
個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
経営分析するためには、経営比率など特別の知識が必要と考えて、二の足を踏んでしまう人が結構いるようです。確かにそういう知識が必要な面もありますが、本来経営分析とは経営者が自己の経営について知りたいことを知るための手段でしかないのですから、一般的な形式にとらわれる必要はなく、自分が理解できる手法で自分なりに実践していけばいいわけです。
しかしそうではあっても、絶対に欠かせないものがあります。それは“しっかりと整理されたデータ”です。
多くの農業経営者は、経営分析の知識以前に、しっかりとした経営データが手元に無いのではないでしょうか。ではどのようなデータを、どのように整理するべきなのでしょうか。今回は農家の経営分析で最低限必要なデータとその整理の仕方についてお話をしたいと思います。
生産状況のデータ
まずは生産状況です。何の作物をどのくらいの面積で作っているのかを数字で記録しておく必要があります。これについては多くの農業者が何らかしらの形で記録をしていると思われますが、作物ごとの面積だけでは十分ではなく、収量などもしっかり記録してください。収量は“生産活動の成果”ですからそれが確認できるデータは分析をするうえで必須です。
作 物 | 面積 (a) | 収量 (kg) |
---|---|---|
米 | 100 | 5,300 |
大豆 | 50 | 750 |
野菜 | 20 | 12,200 |
面積と収量が分かれば面積当たりの収量、つまり単収(反収)が解ります。単収は技術力や生産力を測る基本的な指標ですから、主要な作物ごとに必ず把握してください。
作 物 | 面積 (a) | 収量 (kg) | 単収 (㎏/a) |
---|---|---|---|
米 | 100 | 5,300 | 53 |
大豆 | 50 | 750 | 15 |
野菜 | 20 | 12,200 | 610 |
このような作物ごとの収量や単収というデータの整備は、分析の基本中の基本ですので、それらを取得しただけで満足してはいけません。
分析にはそのデータが“良い意味なのか悪い意味なのかを評価すること”が求められ、この評価は「比較すること」によって可能になります。したがって分析データは、何かと比較できるような形で整理しておかなければなりません。
代表的な比較は年度比較ですので、以下の通り収量や単収を年度ごとに一覧にすると良いでしょう。こうすることで、この数年間の生産量の推移が分かり、去年は良かったのか悪かったのかの評価が可能になります。
この横軸の「年度」の項目を「計画値」にして、それと実績を比較すれば達成度を評価することができますし、通年出荷の野菜などでは「月」ごとに数値を取れば時期ごとの実績や進捗状況を評価することが可能になります。
作物 | 項目 | X1年 | X2年 | X3年 | X4年 |
---|---|---|---|---|---|
米 | 面積 (a) | 100 | 200 | 220 | 200 |
収量 (kg) | 5,300 | 10,000 | 12,000 | 11,000 | |
単収 (㎏/a) | 53 | 50 | 54 | 55 | |
大豆 | 面積 (a) | 50 | 50 | 55 | 45 |
収量 (kg) | 750 | 800 | 820 | 750 | |
単収 (㎏/a) | 15 | 16 | 15 | 17 |
このように、データは単に記録するだけでなく、何かと比較して評価しやすい形で整理しておくのがポイントです。
さて、比較によって現状の評価ができても、そのデータが“粗い”と具体的に何をどうするべきかという方策は導きにくいものです。
つまり「米」であっても、様々な品種やほ場で作っている訳ですから、例えば反収を上げるために資材や労力を増やすにも、“何の品種に対して”、もしくは“どこのほ場で”というより細かい情報がなければ、具体的な方策が定まりません。
このことから、よりデータを細かく分割することで具体的な方策をイメージしやすいようにします。
例えば以下の表は、米の生産状況を品種ごとやほ場ごとに分割したものです。こうすれば品種やほ場ごとの反収の高低が分かり、重点的に対策を取る対象が明らかになります。対象が明らかになれば、対策(肥料や防除、水加減等の強弱)もおのずとイメージができるでしょう。
作物・品種 | 面積 (a) | 収量 (㎏) | 単収 (㎏/a) |
---|---|---|---|
コシヒカリ | 50 | 2,500 | 50 |
ひとめぼれ | 30 | 1,600 | 53 |
ヒノヒカリ | 20 | 1,200 | 60 |
米 合計 | 100 | 5,300 | 53 |
ほ場 | 面積 (a) | 収量 (kg) | 単収 (kg/a) |
---|---|---|---|
甲3丁目 | 35 | 2,000 | 57 |
乙2丁目 | 40 | 2,000 | 50 |
丙7丁目 | 25 | 1,300 | 52 |
米 合計 | 100 | 5,300 | 53 |
無論、これらを「年度」ごとや「計画値」と比較できるように整理することも重要です。
販売状況のデータ
良い農作物を沢山生産できても、それがお金に代わらなければ経営は成り立ちません。したがって、何をどれだけ作ったかという生産データだけでなく、その先の販売状況のデータも整備すべきでしょう。
販売データは、単に作物ごとの販売金額を一覧にするだけでなく、出荷量(=生産量?)と併せた表示をすることで単価も表すべきでしょう。
単価で把握できれば、全体ボリュームだけではなく、品質や市場の評価などを把握することができます。
作物 | 出荷量 (kg) | 販売金額 (円) | 単価 (円/㎏) | 単価 (円/俵) |
---|---|---|---|---|
米 | 5,300 | 1,300,000 | 245 | 14,700 |
大豆 | 750 | 156,000 | 208 | 12,500 |
販売状況も、生産データと同様に年度や計画値との比較分析ができるように一覧で整理してください。
作物 | 項目 | 計画値 | 実績 | 差 |
---|---|---|---|---|
米 | 出荷量 (kg) | 5,000 | 5,300 | 300 |
販売金額 (円) | 1,250,000 | 1,300,000 | 50,000 | |
単価 (円/㎏) | 250 | 245 | -5 | |
単価 (円/俵) | 15,000 | 14,700 | -300 |
最近は、農作物の販売も多様になっていますので、販売先を複数持つ場合は、販売先毎に販売データを整理するとよいでしょう。
販売先 | 出荷量 (kg) | 販売金額 (円) | 単価 (円/㎏) | 単価 (円/俵) |
---|---|---|---|---|
JA | 3,000 | 725,000 | 242 | 14,500 |
ネット直売 | 700 | 187,833 | 268 | 16,100 |
○○商店 | 1,600 | 387,200 | 242 | 14,520 |
米 合計 | 5,300 | 1,300,000 | 245 | 14,700 |
なお、園芸品目の価格は等・階級などの品質によって大きく左右されるので、これらのデータも整理して毎年の自分の販売成績を確認するべきでしょう。
作物 | 等級 | X1年 | X2年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
単価 | 出荷量 (kg) | 割合 | 単価 | 出荷量 (kg) | 割合 | ||
トマト | 秀 | 410 | 17,500 | 70% | … | … | … |
優 | 360 | 4,500 | 18% | … | … | … | |
良 | 280 | 2,500 | 10% | … | … | … | |
無 | 150 | 500 | 2% | … | … | … | |
計 | 380 | 25,000 | 100% | … | … | … |
更に園芸作物は、出荷時期ごとにも単価が変動するものが多いので、少し細かいですが旬ごとにとって見るのもよいでしょう。
作物 | 項目 | 1月 | 2月 | ||
---|---|---|---|---|---|
上旬 | 下旬 | 上旬 | 下旬 | ||
トマト | 出荷量 (㎏) | 2,000 | 2,200 | … | … |
販売金額 (円) | 760,000 | 770,000 | … | … | |
単価 (円/㎏) | 380 | 350 | … | … |
分析とは
以上の生産状況のデータ整理の説明から、分析とは具体的に何をすることなのかが概ね理解できたのではないかと思います。つまり分析とは、対象を「分割」して「比較」することなのです。ココ大事なところ。
ですから、データをExcelなどに「分割」して「比較」しやすい形に整理することが、分析をするうえでは必須なことになりますし、逆にそれさえできれば、別に自己資本比率の数式などをおぼえなくても経営分析はできるのです。
そして、具体的にどのような形でデータを「分割」して、何と「比較」するかは、素朴に経営者として“何が知りたいのか”に基づいて決めます。この“知りたいこと”を「分析目的」と呼びます。
つまりデータを整備するときは、まず初めに何を知りたいのかという「分析目的」を明確に定めなければならないということです。ココすごく大事。分析目的が不明確なまま、他者のやっている分析の形式を真似するだけでは、「データ整備の手間が増えるばっかりで、結局何が解ったのかが実感できない」というようなことにもなりかねません。
農家にとって経営分析がいまいち近寄りがたいものになっているのは、主に大企業向けにオーソライズされた分析手法がそのまま伝えられることが多いからではないでしょうか。この辺は農業を取り巻く関係機関や専門家たちにも問題がありそうです。
※後編へ続きます