農業利益創造研究所

収入・所得

AIが分類した2つのパターンの高所得稲作農家グループの特徴とは

個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

「どうやったら儲かるのか」は農業にかかわらず、永遠の課題です。今回は日本の代表的な農業の一つである稲作農家の簿記データについて、AIを使った分析を行い、「儲かる必勝パターン」を探っていきたいと思います。

こちらの図は、稲作を行っている農業簿記ユーザーの2019年度データを、機械学習してくれるAIに投入し移動的にグループ化したものです。控除前所得や販売金額、諸費用項目、稲作付面積などを入力データとして、AIが「類似している」と判断した稲作農家を4つのグループに分類してくれました。

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このグループの各世帯農業所得は、グループ1が260万円、グループ2が680万円、グループ3が1029万円、グループ4が448万円となりました。

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平均世帯農業平均所得である約597万円より所得が高いのはグループ2とグループ3ですから、「必勝パターン」はこの二つのグループの特徴を探ることで見えてきそうです。

グループ2の特徴

グループ2の大きな特徴は、コメ以外の麦や大豆などの転作作物や野菜の販売金額が多いことです。各種転作作物の他、かぼちゃ、トマト、ねぎなどの野菜を作っている農家が多く、稲作だけではなく野菜に重点を置いて多角化しています。

特徴1:収入の内訳は「稲作以外販売金額」が多い

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特徴2:固定資産回転率が高い

  • 固定資産回転率:1.26回(他グループ平均:0.97回)

特徴3:労務費・販売費を多くかけている

  • 販売金額に対する労務費の比率:8.6%(他グループ平均:1.7%)
  • 販売金額に対する販売費の比率:8.4%(他グループ平均:3.6%)

その他の特徴

もう一つの面白い特徴は、販売金額に対する労務費、販売費の比率が平均よりも高いことです。多作物を生産している分、人手をかけていて、さらに販路も複数持っているのではないか、という推察が成り立ちます。

稲作だけに絞ってコスト削減をするという経営的な考えもある中で、このグループは他作目を作付けることで、収入の安定化やリスク分散を図り、一定の成功を得ていると言えます。また労務費が高いということは、常勤雇用者を持っていて、その給与支払いのために定期的な収入が必要なのかもしれません。

多作物化は上手く進めないとリスクもありますが、こうしてデータで見ると、高所得化を目指す上で複合経営化は有効という結果が見えてきます。

グループ3の特徴

グループ3の大きな特徴は、交付金関連の収入割合が高いことです。稲、麦、大豆の合計作付面積が広く、特に麦と大豆の作付面積が他グループ平均に比べて非常に広くなっています。

特徴1:収入の内訳は「交付金」が多い

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特徴2:地代・賃借料を多くかけている

  • 販売金額に対する比率:13.3%(他グループ平均:8.1%)

特徴3:稲・麦・大豆の作付け面積が広い

  • 麦の合計作付面積:4.4ha(他グループ平均0.8haに対し5.5倍)
  • 大豆の合計作付面積:2.7ha(他グループ平均0.6haに対し4.5倍)
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その他の特徴

また、販売金額に対する地代・賃借料の比率が高いという特徴から、農地をたくさん借りて作物をたくさん作っているので、主食用米の売上も転作作物の補助金も高い水準になっているという事実が浮かびます。

まとめ

最後に、高所得稲作農家である2つのグループの特徴をまとめます。

グループ2

コメの他に多作目を生産し、特に野菜に重点を置いている。多作目生産のために人を多く雇い、農業機械などの持っている固定資産から効率よく収益を生み出している。

グループ3

全体の作付面積を増やし、特に麦・大豆の作付面積を重点的に増やしている。それによって、補助金収入を多く得ている。

いずれのグループも、目指すスタイルがはっきりとわかる戦略をとっています。経営において費用は抑えるべきものですが、グループ2は多作目生産のために労務費・販売費をかけ、グループ3は作付面積を増やすために、地代・賃借料を増やしています。いずれも必要な部分に適切に経費をかけることで、所得の増加をなしとげています。

今回は、「所得」という項目で結果を出している、AIが見つけてくれた2つの稲作農家グループの特徴を紹介しました。自分がどんな経営戦略を取っていくのか、明確にしていくための参考にしていただければ幸いです。

南石教授のコメント

AIによる分析、おもしろいですね。

サラリーマンも農家も、所得の向上は大きな関心事です。

農家の場合には、経営規模の拡大による機械・施設の稼働率の向上、栽培技術改善による収量の向上、販路見直しによる販売価格の向上、高付加価値農産物や加工等が農業所得の向上につながります。

自分の経営にあった戦略が重要になります。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。