
〇不作時の経営破綻を防ぐ「収入保険や共済」の活用強化 が不可欠です。

これはサクランボに限った話ではなく、地球温暖化と向き合う現代の農業経営全般において、極めて重要な共通課題と言えるでしょう。

関連リンク

農林水産省 作況調査(果樹)

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、サクランボ経営の地域的な特徴が明らかになりました。

代表的な主産地の山形県と北海道では、収入金額が2,500万円規模の経営でも、経営費計は山形県が約1,900万円、北海道が約1,600万円と、かなり開きがあることが確認されました。

これは両地域の気候の違いによる栽培方法の違いが大きく影響していると思われます。また、山形県の方が北海道よりもサクランボのブランドが確立されており、サクランボの単価は山形県の方が高い傾向があります。販売金額が同じなら、単価の高い山形県の方が栽培面積は少ないため、生産の規模は北海道の方が大きいとも考えられます。

こうした背景から、露地栽培が大規模にできる北海道の方が、世帯農業所得や農業所得率などで見た収益性が高いことも明らかになりました。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。