農業利益創造研究所

インタビュー

カイゼン&チャレンジで38年間黒字経営!「有限会社グリーン」

農業法人インタビュー「有限会社グリーン」

「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農業経営者が新潟県にいました。

新潟県長岡市の農業法人「有限会社グリーン」の代表者「平石 博」(ひらいし ひろし)さんの経営をご紹介します。

営利組織にて農業を行う「農業法人」は、どのような方法で利益を創造しているのでしょうか? インタビューを通じて、そのノウハウに迫ってみたいと思います!

「絶対に儲ける」という思いで、38年前に法人化

有限会社グリーンは新潟県長岡市で米を主作目としている農業法人です。具体的な作目は水稲40ha、そば5ha、野菜などで、シャインマスカット、米から作る甘酒も取り扱っており、全体の7割が消費者への直接販売です。代表の平石さんの他、奥さんが注文対応などの事務を担当していて、平石さんの息子さんも含めて従業員は現在5名。創業以来、38年間黒字経営を貫いている優良農業法人です。

平石さんは父から田んぼを継いで農業を始めました。絶対に利益を出したいという思いから、法人化に踏み切ったのが38年前。当時、個人農家が法人化することは非常に珍しい時代でした。

「儲からないという理由で、農業を辞めてしまう人が多かった。うちも貧しかったしね。だから、「そんなことはない。絶対に儲けて見返してみせる!」と思ったのが、法人化のきっかけです」

農業を規模拡大する上で避けて通れない課題が、採用や人員育成です。平石さんが従業員との関係を学んだ原点は、20年ほど前に高校生のアルバイトを使った経験だと言います。

「春休みからGWくらいまでアルバイトとして来てもらって、よく働く学生だと20万円くらいになります。その一割を、冬のボーナスと称して家まで直接持っていくんですよ。この「初任給」で親御さんに何か買ってやりなよ、と言うと、親御さんもすごく喜んでくれるし、来年の春もまた働きに来てくれるんです」

そうやって毎年働きに来ていた学生のうち二名が、最終的にグリーンに就職したそうです。人を使う秘訣は?と聞いてみると、自分がしてほしいことを従業員にする、と平石さんは言い切っていました。福利厚生や退職金積立、ボーナスについても、できる限り充実させたいとの思いがあるそうです。

儲かる秘密1:直接販売&六次産業化をいち早く実践!

農業で利益創造をする上で、このところ注目されている「直接販売」。グリーンも直接販売によって、いっそう利益が出るようになったと平石さんは言います。

グリーンが直接販売を始めた最初のきっかけは、1993年に記録的な冷夏によって引き起こされたコメ不足(平成の米騒動)です。スーパーでは日本米が買えない事態に陥ったため、農家に直接電話して、「お米を売ってほしい」と嘆願する消費者がたくさんいました。

注文を受けて精米して梱包・発送するのは相当な手間ですから、この時に直接販売のきっかけを得たにも関わらず、次第に面倒で止めてしまった農家が多かったそうです。しかし、平石さんは違いました。

「美味しかった、と食べた方から直接感想をいただけるのが嬉しくて、やみつきになりました。直接販売で利益が上がることにも気づきましたし、これは続けていきたいと思いました」

当時はwindows95が出たばかりのインターネット黎明期。パソコンでの生産管理も既に導入していた平石さんは、さっそくHPを開設してネット通販にも取り組みました。さらに近所の製菓会社のカタログにお米を載せてもらうなど、様々なルートで注文は順調に増えていきました。

直接販売が増えてきたため、グリーンは自前の精米所を開設し、とうとう平石さんは米の検査員の資格を取ったそうです。この資格があれば外部に検査を頼む必要がなく、コストも時間も節約できます。

また、「野菜も一緒に注文したい」という声がお客様から届くようになったため、グリーンではとうもろこし、アスパラ、雪下人参と手を広げ、さらにシャインマスカットやいちごも手掛けるようになりました。都会のスーパーで買うのとは味が違う!と特に実感できるものを選んで、栽培しているそうです。

さらにグリーンは、流行りの六次産業化にもいち早く取り組みました。自社米を原料に麹を使って作る甘酒ドリンクは、現在も年間1~2万本を売り上げるヒット商品で、新潟県長岡市のふるさと納税返礼品にも選ばれています。稲作の農閑期である冬に注文が伸びる点も、会社にとって嬉しいポイントです。

「利益を出すために加工商品を開発したのですか?」と平石さんに尋ねると、それよりも新しいことにチャレンジしたい!という思いが強かった、とのお返事でした。麹造りの先生に学んだり、知人の元杜氏に意見を求めて厳しいダメ出しをされたりと真剣に取り組んだかいがあって、初年度は甘酒ブームも相まって六万本を売り上げ、製造施設にかかった費用もすぐ回収できたそうです。

儲かる秘密2:「カイゼン」を農業に応用して生産性アップ!

グリーンは黒字経営を続けている優良農業法人ですが、数年前に「カイゼン」を取り入れるための外部コンサルを受けてから、生産性がさらに向上したそうです。

「カイゼン」とは、生産現場の作業効率や安全性の確保を見直す活動のことです。元は製造業での言葉ですが、その有益性が評価され、現在ではあらゆる業界にて取り入れられています。

たとえば、「工具入れが乱雑だ」という議題が出た場合、「どうして片付かないのか」を皆で話し合い、「どこに何があるかわかるように札を貼る」という解決策を考え、実行します。そうすると、道具を探す時間が短縮できます。これがカイゼンの一例です。

効率化以上にカイゼンが目指すのは、「どうしたら、現状よりも良くできるか?」と常に考える当事者意識と自分で考えて行動する主体性を従業員に持たせることです。農業は自然相手の仕事ですから、どうしても全てが計算通りにならない時もあります。それでも、カイゼン活動や毎朝の朝礼や、チーム内での課題解決ミーティングの成果もあり、お互いに助け合うことでスケジュール通りに作業が進むようになった、と平石さんは言います。

カイゼンの他にも、グリーンが実践している作業効率化で興味深いのは、「農業機械の整備」です。

農業機械は故障すると修理に何十万とかかる上、農作業がストップして時間も無駄になります。それを避けるため、グリーンでは農業機械の整備や簡単な修理は自社内で行っています。部品のカタログも社内にあり、「この部品が壊れたので取り替えてください」とメーカーに自分で連絡することもあるとか。部品を早く注文すれば、それだけ早く届いて、早く修理ができるからです。

「農業機械の点検をお願いするだけで70万円取られてしまう。それなら、自分で整備をやらない手はありませんよね。ベアリング等しっかり点検していますから、故障することは滅多にありませんよ」と平石さんは言います。

このような様々な創意工夫や取り組みをお聞かせいただいた最後に、38年間も黒字を続けられた理由は何ですか?と平石さんに尋ねると、「想いを持っていたからです」と意外な回答が返ってきました。

「こういう農業をやるんだ!という強い気持ちがないと、結局は何をやってもダメだと思います。熱意を持って、従業員に「創業理念」を伝えていく。言葉だけじゃなくて、行動で。そうしないと、誰もついてきません。成功できたのは想いがあったからこそ、です」

平石さんは、さらに未来を見据えています。五年前に平石さんの三男がグリーンに入社し、跡継ぎとして鍛えている最中だそうです。とにかく誰よりも働け!と言い聞かせているとか(笑)。五年で農業を教えたから、次の五年で経営を教えて自分は引退しますよ、と平石さんは嬉しそうに語っていました。

農業のトレンドとなりつつある法人化、直接販売、六次産業化に、時代を先取りして取り組み、利益創造を行ってきた平石さんの経営感覚が優れているのは、言うまでもありません。しかし、最後に経営を成功に導くのは、もしかしたら「想い」なのかもしれない、とお話をお聞きして感じました。平石さんの想いは息子さんへと受け継がれて、末永く農業の未来を創っていくことでしょう。

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 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。