農業利益創造研究所

インタビュー

とちあいかの可能性を引き出して単収アップ!ライバルは去年の自分【農業王2025:田野井いちご農園】

「農業王2025」受賞者インタビュー 栃木県鹿沼市の田野井 淳(あつし)さん、恭子さん

ソリマチ株式会社と農業利益創造研究所は、日本農業に無くてはならない個人事業農家を応援するために、優れた経営内容で持続可能な優良経営を実践している農業者を表彰する「農業王 アグリエーション・アワード 2025」を実施しました。

今年で四年目となる本アワードでは、約10万件の農業会計データと関わるソリマチ株式会社が、青色申告決算書をもとに経営の収益性・安全性を審査して、最終的に北海道から九州までの9ブロックから、普通作(米+麦・大豆)部門、野菜部門、果樹部門、畜産部門、花き部門の「農業王」を選出いたしました。

農業王には、収益性、安全性、経営力、地域貢献、持続可能性に優れた「SDGs農業賞」15名、収益性、安全性に優れた「優良経営賞」87名の二つの賞があります。

野菜部門で「SDGs農業賞」を受賞した栃木県鹿沼市の田野井 淳さん、奥様の恭子さんから、今回はお話をお聞きし、その経営についてご紹介します。

2022年に続いて2回目の農業王受賞!

いちごの生産量52年連続全国第一位の栃木県。中でも、鹿沼市は全国有数のいちごの産地です。今回農業王を受賞した田野井さんの田野井いちご農園は鹿沼市に位置し、ほ場は36a、ハウスは14棟で、品種は「とちあいか」一種類です。2022年の農業王受賞インタビューの直後に、とちおとめからとちあいかへ全面的に切り替えたそうです。

「私がとちあいかへの切り替えを行った当時、県はとちあいかに力を入れていて、市場のトレンドも移っていく雰囲気がありました。主軸がとちあいかに移るなら乗り遅れたくない、という気持ちは強くありましたね」

とちあいかの長所は単収が多い点と、管理が楽で作りやすい点だと田野井さんは言います。特に単収に関しては、とちおとめと比べて2~3割伸びているそうです。

「ただし、とちあいかに切り替えて困ったこともありました。それは雇用の確保です。収量が増えれば作業量も増えますから、これまでと同じ体制では収穫が間に合いません。どうやって人手を確保すればよいのかには、頭を悩ませました」

田野井さんは思い切って、平日のみ働く方と土日のみ働く方に分けて募集を行ったそうです。これは農家として珍しい試みです。結果として「土日は家族のために空けておきたい主婦さん」や「土日に副業として働きたい会社員や学生」の応募があり、狙い通りに必要な雇用を確保できました。

雇用を増やして廃棄を減らし、日々のゆとりを

農業経営においては、費用削減のために雇用を抑えるのが常道ですが、田野井いちご農園では真逆で、ゆとりを持てるように雇用を増やしています。現在専従者は奥様の恭子さんとご両親の3名、常勤雇用者が2名、さらに繁忙期にはパートさんを7名雇っています。

インタビューを行った12月頭は、まだ収穫時期のピークを迎える前のため、14時には全て作業を終えているそうです。繁忙期でも、5時には作業を終わらせるのを目標にしているそうです。

現在、田野井さんのお母様は、収穫作業は行わずパック詰めのみで、お父様も作業量を抑えています。「両親も高齢なので、二人が農作業から離れても問題なく回る体制を整えておきたいんです」と田野井さんは言います。

恭子さんもこう話していました。「私は非農家の生まれなので、農家に嫁ぐとなった時、早朝に起きて夜遅くまで働くというイメージがあって、とても大変そうだと思っていました。でも、実際はそんなことはなくて、無理のない時間帯で働けています。農家の奥様やパートさんなど、女性同士のコミュニケーションを大切にして、楽しく過ごせています」

雇人費を増やしたら利益が減るのでは?と疑問を感じる方もいるでしょう。しかし、田野井さんはこの点にもしっかりと答えを出していました。

「とちあいかはとちおとめに比べ登熟が早く、収穫人数の不足は過熟果につながり廃棄分が増えます。雇用を確保し収穫サイクルを安定させることで、収量増および廃棄減となり、雇人費をまかなえるようになりました」

また、作業をする人が多ければ自分が自由に動けるので、薬散などの作業が適切な時に行え、結果的にいちごの収量を上げることにもつながっているのでは、とのことでした。雇用を増やすことで廃棄が減って収量が増えるという素晴らしい循環です。

とちあいかの可能性を引き出して単収アップ

田野井いちご農園の経営数字を見てみますと、全体的に経営規模が大きく、世帯農業所得54.8%という素晴らしい経営です。

経費を見てみると、ずば抜けて低いわけではありません。また田野井いちご農園は農協出荷100%のため、直接販売で単価を上げているわけではありません。つまり、売上=収量が大きいので収益を上げているという構造が読み取れます。

田野井さんも経営の秘訣について「とにかく単収をあげること、それが大切です」と語ります。農業王の受賞は2024年度の決算数字を元にしていますが、今年(2025年度)も2024年度より単収が上がったというので脱帽です。とちあいかはもともと単収が上がりやすい品種で、田野井さん以外の周りのいちご農家も単収が上がる傾向にあるそうですが、そうだとしても驚異的な数字です。

単収を上げる秘訣を聞いてみますと、「理解を深めること」というお返事でした。「たとえばとちあいか栽培のマニュアルに対して、そこに書かれた意味を深く理解することが大切です。なぜこの時期にそれをやるのか?を考え、理解を深めることを繰り返せば、基本的な栽培方法に基づいて収量を上げられます」

田野井さんは親しいいちご農家の方々と、栽培方法について熱心に話し合って、お互いに刺激を受けて切磋琢磨しているそうです。「地元で単収トップの方は、1反あたり11トンと聞いております。私もその数字を目指しています」と、高い目標に向けて熱意をにじませていました。

栽培上の工夫をこらして

他に田野井さんの栽培上の工夫としては、土壌分析と堆肥作りです。ハウスごとに4種類の土壌を検査して、土壌改良を行っているほか、牛糞を畜産農家から購入して堆肥を自分で作っています。

「昔は自分で堆肥を作っている方が多かったのですが、今はかなり減りましたね。堆肥作りには設備や機械が必要なので、そこにお金をかけるより買った方が効率的だと考える方もいるでしょう。私としては、自分で堆肥を作った方が融通が利きますし、そこまで大きな手間ではないので続けるつもりです」

あと、新しい取り組みとしては、田野井さんは農協を通じて苗を販売する取り組みを3年前から始めました。苗作りはプレッシャーが大きく、精神的に大変な面もありますが、繁閑期にパートさんの作業を確保し、雇用を守るという目的もあって続けているそうです。

新規就農者へ一言

最後に、新規就農者への一言をお聞きしました。

「初めは、とにかく他人の意見を聞くことが大切です。ただし、大多数の人の意見を聞いてしまうと、それぞれ違って混乱してしまいますから、「この人だ」と決めた師匠を徹底的に真似することですね。自分の色を出すのは、初心者のうちは厳禁です。自分なりの試行錯誤は、実際に農家として結果が出て、利益を上げてからですね」

田野井さんは雇用を増やしゆとりを作ることで、廃棄を減らして単収を増やし、収益を上げる、という理想的な環境を作り出しています。とちあいかという単収を増やしやすい作目の特徴もありますが、田野井さんの努力と技術に支えられての結果であることは間違いありません。

農業王の受賞、おめでとうございます。

関連リンク

農業利益創造研究所「無駄のないシンプル経営が強い!【農業王 2022:田野井いちご農園】」
ソリマチ株式会社「「農業王2025」受賞者決定!」
ソリマチ株式会社「農業王SDGs」

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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