農業利益創造研究所

機械・設備

機械化による大規模ニンジン経営の可能性を探る

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

近年、天候不順や猛暑などにより野菜の出荷量が減少し価格が高騰しているというニュースが増えました。

値上がりした野菜の中で、今回は2024年6月に価格が48%増になったニンジンについて分析してみましょう。ソリマチ農業簿記ユーザーの中から、2023年のニンジンを主幹作目として栽培している農家37件の経営を探ります。

ニンジン主要産地の経営は

農林水産省の作況調査によると、ニンジンの都道府県別収穫量ランキングは、1位北海道、2位千葉県、3位徳島県です。この3道県で全体の半分以上の収穫量を占めています。

農業簿記ユーザーの3道県の経営内容を以下の表のように集計しました。

主要産地別 経営内容
北海道千葉県徳島県
収入金額108,36422,28543,677
経営費 計82,16615,59335,695
世帯農業所得23,3916,6927,982
世帯農業所得率21.6%30.0%18.3%
建物・構築物 資産額11,1854,30314,425
農機具 資産額18,9144,5196,761
借入金44,2911,9529,019

※金額の単位は千円。

北海道は収入金額1億円の大規模経営で、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)は2,339万円という高額所得です。

千葉県は収入金額2,228万円で小規模経営が多いのですが、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額X100)は30%と高くなっており、効率の良い経営が多いです。徳島県は収入金額4,367万円と中規模経営で798万円の所得金額ですが、所得率は三県の中でもっとも低くなっています。

固定資産額を見ると、北海道と徳島県が高額です。借入金は北海道が4,429万円と一番大きく、ちょっと心配になる金額です。

いずれにしても、野菜経営の世帯農業所得の全国平均は645万円ですから、それを上回っている3道県でのニンジンは儲かる野菜と言えます。

ニンジン主要産地の月別販売

ニンジンはいつスーパーに行っても売られています。どの季節でも、全国どこかの地域で栽培されていて、さらに保存が効く野菜ですから年間通して販売できるのだと思います。

簿記データを集計し、3道県の月別販売金額割合(販売金額合計の月別割合%)をグラフにしてみました。

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春は徳島県のニンジンが出回り、初夏と冬は千葉県、秋から年末にかけては北海道産が販売されしています。この3つの産地の販売時期がずれることで、ニンジンの通年供給が確保されているのです。うまくできていますね。

販売金額というのは、収穫量×単価ですから、単価についても見てみましょう。ニンジンの3年間の月別販売単価(東京都中央卸売市場のデータ)をグラフにしました。2022年は単価が低いですが、年々上昇しています。

2023年は、9月・10月に出荷した産地が儲かったのではないでしょうか。2024年は、4月・5月が非常に高くなっています。よって2024年のニンジン経営は徳島県農家の農業所得が上がっているのではないかと予想できます。

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ニンジン主要産地の費用構成

3道県の販売金額を100とした各費用の比率をグラフにしました。これにより、産地による各費用科目の違いがわかります。

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千葉県と徳島県は大して差がありませんが、徳島県は雇人費が高いです。大規模経営である北海道は、肥料費、農薬費、地代賃借料が非常に高いですが、雇人費が少ないことに気づきます。

北海道の雇人費と地代賃借料のこの差には何か理由があるのでしょうか。

北海道のニンジン大規模経営をインターネット等で調べていると、JAおとふけで行っている「作業受委託方式」という方法があることを見つけました。

この方式とは、播種、培土、収穫などの作業を、JAが生産者の代わりに作業を行うというものだそうです。

JAが機械を所有し作業を行うことで、農家は機械導入コストが不要で、ニンジンの収穫時期が忙しくないので、他作物の複合経営による所得増大を図ることができるということです。
実際、ニンジン以外にジャガイモやテンサイを作付けしている農家も多く見られました。

北海道ではこのような方式が広く行われていることで、賃借料(委託費)が増えますが、雇人を少なくすることができ、大規模で効率的なニンジン栽培が行えるのです。

今後農家が減少していく中で、担い手農家が大規模化を進めやすくなる一つの方式であると言えます。

まとめ

ニンジンは野菜の中でも機械化しやすく大規模経営が行えます。さらに高価な機械が必要な作業をJAが行う方式があることもわかりました。

近年はお米不足で価格が上がり大変な状況ですが、機械化・大規模化が行えるニンジンは気象による収穫減リスクがあるにせよ、安定した供給が期待できそうです。

昔は子どもの嫌いな野菜の代表格と思われてきたニンジンですが、最近は独特のにおいも少なく甘くなり、加工品も増えてきています。ニンジンをもっと食べましょう!

関連リンク

農林水産省の作況調査(野菜)
人参(JAおとふけブランド)

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、ニンジンの主要地域の経営概要が財務面から明らかになりました。多くの作物で機械による大規模経営が多い北海道は、ニンジンにもあてはまる結果でした。

興味深い点は、主要機械作業を作業委託することで、機械の減価償却費を抑えながら栽培面積の拡大を行っていることです。

海外では、コントラクターに農作業を委託(外注)することがしばしばみられます。「contractor」には、契約者や請負業者といった意味があり、農業経営は請負業者と作業委託の内容や料金に関する契約締結を行い外注します。これにより、農業経営は、固定費に区分される機械・施設の減価償却を減らすことができます。

その一方で、変動費に区分される作業委託料の支払いが必要になりますが、経営環境の変化等に臨機応変な対応が可能になります。

土地利用型農業では、作付面積の拡大には大型機械の利用が必要になりますが、今回の分析は、機械の購入ではなく作業委託が有効な選択肢になることを示しています。機械作業を受託してくれるコントラクターの育成を如何に進めるか、これも地域農業の持続的発展の課題です。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。