農業利益創造研究所

収入・所得

コロナ禍でもたくましく販路拡大? 2020年度経費の意外な傾向

個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2020年度は、新型コロナウイルスにより、様々な社会の変容が起こった年でした。感染対策として「STAY HOME」が叫ばれ、テレワークが広まり、大規模イベントもその多くが休止・中止・延期となりました。

様々な業種がコロナ禍の影響で不振に追い込まれる中でも、特に打撃を受けたのが外食産業です。複数人での外食は感染に繋がる恐れがあるとされ、テイクアウトなどでの家での食事が推奨され、飲食店は営業の自粛が求められました。総じて外食の消費量が減ったために、農業も影響を受けました。

農業利益創造研究所では、コロナ禍が起こった2020年度の簿記データを2019年度と比較して、どのような違いがあるかを分析しました。

すると、管理費・その他経費の中で、特に大きな違いが見られた科目がありました。「荷造運賃手数料」です。

荷造運賃手数料が37%もアップした理由は?

荷造運賃手数料とは、荷造費と運賃を処理するための勘定科目です。荷造費とは商品を発送する際にかかる諸経費の総称です。具体的には、梱包のために使う段ボールやガムテープの費用、宅配便などの送料などがこの科目に相当します。

以下の表は、2019年と2020年の1農家当りの費用の比較(単位:円)です。荷造運賃手数料が、なんと37.4%もアップしていました。偶然のブレとは考えにくい数字です。

科目 2019年 2020年 変化率
租税公課 532,184 522,296 -1.9%
種苗費 609,146 612,044 0.5%
素畜費 540,257 464,955 -13.9%
肥料費 1,067,041 1,075,114 0.8%
飼料費 1,586,145 1,566,100 -1.3%
農具費 217,262 233,300 7.4%
農薬・衛生費 949,365 968,857 2.1%
諸材料費 768,340 774,258 0.8%
修繕費 823,767 849,244 3.1%
動力光熱費 1,039,522 945,769 -9.0%
作業用衣料費 74,886 75,469 0.8%
農業共済掛金 367,960 373,496 1.5%
減価償却費 2,140,134 2,150,010 0.5%
荷造運賃手数料 1,458,133 2,003,227 37.4%
雇人費 971,467 998,960 2.8%
利子割引料 62,988 56,622 -10.1%
地代賃借料 841,538 894,222 6.3%
土地改良費 159,819 153,319 -4.1%
雑費 742,409 741,893 -0.1%

外食を控えたとはいえ、人間の食べる量が減ったわけではありませんから、その分は家での食事に回されています。STAY HOMEでお家時間が増えて、料理をする機会が増えた方も多いそうです。つまり、外食が減った分は、消費者が米、野菜、果物などを直接購入していることになります。

このような動きの中で、消費者への直販に乗り出す農業者も数多くいました。産地直送の通販サイトが売り上げを伸ばすという動きもあり、ニュースにもなっていました。

この社会情勢と合わせて考えると、農業者の経費にて荷造運賃手数料が増えたのは、直販が増えたからではないか、と容易に推察できます。このような社会の変容が経費に表れるのは面白いですね。

荷造運賃手数料が特に高い地域、低い地域

それでは、荷造運賃手数料が特に高い地域、低い地域はどこなのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。

こちらは2020年の農業簿記データの、荷造運賃手数料の変化率を地域ごとに表したものです。なお、データ数が10未満の都府県は、日本地図では「白抜き」としてランキングからも除外しています。そのため、ランキング最下位が46位になっています。


順位 都道府県 変化率 順位 都道府県 変化率
1位 愛媛県 457.2% 42位 新潟県 1.4%
2位 高知県 159.4% 43位 千葉県 0.6%
3位 香川県 141.2% 44位 鹿児島県 0.2%
4位 北海道 77.3% 45位 奈良県 -5.4%
5位 長崎県 75.1% 46位 京都府 -13.3%

全体的に見ると、東北・関東圏域は総じて低く、西の方に数字の高い都道府県が散らばっています。直販の需要も大きそうな農業大国の北海道の数字が高いのは、なんとなく納得できるところです。

面白い結果としては、四国の数字が全体的に上がっているところです。全体的な傾向のため、単なるばらつきとは思えません。

やや強引な仮説ですが、四国から大規模都市圏まで距離があり、送料がかかってしまうため全体的に高くなっているのではないでしょうか。北海道の変化率が高いのも遠距離の首都圏への運送費がかかっているのかもしれません。

今回は、コロナ禍における農業の変化について「荷造運賃手数料」から考察しました。利益を増やす手段の一つとして注目されている直販ですが、このように意外な経費がかかってしまう側面も持っています。最近は「送料無料!」を売りにしているECサイトも多いですが、その分は出品者の負担となるケースもあります。

コロナ禍により消費者はネットで注文すれば自宅に届く、という便利さを経験してしまいました。コロナ禍が終わってもこの便利さは継続すると思われます。経費と利益のバランスを考えながら、農業者の皆様は直販にチャレンジしてみてはいかがですか。

南石教授のコメント

最近は、消費者が農産物をオンラインショッピングなどで、産地・農家から直接購入することがめずらしくなくなっていますし、ふるさと納税サイトなどでも、農産物が返礼品として人気があるようです。新型コロナウイルス感染拡大で、家庭の農産物購入が増加し、オンラインショッピングなどでの購入も増えて、出荷している農家の荷造り運賃が増加しても不思議ではありません。

しかし、別のコラムでの分析によると、2019年と2020年の売上高はほぼ同じとの結果も得られています。売上高が増えていないとすれば、販売量の増加でなく、運賃の単価が上昇した可能性もあり得ます。この点については、さらに詳しい分析が待たれます。何れにしても、こうした傾向が新型コロナウイルス終息後も続くのか、一時的な現象なのか、気になるところです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。