農業利益創造研究所

収入・所得

普通作経営の収益期間を分散した場合、経営はどうなるか

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

多くの農業経営は、収益が得られるのは1年のうち限られた期間です。1か月程度の期間で1年分の収益を上げる経営体も少なくありません。もちろんこれは作物の収穫回数が限られているといった農業の特性に由来するものですが、収益期間が限られると必要な時にお金が不足するなどの事態も起き、概して農業は資金管理が難しい業態とも言えます。

以下は、月ごとの販売金額の変動係数を、経営類型別に示したものです。変動係数とは母集団を構成する値のバラツキの大きさを示すもので、値が大きくなるほどバラツキが大きいことになります。バラツキが大きいということは、一時期に販売金額が集中しているということです。

これによると、酪農経営が最も月別の販売金額のバラツキが小さくなり、最も大きいのは普通作経営となりました。酪農は毎日牛乳を搾るので収益期間が分散され、普通作は稲作の9月・10月に販売金額が集中するということが、このデータで明確に示されています。

月別販売金額の変動係数
普通作経営2.04
野菜経営1.22
果樹経営1.72
酪農経営0.32
肉用牛経営0.88

このように普通作経営は、収益が得られる時期が非常に偏っている経営体といえますが、上述したとおり資金繰りなどの問題から、秋以外の時期にも収益を得ようとしている経営体も増えているようです。しかし収益期間を広げれば、それだけお金の周りはよくなるでしょうが、肝心の経営はどうなるのでしょうか。

今回は普通作経営の収益期間のバラツキと経営の関係を考えたいと思います。

販売金額のバラツキと経営規模

以下は普通作経営のうち、月の販売金額の変動係数が上位30%(バラツキの大きい=収益集中型)の経営体平均と、変動係数が下位30%(バラツキの小さい=収益分散型)の経営体平均を比較したものです。

販売金額の変動係数(月)
上位30%平均下位30%平均
件数890890
収入金額合計17,48826,734
世帯農業所得率23.2%23.7%

※金額の単位は千円

これによると月の販売金額のバラツキは、世帯農業所得率(経営効率)にはあまり影響がありません。しかし、収入金額合計(経営規模)については、上位と下位で9,246千円(26,734-17,488)の差が出ているこことからも、強い関係がありそうです。つまり月の販売金額が分散している経営体は、経営規模が大きいということです。

このことは以下のデータからも言えそうです。これによると、収入金額合計が大きくなるにつれ、月別販売金額の変動係数は小さくなっていきます。経営規模と収益のバラツキは相関関係がありそうです。

収入金額合計件数月別販売金額
の変動係数
1千万円未満8662.23
1~3千万円未満1,3432.00
3~5千万円未満5631.91
5~8万円未満1571.79
8千万円以上401.75

年間の販売金額が平準化することと、経営規模が大きくなるということは、どういう理由によるものでしょうか。およそこれは一方向の因果関係があるわけではなく、両方が原因であり結果ということではないかと思います。つまり、収益期間を分散させるためには、今まで農閑期としていた時期も働くことにもなるので、結果的に収益が増えるということと、大規模化したことで増加した経営資産の有効活用のために多品目化・多角化を進めた結果、収益が得られる期間も分散した、という両面からの流れがあるように思われます。

収益分散型の経営体は何を作っているのか

以下は、普通作経営のうち月別販売金額の集中型経営体(変動係数上位30%)平均と分散型経営体(下位30%)平均の、月別販売金額の割合を比較したグラフです。このとおり、分散型経営体(下位30%)平均は、1年間の全ての月である程度の収益を上げています。

(12月が多いのは、決算修正取引が含まれるなどの経理上の問題が現れたもので、すべての作物に共通する現象)。

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では、分散型の経営体はどんな作物を作っているのでしょうか。以下は作物構成を表した表です。

これによると、販売金額が分散している経営体(下位30%)は、普通作物(米、麦、大豆、そば等)の販売割合が79.5%、主食用米の割合は64.7%とともに低い値を示しています。つまり分散型経営体は、園芸作物等を販売金額の20%程度導入していることがわかります。また普通作物の割合と主食用米の割合の差が大きいことから(14.8=79.5-64.7)、転作作物の割合も多いことがわかります。

変動係数
上位30%平均
変動係数
下位30%平均
販売金額における普通作物の割合94.5%79.5%
販売金額における主食用米の割合84.9%64.7%

逆に、販売金額が集中している経営体(変動係数上位30%)の構成を見ると、 米を中心とした普通作専業農家という感じです。このような米中心の普通作専業農家の経営規模は、前項のデータから収入金額合計が17,488千円(交付金含めた収益)で、所得は4,057千円(17,488×23.2%)となっています。したがって、米中心の経営体がこれ以上の所得を得るためには、転作作物や園芸作物を増やして、収益期間の拡大(=規模拡大)の必要があるということかもしれません。

尚、収益分散型の経営体(変動係数下位30%)で、普通作物以外の作物の順位は以下の通りとなりました。

販売金額基準では、トマトが1位となりました。トマトは定植から収穫までの期間が5月~8月と田植えと稲刈りの間にあります。稲作とは作業の兼ね合いの点から組み合わせが良いかもしれません。甜菜は北海道でしか作られていませんが、経営所得安定対策の対象品目ですので普通作との相性はいいのでしょう。

経営体の件数でいうと、花きが1位となりました。販売金額ベースでも3位です。花きの品目は分かりませんが、国内も最も生産の盛んなキクのうち、夏キクは11月頃に定植して5~6月頃に出荷できます。この時期は稲作の農閑期に当たるため、相性は非常に良いと思われます。

ネギも分散型の経営体で多く作られています。ネギは収穫時期を調整しやすい(畑に寝かしておける)ので、普通作に限らず他の作物との兼営に向くのだと思います。

販売金額件数
1位トマト花き
2位甜菜ネギ
3位花き甜菜
4位ネギトマト
5位ジャガイモ小豆

販売金額のバラツキと費用の関係

最後に、主な費用の比較をしてみます。以下の表は総費用のうちの各費用の割合です。
販売金額の集中型経営体(変動係数上位30%)は、減価償却費、土地改良費、農薬衛生費が多めで、分散型経営体(変動係数下位30%)は、雇人費、荷造運賃手数料、種苗費が高めとなりました。

これらは、普通作物と園芸作物の作付けウェイトの違いで大体説明ができそうですが、興味深いのは減価償却費と雇人費が逆の動きをしているということです。やはり園芸作物を導入し収益期間を広げると人手が必要となり、相対的に設備の費用割合は減るということなのでしょう。普通作経営でも、一定規模以上にするのなら収益期間の分散が必要で、そうであるなら人手確保が大きな経営課題になるということかもしれません。

上位30%平均下位30%平均
(上位-下位)
⑨種苗費3.0%3.8%-0.8%
⑪肥料費13.7%13.4%0.3%
⑬農具費1.4%1.6%-0.2%
⑭農薬・衛生費8.6%7.4%1.2%
⑮諸材料費3.0%3.2%-0.3%
⑯修繕費7.1%6.9%0.2%
⑰動力光熱費6.4%6.1%0.3%
⑱作業用衣料費0.4%0.4%0.0%
⑲農業共済掛金2.5%2.5%0.1%
⑳減価償却費19.4%16.4%3.0%
㉑荷造運賃手数料4.8%5.8%-0.9%
㉒雇人費2.6%4.1%-1.5%
㉓利子割引料0.5%0.5%0.0%
㉔地代・賃借料9.2%9.5%-0.3%
㉕土地改良費3.2%2.0%1.2%

昭和の昔の米価が高かったころ、コメ農家は1年間の三分の一は休めるといわれていました。但し現在は、それだとなかなか十分な所得は得られなくなっているので、従来の農閑期にも何らかの作物を作る必要が出てきているのでしょう。現在の原材料高の流れが今後も続けば、稲作を含む普通作農家の多角化(=収益分散=大規模化)はもっと進むのではないかと思われます。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、月別販売金額のバラツキ度合いと経営内容の関係が明らかになりました。毎日の搾乳が必要な酪農では月別販売金額も安定しています。

日本では収穫が年一度の稲作では、月別販売金額は秋の収穫時期に偏る傾向があります。販路があれば、在庫を毎月販売することもできますが、保冷庫などの保管費用もかかり、売れ残るリスクもあるため、十分な経営戦略が必要になります。

赤道付近のコロンビア共和国などでは、通年でいつでも稲作ができるため月別販売金額のバラツキも小さくなります。同じ作物でも、立地、気象条件、作期、栽培方法などで、月別販売金額のバラツキも変わってきます。

例えば、植物工場では、周年的に安定した栽培が可能になり、月別販売金額も安定します。その一方で、露地栽培と比較して、植物工場は施設の減価償却費や光熱水道料などの経費を要します。月別販売金額のバラツキ度合いを、経営戦略を見直す契機にすることもできそうです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所