
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
近年物価が上昇していますが、それに伴い人件費も上がってきています。さらに人口の減少による労働者不足の問題が今後深刻になってくると予想されます。このことは当然農業にも影響が及び、農繁期に人を雇うことができなかったり、雇用労働費の負担が経営を圧迫し、規模を拡大すればするほど経営が厳しくなることもあり得ます。
今回は、人手を必要とする野菜の経営で、経営規模と雇人費の関係を2023年の農業簿記ユーザー4,593件の野菜農家のデータで分析してみます。但し、雇い人の数は専従者の人数に左右されますので、事業主+専従者1人+雇用という経営を抽出して行います。
雇人費の高い作目は
野菜経営における経費の中でウエイトが高い順番は1位「荷造運賃手数料」(17.2%)、2位「減価償却費」(9.6%)、3位「雇人費」(6.3%)です。
荷造運賃手数料は、規模拡大して販売量が増えると比例して増加する経費ですから、規模拡大してもあまり経費削減の余地は少ない経費です。減価償却費は、固定費なので規模拡大すれば単位当たり償却費は下がります。
雇人費は、生産量が増えれば増加しますが、生産量に関係なくいつも決まった人に毎年お願いしている、ということがよくあるので変動費と固定費の両方の性格を持ちます。よって、雇人費と経営規模は何らかの相関があるのではないかと思いますし、作目によっても特徴があるかもしれません。
専従者が1人の経営で、主幹作目別の経営体数が30件以上あるデータのみ集計し、「作目別の販売金額を100とした雇人費比率」を下の表のように集計しました。
| 雇人費比率(%) | 世帯農業所得率(%) | y=ax+bのaの傾き係数 | |
|---|---|---|---|
| ホウレン草 | 16.5 | 26.8 | 0.274 |
| レタス | 13.0 | 16.3 | 0.226 |
| ニラ | 13.0 | 27.8 | 0.218 |
| ネギ | 11.0 | 23.8 | 0.170 |
| ミニトマト | 10.2 | 25.6 | 0.169 |
| キュウリ | 8.2 | 26.2 | 0.161 |
| メロン | 7.2 | 25.3 | 0.148 |
| イチゴ | 7.2 | 32.3 | 0.169 |
| ナス | 6.8 | 28.7 | 0.077 |
| ピーマン | 6.5 | 26.4 | 0.129 |
| トマト | 6.2 | 25.9 | 0.133 |
| スイカ | 5.9 | 32.9 | 0.121 |
| ブロッコリー | 5.2 | 22.8 | 0.115 |
| アスパラガス | 2.7 | 30.8 | 0.035 |
雇人費が多くかかる作目は、ホウレン草、レタス、ニラ、ネギ、ミニトマトであり、葉物野菜が多いことに気づきます。適期に素早く手作業にて収穫して、柔らかいので手作業にて出荷作業を行う必要がある作目、ということだと思われます。
逆にアスパラガスは2.7%と非常に低い数字です。収穫は根もとをハサミで切るだけで手間がかからないからなのでしょうか。
また、経営の効率性の指標である世帯農業所得率((特別控除前農業所得+専従者給与)÷収入金額)を見ると、レタスの所得率が非常に低いですが、雇人費比率が高いと所得率が必ず低くなる、というほどでもありませんでした。
規模拡大と雇人費の関係は
以下は、雇人費比率が一番高かったホウレン草農家の散布図です。
横軸は農産物販売金額、縦軸は雇人費ですが、規模が大きくなるほど雇人費は上昇していきます。その上昇の度合いを示す指標として、赤い回帰直線の「y=a x+b」の「a」が大きいほど規模拡大とともに雇人費も大きく増加するということを示します。
前述した表の項目に「aの傾き係数」を入れましたが、ホウレン草は0.274と一番高いです。
レタスもaの値が高く、所得率も低いですから、規模拡大する際は注意が必要です。
また、ホウレン草の販売金額2,000~3,000万円の階層で、雇人費が多い経営と少ない経営が見受けられますが、簿記データだけでは大きな特徴を見出せませんでした。おそらく雇人が少なくても経営できる何か秘訣(栽培方法や収穫方法、出荷作業)があるのだと思われます。
雇人費比率が高い作目第5位のミニトマトのデータ数が多かったので、同じように散布図を作成してみました。ホウレン草の散布図と比較して回帰直線の傾きが少ないですから、規模拡大しても雇人費が経営を圧迫することは少ないと思われます。
ミニトマトの雇人費から見た適正規模
下の散布図は、横軸が販売金額、縦軸は農業所得率です。同じ経営規模でも所得率に差がありばらけていることがわかります。
各点の近似曲線(赤い線)を見てみると、規模が大きくなると所得率は上がっていくが、販売金額2,000万円くらいから下がっています。規模拡大に伴い経営効率が落ちてくるということです。

さらに、下の図のように縦軸を雇人費比率にした散布図の近似曲線は、販売金額2,000万円あたりから率が上昇しています。

つまり、ミニトマト経営の場合は雇人費を考慮した最適規模は販売金額が約2,000万円ではないかと思われます。
(もちろん作目によってこの金額は変わってくると思われます)
販売金額が約2,000万円の10件の経営の平均を調べたところ、世帯農業所得額は694万円、雇人費は98万円でした。2,000万円程度の経営規模を、事業主1人と専従者が1人、そしてパートの雇人で行えば無理の無い経営となるのです。もしパートの人が1人なら、話題になった103万円の壁以下なので所得税もかかりません。
もし所得1,000万円以上を目指すなら、雇用もたくさん雇って経営規模拡大することも良いと思いますし、日本の食料を賄うために規模拡大する農家が増えてもらいたいです。
しかし、今後人手不足で人が集まらない、人件費も上昇していく、という状況になったら、適正規模・適正人員で無理なく経営するという選択肢もあるのです。
経営はバランスが大事です。
まとめ
今後農業に限らず労働力不足が問題になってくると思われますが、手作業が多くかかる作目は雇人に頼らないような機械化・スマート農業がますます必要になってくるでしょう。
しかし、どうしても手作業が必要な作目は多様な労働者を集めなければなりません。世の中には少しのスキマ時間に仕事をしても良いという人がいます。そのような人と農家とのマッチングをするアプリも最近はたくさんありますので、誰でも作業できるようなマニュアルを作って人を集めて農作業してもらうという経営のやり方も、選択肢に入るのではないでしょうか。
関連リンク
農林水産省 農業バイト
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、野菜経営における経営規模(販売金額)と雇人費の関係を明らかにしました。経営主や専従者だけで生産・販売できる規模には限界があります。ホウレンソウやミニトマトの図を見ると、販売金額がホウレンソウでは500万円、ミニトマトでは1,000万円あたりまでは雇人費はほぼゼロで、これが経営主や専従者だけで生産販売できる規模限界といえます。
これ以上の販売金額を目指すなら雇用を導入することが必要になり、販売金額と共に雇人費も増加することになります。しかし、雇用した人に期待通りに働いてもらうには、人材の採用、動機付け、待遇の改善、技術技能の向上など、経営者としての持続的な様々な工夫と努力が求められます。こうした取り組みの成果がでなければ、雇人費が増加しても販売金額が想定のようには増加しないこともあります。
あるいは販売金額は増加しても、想定以上に雇人費が増加して、結果的に世帯農業所得が期待した程には増加しないこともあります。経営主や専従者だけで生産・販売できる規模限界を超えた経営規模の拡大には雇用の導入が不可欠ですが、それを世帯農業所得の向上につなげるには、作物の栽培や家畜の飼養とは異なる経営者能力が求められます。

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