
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農林水産省の2023年12月「⽶に関するマンスリーレポート」によると、ネットで「おにぎり」の検索が上昇していたそうです。
これは、個性的な専門店の登場や、訪日観光客がおにぎりを楽しむ様子などを各メディアが報道したことが背景にあるようです。お米の消費量が減少している中でお米を使った食べ物の人気が高まるのは喜ばしいことです。
しかし、明るいニュースばかりではありません。2023年は猛暑の影響により、一部の産地でお米の高温障害が発生しました。これによって、稲作農家の経営も打撃を受けているのではないかと推察されます。
ここで2022年の経営データをもとに2023年のお米の取引価格や資材の価格から計算し、2023年の稲作経営がどうなるかの予測をしてみたいと思います。なお、これはあくまでも2022年の経営データを元にした予測ですので、実際の2023年の経営データとは異なっている可能性があります。
お米の消費量と収穫量
みなさん、お米はいつもどれくらい食べているでしょうか?農林水産省2022年「食料需給表」によると、1人当たりのお米の消費量は50.8kgであり、昭和37年のピーク時の半分です。様々な食材が日本に入ってきて食が多様化し、主食であるお米の消費量が減ってしまったのではないかと考えられています。
水稲の作付面積も、2023年は134.4万haで前年に比べ1.1万ha減少しています。全国の10a当り収量は533Kgとのことなので、前年に比べ10万トン減っている計算です。
2023年のお米の作況指数は全国平均で101という結果でしたが、地域によっては夏の高温障害により、白濁、胴割れ、未熟のお米が増えて1等米が激減しました。お米の代表的な県である新潟県の作況指数は95と全国で一番低くなりました。(美味しさは変わらないとのことですが)
米の値段と生産資材はどうなった
農林水産省の資料から、米の相対取引価格のTOP7を表にしてみました。新潟県の魚沼コシヒカリが60Kg当り2万円でトップです。他は、山形県や山梨県、北海道がランクインしています。お米は気温の寒暖差があると美味しくなると言われていますが、産地によって米価に大きな違いがあることがわかります。
| 銘柄 | 価格(60Kg) |
|---|---|
| 新潟コシヒカリ(魚沼) | 20,851円 |
| 山形つや姫 | 18,784円 |
| 山梨コシヒカリ | 17,662円 |
| 新潟コシヒカリ(佐渡) | 17,507円 |
| 新潟コシヒカリ(岩船) | 17,432円 |
| 新潟コシヒカリ(一般) | 17,208円 |
| 北海道ゆめぴりか | 16,873円 |
| 全国平均 | 15,181円 |
下のグラフは、5年前からの米価の推移です。2021年がかなり下がりましたが、2023年は上がっています。原因としては、コロナ禍が落ち着いた後の外食需要の増加、2022年産米の民間在庫量の減少、これらの需供バランスの関係によって値上ったと言われています。
※農林水産省「米に関するマンスリーレポート」の2023年10月の相対取引価格から引用
米価の値上がりは稲作農家にとってはうれしいですが、近年は農業資材も値上がりしています。以下のグラフは、肥料と農薬の価格指数です。肥料は2020年から1.5倍、2022年から1.14倍に上がりました。燃料代も上がっていると言われていますが、2022年と2023年ではあまり変化はありませんでした。
2023年の稲作農家の経営を予測する
2022年の稲作農家2,908件の簿記データから、全国平均の実績に米価と資材の価格指数をかけて予測額を求めると、以下の表のようになりました。費用は34.8万円増加しますが、米価アップのおかげで収入が96.6万円上がり、世帯農業所得は61.8万円増える予測となりました。
| 2022年全国平均 | 増加率 | 2023年予測金額 | 差 | |
|---|---|---|---|---|
| 米の販売金額 | 9,658 | 110% | 10,624 | 966 |
| 収入金額 計 | 19,620 | 20,585 | 966 | |
| 肥料費 | 1,644 | 114% | 1,874 | 230 |
| 農薬衛生費 | 1,178 | 110% | 1,296 | 118 |
| 経営費 計 | 14,921 | 15,269 | 348 | |
| 世帯農業所得額 | 4,699 | 5,317 | 618 | |
| 世帯農業所得率 | 23.9% | 25.8% | 1.9% |
※金額の単位は千円。
次に、収入金額規模別に世帯農業所得がどれくらい増加するか計算してみました。700~1,000万円の階層は31.9万円とわずかでしたが、5,000~7,000万円は128万円のアップという大きな予測額となりました。
まとめ
これはあくまでも実測値ではなく予測ではありますが、稲作農家の収入は増えるだろうという明るい結果が出ています。2023年の簿記データを集計するのは、2024年の6月頃になりますが、稲作農家の経営がこの予測と合うかどうかの実証が楽しみです。
お米の需要が今後大きく上がることはあまり期待できませんが、冒頭に紹介したようにおにぎりが注目されるなど、思わぬ追い風が吹くこともあります。
地域性・気候を生かしておいしいお米作りを目指すか、それとも徹底的に低コストを追求したお米を作るか、飼料米を作るか、加工米を作るか、契約販売をするか、外国に輸出するか、経営者が工夫していくことで稲作経営にも必ず未来があると思います。
関連リンク
農林水産省「米に関するマンスリーレポート」
農林水産省「米の相対取引価格・数量」
南石名誉教授のコメント
わが国の主食といえば、ほとんどの人が「お米」を思い浮かべるのではないでしょうか? その一方で、一人あたりのお米の消費量は毎年減少しており、数年前にはお米への支出金額をパンが上回ったとのニュースが注目されました。
最近は、わが国の人口を8,000万人で安定的に維持することを目指すべきとの提案もニュースになっています。人口の減少と一人当りのお米の消費量の減少の同時進行は、国内の米の需要を大きく減少させることになります。
ただし、このことは必ずしも、お米の価格が低下することを意味しません。物の価格は、需要と供給で決まりますから、需要の減少を供給の減少が上回れば、価格は上昇することになります。
零細小規模な稲作農家は減少していますが、大規模な稲作経営は増加しています。大規模な稲作経営の栽培面積の増加が、零細小規模な稲作農家の栽培面積の減少よりも多ければ、お米の価格は、今後上昇することになります(輸入を考えなければ)。
近年、国際紛争や気候変動、さらにはわが国の国力の低下等により、今まで通りの食料輸入が困難になるリスクの増大が指摘されています。農産物を購入している消費者は、食料の適正価格と調達について、自分事として考える時代になっているのです。
