
個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
気になる農家ランキング特集! 今回は、「収入金額に対する世帯農業所得率」を比べていきます。(世帯農業所得=農業所得+専従者給与)
「農家の所得が高い都道府県はどこ?」というコラムでは、「全国で最も世帯農業所得額が高い都道府県は北海道」という結果が出ました。
それでは、収入金額に対する世帯農業所得率も、同じく北海道が一位なのでしょうか?
栃木・島根・宮城県が北海道を凌ぐ
※所得率=世帯農業所得÷収入金額(販売金額+雑収入)
こちらは稲作を主とする専業農家を対象に、所得率を算出したランキングです。
堂々の1位は、所得率31.2%の栃木県! 栃木県は「世帯農業所得ランキング」でも4位を獲得していました。
2位は所得率31.1%の山形県です。数字としては1位とほぼ同率で、どちらも所得率3割以上と非常に優秀です。
3位は所得率29.8%の島根県、4位は所得率29.4%の宮城県です。この2県は「世帯農業所得ランキング」では圏外でトップ5には入っていませんでしたが、所得率ではランクインしています。
北海道は「世帯農業所得ランキング」では断トツの1位を記録していましたが、所得率では29.0%で5位でした。(北海道以外の平均である)都府県平均の27.3%と比べると上回ってはいるものの、他の4県よりも下回る結果です。
それでは、これらの地域における高所得率の「秘訣」はなんでしょうか? ベスト3に入った栃木県、山形県、島根県のデータを詳しく分析したところ、特徴が2通りに分かれました。
パターン1 :転作による雑収入を得る
一つ目は、積極的な転作によって雑収入を得ることで利益としているタイプです。1位の栃木県と3位の島根県が該当しています。
こちらのグラフを見てください。実は、この2県は販売金額の合計が経費を下回っていて、本業の作物販売では赤字なのです。
しかし、収入金額に占める雑収入の割合が30%超(全国平均:26.6%)と高く、実際に雑収入を加えた収入全体の金額は、経費を大きく上回っています。結果として利益も出ていて、全国有数の高い所得率を誇っているのです。
この「高い雑収入」を得ている理由は、転作作物の作付です。
栃木、島根県の田畑全体に占める麦・大豆の作付面積の割合は、いずれも全国平均(麦7.8%、大豆3.9%)よりも高くなっています。
麦、大豆を作付けると、認定農業者ならば「水田活用の直接支払交付金」を得られますから、この交付金が高い雑収入を支えている一要素であることは、間違いないでしょう。
また、この2県の違いを分析すると、販売金額に対する地代・賃借料の割合が目立ちます。栃木(12.7%)は全国平均(9.9%)より高く、島根(6.9%)より低くなっています。
栃木県の農家は、多くの雑収入を得るために、農地を積極的に借りて転作作物を作付けている、と推測できます。
もちろん島根県も転作を行っているはずですから、地代・賃借料が低いのならば、自己所有の土地が広いか地代が安いかのどちらかでしょう。
パターン2: 主食用米に絞る
二つめは、主食用米に絞って経費を抑え、雑収入に頼らずに利益を上げるタイプです。2位の山形県が分類されます。
山形県は、販売金額に対する経費合計の割合が84.6%で、全国平均の99.6%を大きく下回っています。つまり、栃木県や島根県とは違い、作物販売だけで利益を出すことに成功していて、作物販売だけでも約15.4%もの所得率を実現しています。
費用面を見てみると、特に販売金額における材料費の割合が19.2%(全国平均25.2%)とかなり低くなっています。
苗・種は大量に仕入れるほど単価が安くなるので、稲作一本に絞った結果、苗・種の単価が下がっているのかもしれません。その他の経費項目についても、稲作一本に絞った結果、経費が抑えられている可能性は考えられるでしょう。
収入金額に占める雑収入の割合は16.7%と低くなっています。栃木県・島根県の分析と合わせて考えると、山形県では田畑の8割が主食用米にあてられているので交付金が少なく、結果として雑収入が少ない、と推測できます。
最初に示した全国2位の所得率という実績が示すように、山形県は稲作一本に絞っても、本業で十分に利益を出せているのです。
実は、山形県の飼料用米を除く稲の作付面積は992.7aで、全国平均の1111.4aを下回っています。しかし、10a当たりの販売金額に換算すると約13.3万円で、全国平均の11.8万円を上回ります。
※稲作付面積、10a当たり稲販売金額は飼料用米を除き集計
※稲作付面積、10a当たり稲販売金額は飼料用米を除き集計
全国的に有名な「コシヒカリ」や最近話題になった「つや姫」など、山形県は高価格帯のブランド米生産に力を入れています。商品に付加価値をつけて高く売れば利益が出る、というのは商売の基本ですが、こういった努力が実って、所得率全国第2位の成果につながっているのでしょう。「小さく、その分丁寧に」が、山形県の稲作農家の信条なのかもしれませんね。
南石教授のコメント
所得は、多くの場合、経営規模により増加しますが、労働時間も増えて忙しくなる傾向があります。
同じ売上(収入)でも、コストを抑えて価格の高い農作物を栽培したり、新たな販路を開拓したり、農産加工などの付加価値を付ける工夫をすることで、所得を増加させることができます。
こうした戦略で所得率を向上できれば、働き方改革をしながら、所得向上が目指せます。