農業利益創造研究所

インタビュー

「伊藤牧場」やるからには大きく!10倍に規模拡大した酪農経営術

レジェンド農家 インタビュー「伊藤牧場(伊藤 髙行さん)」

「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農家が、栃木県にいました。

栃木県那須町で牧場を営んでいる「伊藤 髙行」(いとうたかゆき)さんの経営をご紹介します。

儲かる秘密1:「人」を大切にして、継承時から10倍の規模に!

伊藤牧場は、預託中の子牛も合わせて839頭(取材当時)の大所帯です。その中でも乳牛が455頭と半分以上を占めていて、酪農中心に売上を上げています。

頭数だけではなく利益面から考えても、個人事業主の牧場としては非常に大規模です。今年の10月には新しい牛舎が完成する予定で、さらに大きくなっていくそうです。

実は伊藤さんが牧場を継いだ際、牛は約80頭と現在の1/10でした。「やるからには大きくしたい」との思いで、果敢に拡大路線を取ってきたそうです。ただし、最初のうちは大変で、「夏なのにオリオン座が見える時間(午前四時頃と推察されます)」まで働いていたこともあるとか。

これだけの牧場を経営するには人手が必要。現在、伊藤さんの他に奥さん、ご両親の専従者3名、従業員4名、技能実習生5名が働いています。

「とにかく人に恵まれています。従業員は皆経験も長くて能力も高く、安心して任せられますから、今は夏にオリオン座を見ることはありませんよ(笑)」と語る伊藤さん。コーヒーを持っていって二人でお茶をしたり、話すための時間を設けたりと、スタッフとのコミュニケーションを大切にするのが気持ちよく働いてもらう秘訣だそうです。

また、酪農のことを知らない技能実習生には、「なぜこの仕事をするのか?」を丁寧に説明し、納得感を持ってもらうそうです。例えば牛たちのカルテを書くのは、実習生の仕事。治療の一部を任せることで責任感が芽生えて、牛の体調の変化や発情の兆候にも気づきやすくなるそうです。

「信頼して任せることで、人は変わっていきます。見違えるほどに成長した方もいますよ」と嬉しそうに語る伊藤さん。大規模牧場を運営する秘訣の一つは、人材育成力と言えそうです。

儲かる秘密2:必要な費用は惜しまず、高品質を追求する

伊藤牧場ではオーチャードグラスやクローバー、ティモシーなどの牧草を栽培している他、足りない分は業者から仕入れ、嗜好性を高めるためパイナップルの果実を混ぜています。

飼料の材料は業者に成分分析を頼んでチェックするほか、飼料用のミキサーを使う時も、牧草を入れる順番や速度が一定になるように細心の注意を払っています。そういう些細な違いで、飼料の出来が変わってしまうそうです。

「牛乳の元になるのは、牛の胃にいる微生物が分解した飼料です。ですから、飼料の出来栄えは牛乳の品質に直結するんですよ」と伊藤さんは語ります。高品質にこだわっているため、牧場の売上の四~五割は飼料代に消えてしまうそうです。

「もっと安いえさを使うこともできます。でも、飼料の質が悪くなれば牛の体調も悪くなり、長い目で見たら損をするかもしれない。ですから、必要経費と割り切っています」

もう一つ、牧場の経費で大きなものは医療費です。ですが、それも伊藤さんは「これ以上下げるのは無理」と判断しているそうです。

「医療費を下げるには管理を徹底して病気の牛を減らす必要がありますが、そこまで完璧を追求すると人間側がつぶれてしまいます。100%ではなく80~90%を目指すのが牧場運営のコツですね」

利益創造には「費用を抑える」「売上を上げる」という二つの柱がありますが、あえて一方のみに特化するのも経営戦略の一つです。伊藤さんは費用を抑えるのは難しいので、利益を上げるには拡大路線しかない、という考えに基づいて、現在の拡大路線を取っているそうです。

積み重ねが見える!品種改良の楽しさとは

もう一つ、伊藤さんが熱を入れて語っていたテーマは品種改良。繁殖は牧場経営において大切な要素の一つですが、適切な選択を行って何世代も繁殖を重ねることで、牛の好ましい性質を伸ばしていくことができます。

たとえば、乳房が大きいほど乳量が増えるので、乳房を大きくしていく。ただし、乳房が垂れているとミルカーが上手くつかないので、もっとお尻を上げる……など、色んな考えの元に戦略立てて改良を行っていきます。

実際に、伊藤さんが牧場を受け継いだ時よりも、伊藤牧場の牛は乳房やお尻の形が良くなっていて、過去には牛の体型を審査するコンテストで入賞した自慢の牛もいるそうです。

さらに、伊藤さんは驚くべきファイルを見せてくれました。伊藤さんは残存している登録証明書や記録に基づいて、昭和39年以降の伊藤牧場にいる牛の血統図を全て作成した(!)そうです。

もちろん非常に膨大な量です。「この牛とこの牛が親子なんだ!という驚きがあったりして、始めると楽しくて止まらなくなりました。ただの趣味なんですけどね」と伊藤さんは照れ交じりに謙遜されていましたが、この情熱もまた、牧場経営を成功させる秘訣の一つかもしれません。

最後に後継者の話になった時、息子が継いでくれたら嬉しいけど、継ぎたくないのならそれは構わない。誰か別の方に渡して、この牧場を末永く守っていってほしい、とおっしゃっていたのが印象的でした。別の方も運営できるようにマニュアルを作らないと、と語る伊藤さんは、牛を心から愛し、牧場の未来を考える立派な農業経営者でした。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。