
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
「物流の2024年問題」をご存知でしょうか。2024年4月1日からトラックドライバーの年間の時間外労働時間(残業時間)の上限が960時間までに規制されることによって生じる様々な問題のことです。
ドライバーの労働時間が減ることにより、運送会社の利益の減少、ドライバーの給与の減少や離職等がおこるのではないかと言われています。
農産物は全国の地方で生産され、鮮度を保ちながら運ばなければならない物ですから、物流問題は今後の農業界に大きな影響を及ぼすかもしれません。農業簿記データから農産物の運賃について分析してみたいと思います。
2024年問題とは
2024年問題をもう少し調べてみましょう。総務省の調査では、令和3年において、運送会社の21.7%が年間960時間以上の残業をしています。つまり、この規制によってそれらの会社は労基法違反となってしまいます。日本の輸送は残業で成り立っていたのです。
労基法違反を避けるには、どうにかして残業時間を減らすしかありません。ドライバーが残業できないことによりどのようなことが予想できるかというと、
①ドライバーの残業が減り賃金も減ることになるが、運送会社としては退職して欲しくないので給与を上げざるを得なくなる。
②ドライバー1人の運ぶ量が減り運送会社の売上と利益が減る。
結局、これらの理由で運送会社は運賃を値上げすることになります。
一般消費者への影響は、送料が高くなるということと、翌日配送や時間指定が難しくなるということが考えられます。実際に、佐川急便は個人向けの宅配便の基本運賃を2024年4月から平均で約7%上げる、と発表しています。
農業への影響
この2024年問題は農業にどのような影響があるでしょうか。運送費の価格上昇と、新鮮な農産物をタイムリーに輸送できるのか、という問題が想定できます。
現状の輸送方法は、米であれば、JAの集荷場から精米卸の倉庫まで、1台のトラックで一気に輸送するケースが多く、青果物流通は、1台のトラックがJAを回って集荷し、中継地点に集めて、さらにトラック輸送で各市場に運ぶそうです。
一気に輸送する場合は、残業しないようにどのように運ぶか、中継地点に集める場合は荷物の積み下ろしの時間の省力化が課題になります。
荷造運賃手数料の金額は
現在、農家の運賃費用は、農産物のコストの中でどれくらいを占めているのでしょう。簿記ソフトの青色申告決算書の「荷造運賃手数料」科目の金額を集計してみました。しかし、荷造運賃手数料には、運賃以外にも、JAへの手数料や梱包費など含まれていますので、大まかな傾向を見るという意識で見てください。
主幹作目別(稲作、野菜、果樹、花の中から)に、農家一戸当たりの荷造運賃手数料の平均を集計したら、以下のようなグラフになりました。
ジャガイモは北海道の農家が多く、もともと販売金額平均が3,500万円もあるので荷造運賃手数料も高くなっていますが、各作目によって、荷造運賃手数料の金額は様々であることがわかります。
わかりやすいように、農産物販売金額を100とした荷造運賃手数料の比率を計算しグラフにしてみました。稲作は販売金額に対して6.2%という低さであり、最高はトマト農家の21%です。
ちなみに、全費用科目の比率を算出したところ、稲作は減価償却費が一番高かったのですが、稲作以外の作目は、荷造運賃手数料の比率が一番高いのです。例えば、ジャガイモ農家の2番目は肥料費で13.9%、トマト農家の2番目は動力光熱費9.1%です。
費用の中で荷造運賃手数料のウエイトが高いということは、もし運賃費用の値上がりがあった場合は、生産コストの大幅アップにつながってしまいます。
また、九州地域のトマト農家の荷造運賃手数料の比率は、以下の表のように高くなっており、運賃の値上がりは地域格差を大きくすることになります。
| 比率 | |
|---|---|
| トマト(全国平均) | 21.0% |
| トマト(九州地域) | 23.4% |
対応方法
農産物を直接消費者に宅配便を使って送る場合は、送料値上がり分を消費者に負担してもらうケースが多いと思います。しかし、JA等に出荷した場合はどうなるかはまだわかりません。
農業協同組合新聞の中の記事によると、JA全農では、米・麦・大豆のような農産物を遠距離から都会に運ぶ際は、鉄道(JR貨物)や船舶等へのモーダルシフトを促進しようとしています。
また、生産地から消費地へのノンストップ輸送ではなく、中継地点にワンストップして、一時的な保管を伴う輸送(ドライバーは休憩して出発では無く、交代する)に変更していくようです。
さらに、荷物の積み下ろしの時間削減も重要で、国土交通省によると、ドライバーの1日の平均労働時間は約12時間半であり、このうち約1時間半を荷物の積み込みといった荷役作業が占めているとのことです。
まとめ
2023年12月に東京商工リサーチの調査によると、2023年の道路貨物運送業の倒産は、件数が287件(前年同期比31.6%増)と急増しているとのことです。原因は、燃料費の高騰などによる「物価高」倒産と、ドライバー不足による「人手不足」倒産です。
このような情勢の中で、輸送の効率性を高めるために最新技術を活用する試みも出てきています。例えば、高速道路区間は「ダブル連結トラック」を導入し、1人のドライバーが2台分の荷物を運ぶように検討しているメーカーもあります。将来的には、AIによる自動運転トラックも開発されると思います。
さらに、すべてのトラックや荷物、荷受けのスタッフなど、あらゆる物をAIを活用して最適な流れにすることも可能になってくると思われます。問題が起こった時にこそ、それを改善するために新しい技術や仕組みが生まれてくるものです。今後に期待しましょう。
関連リンク
農林水産省「食品等の流通の合理化について」
農林水産省「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」
農業協同組合新聞「全農物流の戦略を聞く」
東京商工リサーチ「道路貨物運送業の倒産、年間件数は過去10年で「最多」の可能性 1-11月累計287件」
南石名誉教授のコメント
今回の分析によって、全費用に対する各科目の比率を算出したところ、「稲作以外の作目は、荷造運賃手数料の比率が一番高い」ことが明らかになりました。荷造運賃手数料の割合が一番高いトマトでは21.0%、二番目に高いキャベツでは20.1%、これにモモの18.5%、リンゴの17.0%が続いています。
農家からみれば、仮に、荷造運賃手数料が掛からない販売方法があれば、これらの経費が節約できることになります。リンゴ、モモ、トマトでは観光農園が思い浮かびます。キャベツはそうした需要が小さいためか観光農園は耳にしませんが、農家の庭先販売や産直販売所は、荷造運賃手数料を節約できそうです。
都市での大量消費に対応するためには、荷造や輸送に手間と時間を要する農産物では、どうしても経費が掛かってしまいます。今回のテーマは、フードマイレージの議論ともかかわり、奥が深い問題と言えます。
※フードマイレージとは、「食料の輸送量(t)」と「輸送距離(km)」をかけあわせた指標であり、これが大きいほど多くのエネルギーを消費し、二酸化炭素の排出量も増加します。
