農業利益創造研究所

収入・所得

2024年の所得アップは専従者の所得アップにもつながったか?

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2024年は米価の高騰もあり、農家の平均所得は近年で最も大きくなりました。そんな時、農家が気になるのは「税金をどう低く抑えるか」ではないでしょうか。節税の方法は色々あるでしょうが、私は青色申告農家の最大の節税手段は専従者給与だと思います。

専従者給与は言わずと知れた家族労働者への給与ですが、それを支払うことで事業主の所得を減らす効果があります。もちろん給与を受け取った家族の所得はその分増えますが、世帯で見た所得税の負担はゼロサムにはなりません。理由は、給与所得控除があることと所得税が累進課税だからです。

以下の図は課税所得(税率をかけられる前の所得)ごとの所得税額の増加率です。横軸は100万円ごとの課税所得額で、縦軸は課税所得100万円の所得税額から何%所得税額が増加しているのかを示したものです。

たとえば、課税所得100万円のときの所得税額を1.0とした時、課税所得200万円になると所得税額は2.1倍になるということです。そして課税所得が10倍の1千万円になった時、所得税額は課税所得100万円の時の35.3倍、課税所得20倍の時の所得税額は104.1倍です。これが、課税所得が上がるとともに税率自体が上がる累進課税の作用です。

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所得税がこのような構造を持っているとなると、事業主だけが突出して課税所得が高い年は、専従者に相応な報酬を払って世帯内で課税所得をより平準化した方が、税負担は少なくなります。つまり、課税所得100で20の税金を払うより50と50にして16(8+8)の税金を支払うというイメージです。

尚、このように書くと決まって「実態に合わない支給は無効だ!」との極端な反論がいつも来るのですが、会社の決算が良かった年に社員に臨時ボーナスを支給することは普通にあることで、経営結果の良かった年に家族労働者であっても働き手にその結果を還元するのは、社会通念上おかしなことでも不法行為でもありません。

したがって、2024年のような儲かった年に共に汗を流してくれた専従者にもそれなりの「報い」をすることは、事業主の家庭内での「株」を上げるとともに社会的に認められる「節税」手段でもあるで、使わない手はないということです。

では実態はどうなっているでしょうか。大変前置きが長くなりましたが、所得が大きく上がった2024年の専従者給与の支給実態を見てみます。

据え置かれたままの専従者給与

以下のグラフは、この4年間の農業簿記ユーザーの青色申告者全体の世帯農業所得と専従者給与の関係です。棒線は実額で、折れ線は専従者給与と世帯農業所得の割合です。

これによると2024年の世帯農業所得は6,791千円で、前年を1,127千円も上回りました。しかし専従者給与は2,229千円であり前年と比べほとんど変化はありません。このことから専従者給与と世帯農業所得の割合は大きく落ち込み、32.8%と6.5ポイントも前年より大きく低下しました。2024年は税負担が大きく増えた農家が多いのではないかと思います。

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次に経営類型ごとに見てみます。以下の図の通り、普通作の専従者給与の割合が22.6%と際立って低いことが解ります。これは普通作経営の所得が大きく伸びたことが原因だと考えられます。他の経営類型に目をやると、最も専従者給与の割合が高いのは花き経営の44.0%で、実額ベースだと2,989千円の酪農経営となりました。

しかし経営品目ごとにこれらの傾向の違いが出るというのも、考えてみればユニークなことです。何の作物を作っているかで、家族労働の評価が異なるということなのですから。経営状態から専従者給与の水準を考えているならば、支給額自体には差は出るでしょうが、専従者給与と所得の割合に大きな違いは生じないはずです。しかし実際は割合にも差がでています。当然作物によって労働負担が違うこともあるのでしょうが、その負担の違いが、たとえば普通作は時給800円、酪農は1000円などのように、客観的に決められているわけではないので、結局その労働の評価は各事業主の主観に委ねられていることになります。つまり、普通作農家は家族労働の貢献を相対的に低く見ており、酪農や花き農家は相対的に高く見ているというようにも読めるということです。これは農村文化を考えるうえで、なかなか興味深い仮説だと思います。

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なお、経営類型ごとの専従者一人当たりの支給額は以下の通りです。皆さんはいくらぐらい払っていましたか?

専従者給与/一人当
青申全体1,275
普通作 1,107
野菜 1,484
果樹 1,121
酪農 1,665
肉牛 749
花卉 1,355

※金額の単位は千円

賃上げトレンドに取り残された専従者

最後に経営品目ごとの変化を見てみます。まず普通作ですが、予想通りの結果となっています。つまり2024年は所得を8,600千円と大きく上げたものの、それに応じた専従者給与にはなってはおらず、ほぼ平年並みの1,942千円に据え置かれています。これが専従者給与の割合を大きく落とし、2024年の青色申告全体の傾向に強く影響を及ぼしたと考えられます。

ただ、専従者給与の割合が高い花き経営は、所得の高い2021年に専従者給与の割合が38.3%と低く、支給額の多い酪農経営は所得の低かった2022年の専従者給与の割合が56.8%と高くなっています。
つまり、経営類型ごとの専従者給与の水準は違うものの、経営結果に応じて専従者給与を変えるということは、経営作物に関わらず全般的にやっていない(できていない)ようです。これは、冒頭述べた節税という点でもマイナスなのですが、それ以上に深い問題ではないかと思われます。

近年ようやく日本でも賃上げが社会テーマになりました。最低賃金は全国すべての県で1,000円を超え、春闘ではベースアップが交渉の主要テーマになっています。労働力不足と最近の物価上昇を考えれば、これらの動きは当たり前どころか遅すぎたともいえる流れです。しかし農業はその流れにすら取り残され、家族労働は置き去りにされているように思われます。

この原因はいろいろあるのでしょうが、農業経営者が家族労働の価値をまだ十分に評価できていない(家族は働いて当たり前)と考えていることが大きいからではないでしょうか。そしてその経営者に身近な専門家やJAも、専従者給与を上げることに対しては対税務署の関係ばかりを過剰に考えるからか、前掲した通り消極的な返答をする人が多いことも影響しているかもしれません。

しかし、労働力や後継者不足は農業界が昔から常に悩まされてきた問題です。農業のIT化やドローン導入も結構ですが、身近なパートナーの働きに対する“目”も、そろそろアップデートすべきではないでしょうか。

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南石名誉教授のコメント

今回の分析では、経営類型ごとの世帯農業所得と専従者給与の関係が明らかになりました。経営類型によって専従者の年間労働時間は異なるため、今回の分析では経営類型ごとの専従者の「時給」までは分かりませんが、一人あたり年間給与額に大きな差があることが明らかになりました。

労働の内容や時間に見合った給与を支払うことは、後継者人材育成の観点からも重要なことです。ただ、小規模零細経営の中には、専従者給与の年間総額が一定額を超えると源泉徴収の手続きが必要になるため、給与の増加を避けたい気持ちもあるかもしれません。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所)