農業利益創造研究所

収入・所得

お待たせしました! 2021年農業経営統計データの概要

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2022年3月15日に確定申告が終了し、新たに2021年の青色申告個人事業の農業簿記データが集まりました。今後、農業利益創造研究所では、この最新データを活用したコラムを掲載いたします。

まずは、2021年のデータ数と経営動向の概要を、2020年のデータと比較しながら見てみましょう。

※今回の統計処理は、青色申告決算書2ページの収入金額の内訳の作目名を詳細に集約して営農類型を判断する手法を強化しました。よって、2020年のデータも新しい手法にて再集計していますので、昨年のデータと若干異なっていることをご了承ください。

分析対象の経営体数

農業簿記データの2020年は12,300件、2021年は13,300件でした。これらを地域別に2020年農林業センサス の個人農家数と重ねてグラフにしてみました。棒グラフの左側が2020年、右側が2021年の数値を表しています。

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地域別にみると、農林業センサスの日本全体の農業経営体数とほぼ同じ割合になっています。しかし、北海道だけは農業簿記ユーザー数が突出して多くなっており、北海道農家の経営管理意識の高さがわかります。

収入金額ごとの経営体数

次に、収入金額(農産物販売金額+雑収入)の階層ごとに経営体数をグラフにしてみました。

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個人経営の場合は、事業主+専従者1~2人という経営がほとんどですので、農業所得率平均が25%、世帯全体で600万円の所得を得るために必要な収入は2,400万円です。

2021年簿記データの統計結果では、収入金額の全国平均は2,367万円ですので、全体的にみてもちょうどそれくらいの経営体が多いのだと容易に理解できます。

世帯農業所得ごとの経営体数

収入だけではなく、実際の利益である所得も気になるところです。世帯農業所得(控除前所得+専従者給与)の階層ごとに経営体数をグラフにしてみました。

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2021年簿記データの統計結果では世帯農業所得の全国平均は570万円ですが、階層別に見ると300~500万円の農家がもっとも多くなっています。

また、世帯所得1,000万円以上の高所得農家もそれなりにいて、全体の18%となっています。

一般のサラリーマンを調査した国税庁の民間給与実態調査統計では、令和2年(2021年)の平均年収は433万円であり、年収1,000万円以上の国民は約5%ということですから、ソリマチ農業簿記ユーザーは所得が高い農業者が多いということになります。

営農類型ごとの経営概況

次に、営農類型ごとの農産物販売金額と雑収入(補助金等)を、2020年と2021年の比較でグラフにしてみました。棒グラフの左側が2020年、右側が2021年の数値を表しています。

すべての営農類型で2020年と2021年はほとんど変わりないか、もしくは少し増えています。例えば普通作の2021年は、米価が下がった影響なのか農産物販売金額は減少していますが、雑収入(補助金等)が増加して結局変化なしという状況でした。

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※棒グラフの左側が2020年、右側が2021年の数値です。

さらに、農業所得と専従者給与(足すと農家一戸当たりの収入となる)もグラフにしてみました。上記と同様に、棒グラフの左側が2020年、右側が2021年の数値を表しています。

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※棒グラフの左側が2020年、右側が2021年の数値です。

普通作は約72万円減少していますが、収入金額の変化が無いのに所得が減ったということは経営費が増加したことになります。

酪農は他の作目よりもかなり高所得なのですが、97万円ほど減少しています。近年の飼料費や燃料費の高騰による影響なのかもしれません。逆に肉用牛・花き・工芸作物は2021年の方が増加していますが、その理由は、今はまだわかりません。

これらについては、いずれ別のコラムにて詳しく分析してみたいと思います。

まとめ

2021年のデータが集まりましたので、農業利益創造研究所では今後、2020年と比べて2021年の農業経営はどうだったのかを掘り下げて分析していきます。

農業経営というものは気象や外部環境によっても様々に変わってきます。台風や新型コロナウイルスの影響はどうだったのかも重要ですし、2021年は原油価格が高騰して燃料費が経営に影響を与えています。さらに米価も下がりましたし、年末には牛乳が余って廃棄のリスクがあるというニュースも話題になりました。

このような外部環境を考慮しながら、高所得の経営はどういう特徴があるのかを、今後も分析・研究していきたいと思います。

今回の統計に使用した2021年のデータについては、昨年と同様に統計表として今後掲載予定です。無料登録の会員限定コンテンツですので、ご興味をお持ちの方はご登録のほどよろしくお願いいたします。

関連リンク

農林水産省「2020年農林業センサス
国税庁「民間給与実態調査統計

南石教授のコメント

以前、農家は貧しいと言われたこともありますが、データでみると必ずしも正しくありません。今回の分析で世帯農業所得の全国平均は570万円ですが、サラリーマン世帯の平均所得は550万円程度です。農業所得に加えて農外所得も得ている農家も多くいますので、むしろ農家の世帯所得の方が多いといえそうです。

ただし、農家世帯の方がサラリーマン世帯よりも、働いている家族人数が多い傾向がありそうです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。