農業利益創造研究所

収入・所得

雇人費と専従者給与の水準と関係(2)(果樹経営・酪農経営・花き経営)

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

経営の大きなカギを握る人手。個人事業での人手は専従者と雇人がおり、相互の関係により支給水準などが変わってきます。

前回の「雇人費と専従者給与の水準と関係(1)」に続き、果樹経営における雇人費と専従者給与の水準と関係を考えます。

果樹経営

次は何かと人手かかる果樹経営(1,953件)です。果樹経営は比較的小規模な経営が多いので、収入金額合計の階層も500万円ごとにしました。

経営規模(収入金額合計)経営体数
①0.5千万円未満277
②0.5~1千万円未満520
③1~1.5千万円未満392
④1.5~2千万円未満293
⑤2~2.5千万円未満188
⑥2.5~3千万円未満113
⑦3~3.5千万円未満55
⑧3.5千万円~115
合計1,953

以下が果樹経営の雇人費の支払い状況となります。野菜経営とは規模の階層が違うので解りにくいのですが、若干野菜経営より各層の雇人費は多めです。

果樹経営の方は自分の経営状況と比べてみてください。

収入金額合計2千万円を超えると雇人費が200万円を越え、金額的にも常時雇用がいそうな経営規模です(農水省の「経営形態別経営統計(R3)」によると、農業法人の常時雇用の給与は2,102千円)。

しかし、このデータでの果樹経営全体の収入金額合計の平均は14,887千円であり、2千万円以上の経営体数は全体の24%程度です。したがって、専従者が1名もいれば、常時雇用を必要とする経営体はそう多くはないのかもしれません。

尚、専従者0人の経営体では2.5千円超えると(⑤から⑥)、1,130千円(4,490-3,360)の雇人費が増加しているにもかかわらず、専従者がいる経営体の雇人費はそれほど増加しません(専従者1人:2,604-2,244=360千円、専従者2人:2,299-1,625=674千円)。

これは野菜経営の箇所でも述べましたが、1人目や2人目の専従者(もしくは常時雇用の雇人)が規模拡大によって増加する労働量を吸収しているからだと思われます。

果樹経営の規模別雇人費
専従者数a
0人
b
1人
c
2人
d
3人
e
4人以上
平均
①0.5千万円未満1349520300123
②0.5~1千万円未満55737034446806435
③1~1.5千万円未満1,227764538431734773
④1.5~2千万円未満1,5201,3518018767771,087
⑤2~2.5千万円未満3,3602,2441,6251,0787621,699
⑥2.5~3千万円未満4,4902,6042,2991,5901,6172,134
⑦3~3.5千万円未満4,0103,0282,0751,5199972,059
⑧3.5千万円~6,2235,4523,4623,2635,1093,841
平均6779051,2011,5472,2331,023

※金額の単位は千円。

次に上記の表を基にした、果樹経営の専従者数の差による雇人費の差です(横の差)。これは専従者がいることで削減できた雇人費ですが、専従者に雇人の基準で給与を支払う場合の金額とも言え、専従者の実質的な労働貢献額(賃金水準)を表しているとも言えます。

収入金額合計2千万円未満までは、専従者数の差による雇人費の差はあまり高くはありません。あまり専従者の事業貢献が高くない状態です。

但し2千万円を超えると、専従者0人と1人の差では1,116千円以上の雇人費の差が生まれ、2.5~3千万円未満の規模で1,886千円と最大化します。これがこの規模の専従者の実質的な賃金水準と言えます。果樹経営2~3千万円までの一人当たりの専従者給与平均は1,633千円なので、およそ2.5千万円を超える規模になると、実際に専従者に支払っている給与以上の働きを専従者がしてくれていることになります。

果樹経営の専従者数の違いによる雇人費の差
専従者の貢献額※11人目
(a-b)
2人目
(b-c)
3人目
(c-d)
4人目
(d-e)
①0.5千万円未満39-108
②0.5~1千万円未満18727298-760
③1~1.5千万円未満463226107-303
④1.5~2千万円未満169550-7499
⑤2~2.5千万円未満1,116620546316
⑥2.5~3千万円未満1,886306709-28
⑦3~3.5千万円未満982953556522
⑧3.5千万円~7721,990198-1,846

※1)a〜eは専従者数がa=0人、b=1人、c=2人、d=3人、e=4人以上のグループを表す。
※2)金額の単位は千円。

酪農経営

酪農経営(277件)は以下の通りです。酪農経営は、経営規模は大きいものの件数は少なめです。したがって経営規模(収入金額合計)の範囲を2千万円にとってもデータが少ない箇所ができデータの偏りが出てしまい、耕種よりは分析は難しくなりました。

経営規模(収入金額合計)経営体数
①2千万円未満21
②2~4千万円未満60
③4~6千万円未満76
④6~8千万円未満58
⑤8~10千万円未満22
⑥10~12千万円未満14
⑦12千万円~26
合計277

専従者0人の経営体のうち収入金額合計6~8千万円以上の規模で、雇人費が4,769千円となました。常時雇用がいてもおかしくない金額です。酪農経営に限らず常時雇用が発生すると思われる経営規模になると、大幅に雇人費が増加します。これは個人事業主であっても、常時雇用を確保するために社会保険などの福利厚生を手厚くするからではないでしょうか。

酪農経営の規模別雇人費
専従者数a
0人
b
1人
c
2人
d
3人
e
4人以上
平均
①2千万円未満13824160060
②2~4千万円未満348320352250317
③4~6千万円未満1,6067024254820650
④6~8千万円未満4,7691,7408864487721,428
⑤8~10千万円未満02,4181,37023501,067
⑥10~12千万円未満05,4511,0542,2668,1872,310
⑦12千万円~3,00012,5187,1728,5882,2248,273
合計1,3991,5161,0552,2002,0501,529

※金額の単位は千円。

以下は、専従者数の違いによる雇人費の差です。専従者の実質的な賃金(貢献額)と見てよいでしょう。収入金額合計が6千万円までの規模では、雇人費の差、つまり専従者の貢献額が100万円を下回っています。一方で収入金額6千万円未満の酪農経営では、一人当たりの専従者給与が1,483千円です。

したがってここまでは専従者給与の支給額は賃金相場からみて高めで、専従者の貢献はあまり高いとは言えません。しかし6千万円を超えると専従者0人と1人の雇人費の差(専従者の実質賃金)は3,029千円となり、この規模の専従者給与平均の1,922千円を大きく上回ります。この規模になってようやく専従者の効果も出ていると言えます。

酪農経営の専従者数の違いによる雇人費の差
専従者の貢献額※11人目
(a-b)
2人目
(b-c)
3人目
(c-d)
4人目
(d-e)
①2千万円未満1148
②2~4千万円未満29-32327
③4~6千万円未満904277-56
④6~8千万円未満3,029854438-325
⑤8~10千万円未満1,0481,136
⑥10~12千万円未満4,396-1,211-5,922
⑦12千万円~-9,5185,346-1,4176,364

※1)a〜eは専従者数がa=0人、b=1人、c=2人、d=3人、e=4人以上のグループを表す。
※2)金額の単位は千円。

花き経営

最後に花き経営(601件)です(肉用牛経営はデータ数が少ないので今回は省略します)。花き経営は、経営数は少ないものの果樹経営よりも規模が大きい農家が居るので、データ分布の幅が大きくなってしまいました。したがってサンプル数が極端に少ない範囲がありますが、花き経営の方が雇人の賃金水準や生産性を検討する一つの参考にしていただければと思います。

経営規模(収入金額合計)経営体数
①1千万円未満168
②1~2千万円未満208
③2~3千万円未満104
④3~4千万円未満 57
⑤4~5千万円未満34
⑥5千万円~30
合計601

花き経営は、専従者0人と1人の経営体で2千万円を越えた規模で、雇人費が200万円を超えました。上述したお通り200万円は常時雇用がいると思われる規模です。またこの規模になると大きく雇人費が増加するのも、他の経営類型と同様です。

花卉経営の規模別雇人費
専従者数a
0人
b
1人
c
2人
d
3人
e
4人以上
平均
①1千万円未満2341531923160194
②1~2千万円未満9847165871,005118731
③2~3千万円未満2,6222,0661,301578 01,541
④3~4千万円未満5,1134,8161,8102,3514,2053,106
⑤4~5千万円未満08,6182,0152,823 2,4583,587
⑥5千万円~09,4689,0869,0432,5848,712
平均6691,3891,5852,7242,0811,506

※金額の単位は千円。

以下は、花き経営の専従者の貢献額を表したものです。サンプルデータ数が多くないからでしょうか、花き経営はデータ的には2人目の専従者の頑張りが目立ちます(笑)。

花き経営の専従者数の違いによる雇人費の差
専従者の貢献額※11人目
(a-b)
2人目
(b-c)
3人目
(c-d)
4人目
(d-e)
①1千万円未満82-39-124
②1~2千万円未満268129-418888
③2~3千万円未満556765723
④3~4千万円未満2973,006-541-1,853
⑤4~5千万円未満6,603-808365
⑥5千万円~382436,459

※1)a〜eは専従者数がa=0人、b=1人、c=2人、d=3人、e=4人以上のグループを表す。
※2)金額の単位は千円。

まとめ

以上、二回にわたって経営類型別の雇人費と専従者給与の水準と関係を見てきましたが、最後に全体に共通する傾向をここでまとめてみたいと思います。

(1)ある規模を超えると雇人費が急増する。
(2)専従者は数が増えるに従い貢献度は落ちる。
(3)常時雇用(専従者含む)がいると、多少の規模拡大による労力の増加は、既存の労働力(賃金)の範囲で賄われる。

(1)については、野菜経営の箇所でも述べましたが、常時雇用の導入による福利厚生(社会保険等)の増大が理由の一つに挙げられます。また外国人実習生(常時雇用)などの場合、派遣にかかる諸経費などもかるため、この点で雇人費が大きく増加するのではないでしょうか。

また、雇人の数が多くなることによる不効率(コスト高)というものもあるように思われます。「2-6-2の法則」ではないですが、農業経営に限らず、人が多くなると生産性の高い人と低い人が必ず生まれます。常時雇用がいなければ、その分雇人の数は増えますが、そうなるとおよそ生産性が低くなる人が出てきます。一定規模以上から雇人費の割合が急増するのは、そのような理由もあるかもしれません。

尚、上述した常時雇用の平均給与額である2,102千円に近い金額を雇人費とする収入金額規模は、以下の通りとなります。これは専従者0人の経営体のうち、雇人費の平均が210万円に近くなる範囲で、収入金額合計の平均を求めたもので、上記した規模別雇人費の収入金額合計(収入金額合計の範囲から雇人費の平均を求めた)とは算出方法が異なります。

したがって、上記の経営規模と雇人費の関係とは異なる結果かもしれませんが、もしかしたらこちらの方が実態に近いかもしれません。併せて参考にしてください。

以下の収入金額以上の収入金額を得るためには、常時雇用(210万円ほどの雇人費)が必要になる可能性があるということです。逆に言うと、元気な専従者(笑)が1名いれば、このくらいの規模までは雇人を入れなくてもよいということでもあります。一つの目安にしてみてください。

平均経営体数
収入金額合計雇人費
普通作経営22,1132,05180
野菜経営14,7082,084156
果樹経営11,5392,12788
酪農経営49,0162,07715
肉牛経営50,1982,11221
花卉経営15,6432,12627

※金額の単位は千円。

(2)は「2-6-2の法則」以前に、家族労働ゆえ“戦力になる人”は限られている、ということでしょう。後継者の青壮年期の子や、現役並の元気な親がいる場合、専従者は大きな働きをしてくれますが、そういう専従者は一家庭にそう多くはいないということです。専従者給与は青色申告制度の「特典」で「所得控除」の意味合いが含まれているので、外部の労働力とは単純比較できないのでしょう。

(3)は常時雇用の強みというか、固定費である人件費のスケールメリットが効いた状態ということができます。多少の追加労働は、常時雇用がいることで効率よく“吸収”できてしまうということです。

ここまで人をうまく使うことができれば、大規模経営は効率性を増しますが、この“スケールメリットが効く労働量のポイント”を各職場で見極めるのは実務的に難易度が高いと思われます。

尚、このことは一定以上の賃金を支払う雇人(主に常時雇用)に対しては、求める仕事内容をより高度にしていく必要があるということでもあります。つまり、単純作業の量ではなく、高度な技能や判断・発想を多く必要とする仕事を担ってもらう必要も出てくるということです。そのように質的な面を含め労働生産性を高めていかないと、経営全体のコストパフォーマンスを上げることができません。

品目に限らず、これから規模拡大を考えている経営者は、このような人材の使い方を頭に入れておく必要があるでしょう。

南石名誉教授のコメント

今回の分析のまとめでは、「元気な専従者が1名いれば、雇人を入れなくてもよい規模」が示されています。この規模は、経営主と合わせて家族2名で実現できる売上高目安と言い換えることもできます。

具体的には、果樹経営1.2千万円、野菜経営1.5千万円、花き経営1.6千万円、普通作経営2.2千万円、酪農経営4.9千万円、肉牛経営5.0千万円となります。大雑把にいえば、この売上目安は、例えば普通作経営では水稲作付20ha、酪農経営では乳牛50頭に相当します。

これらの生産規模は、農地等の経営環境が整っていれば家族労働力主体の個人経営のイメージとして、概ね妥当な印象があります。ただし、例えば、中山間地域の作業効率の劣る棚田では、家族2名で水稲作付20haは現実的とはいえません。

なお、売上金が増加すると個人経営の法人化・会社設立が増加しますが、今回の分析の売上高が大きな農家は、売上高が増加してもあえて個人経営を貫いている「青色申告個人農家」が対象になっていることに、留意する必要があります。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所