
JAインタビュー 「JA福島県中央会 農業振興部」
農業利益創造研究所では、優良な農家にインタビューして優れた経営手法を紹介しています。
今回はそのインタビュー企画の延長として、JAさんの「農業経営管理支援の取り組み」により、農家の所得向上に貢献する事例を紹介していきます。全国のJA関係者の方にはもちろんのこと、農業を営む方にも参考にして頂きたいと思います。
※「農業経営管理支援」とは、JAが農家の取引を記帳代行で簿記入力し、確定申告の支援を行い、簿記や販売データを元に経営診断や経営指導を行う取り組みのことです。
福島県の農業は
今回は、JA福島県中央会 農業振興部に所属する「古川 明男」さんにお話をお聞きしました。
都道府県別面積で第3位の福島県は、2020年農業センサスによると、農業経営体数は42,598件と非常に多く、これも第3位です。
しかし、5年前の経営体数と比べると、約1万人減少していて20%減です。これは全国平均の減少率とほぼ同じですので、福島県だけが特に激減しているわけではありませんが、高齢化や農業人口の減少は全国同様に課題となっています。また、JAは合併が進んで、現在5JAとなっています。
そのような状況でも福島県の農業は、産出額全国2位の桃を筆頭に、お米、りんご、なし、きゅうりとトップクラスの生産を誇っており、さすがの貫録を見せています。
また、めずらしい特産品として、あんぽ柿が有名です。あんぽ柿とは、渋柿を硫黄で燻蒸して乾燥させる独特の製法で作られる干し柿の一種です。普通の干し柿は乾燥して硬くなりますが、あんぼ柿は柔らかくてジューシーな触感を持っていて、独特の美味しさがあります。

「福島県は、桃の購入額が全国1位なんですよ、県民のみなさんが自分で食べるのはもちろん、親戚やお客様にたくさん贈答で贈るからです。それから、納豆支出金額も全国1位です。これも意外かもしれませんね」と古川さんは誇らしげに語ります。

福島県内の農業簿記ユーザーの経営実態
ここで、福島県の農家の経営についても見てみましょう。福島県内のソリマチ農業簿記ユーザーのデータを分析すると、果樹農家は全国平均と比べて非常に高い世帯農業所得(農業所得+専従者給与)です。野菜農家の所得額は全国平均並みですが所得率が高く、効率の良い経営をしている農家が多いことがわかります。なかなかの優良経営と言えそうです。
果樹 | 野菜 | |||
---|---|---|---|---|
福島県平均 | 全国平均 | 福島県平均 | 全国平均 | |
経営体数 | 31 | 1175 | 119 | 5283 |
収入金額平均 (千円) | 16,994 | 12,491 | 14,766 | 20,063 |
世帯農業所得額 (千円) | 6,251 | 4,315 | 4,964 | 5,367 |
世帯農業所得率 (%) | 36.7% | 34.5% | 33.6% | 26.8% |
東日本大震災から11年、農業の状況は
2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、福島県の産業は大打撃を受けました。地震・津波によって、耕地面積149,900haのうち田耕地面積5,588ha、畑耕地面積335haが流失・冠水被害を受けました。加えて、原子力発電所の事故による放射能汚染による被害も深刻です。
とりわけ農業に影響を与えた3つの要因があります。1つめは避難指示です。原発事故で避難指示のあった12市町村(双葉町、浪江町など)の総農家数は約14,600戸、震災前の県内総農家数の約15.0%です。土地を離れれば、これまでの農業を断念するしかなくなります。これによって県内の農家数や生産量が大きく減少してしまいました。
2つめは、放射性物質の大気中への拡散に伴って、モニタリング検査をして基準値を超えた農産物は出荷が制限された、という被害です。せっかく生産した作物が出荷できず、悔しい思いをした農家さんも多いことでしょう。今では、生産・販売する農産物は放射性物質の基準値越えは出ておりません。
3つめは風評被害です。ニュースでご覧になった方も多いかと思いますが、「福島県産は買わない方がよい」という評判が広がり、米の全量全袋検査や青果物の全戸全品目検査をして安全性が保障された農産物でも消費者が手に取らない、という事態が起きました。
これらの被害により、福島県の震災後翌年の農業産出額は479億円も一気にダウンしました。数字だけ見ても、信じられないほどの大打撃です。それでも11年かけて、徐々に回復しつつあります。
「現在一部の山林はまだ除染が必要で、野生のキノコやいのししなどのジビエを食べるのは控えるべきです。しかし、引き続き除染作業や、農地にカリウム資材を入れて作物が放射性物質を吸収しないような対策を行っています。もちろん食品の放射性物質検査は徹底していますし、双葉や大熊地区では再開に向け試験栽培も始まっています。安心して福島産の農産物を食べて欲しいですね」と古川さんはおっしゃっていました。
経営管理支援の取り組み
福島県での記帳代行の取り組みは2010年、つまり震災の前の年からスタートし、現在サービスを利用している農家数は900人です。
福島県では、ソリマチの記帳業務支援システムを使って、具体的に以下のような経営管理支援を行っています。
- 複式簿記による取引記帳代行
- 青色申告決算書の作成支援
- 消費税申告書の作成支援
- 所得税確定申告書の作成支援
- 専従者給与の源泉徴収、年末調整の支援
- 経営分析
また当初は、農家さんがJAに農産物を出荷した精算販売データを集計し、農産物ごとの出荷量や等階級、単価などの出荷分析をシステム化し、農家さんに分析診断表を提示する取り組みを行っていたそうです。
この「出荷データ分析・診断システム」は、
- 等階級別出荷重量比較表(本人とJA平均との比較)
- 3か年等級別出荷比較
- 月別出荷重量比較
- 10a当り販売高比較

などを作目ごとに行うという本格的なものでした。自分の作目の出荷数量や等階級、品質を他と比較することより気づきが与えられ、来年度への肥培管理の計画につながります。
しかし、震災後の混乱の中でこの取り組みが中断し、現在ではこの分析は行われていません。体制が整って、この取り組みが再開されることを願っています。
経営管理支援 取組みの課題
農家の記帳代行や申告支援の取り組みは、農家の方からとても喜ばれていますが、その一方で課題も山積みです。
まず、記帳代行する農家の数に対応できるだけのJA側担当者の増員が思うようにいかず、サービス拡充できないという現実があるそうです。この問題は、経営管理支援を行っている全国のかなりのJAにとって同じ課題でしょう。
さらに業務が効率的に行えるよう、出納帳などの帳簿を丁寧かつ正確に記載してもらう、帳簿は年1回ではなく定期的に提出してもらう、などの農家の方の協力が必要です。そのためにも、農家の方への記帳指導や教育を行っていきたいと、古川さんはおっしゃっていました。
あと2年後にインボイス制度も始まり、いっそう記帳代行の手間が増えることが予想できますので、それまでに経営管理支援の仕組みも変化が求められることになるでしょう。

まとめ
JA福島は、2021年11月に開催された「JA福島大会」で3年間の基本方針を策定し、震災前までの農業産出額に回復しようと目標を立て、持続可能な福島農業の未来づくりを決意しました。
「ふくしま園芸ギガ団地(仮称)」構想実現により園芸品目へのシフトを図ったり、農産物の輸出拡充、儲かる農業に向けた「農業経営モデル」の構築など計画しています。
また、ブランド化して売り出している新品種のお米「福、笑い」は、福島県が14年の歳月をかけて開発し、令和3年産米から一般栽培を開始しました。「かおり、あまみ、ふくよかさ」の三拍子そろったお米で、高価格帯での流通を目指しています。

他にも地域団体商標を取得した南会津郡の「南郷トマト」、そして、昭和村の日本一のかすみ草も、福島県の有名な農産物の一例です。
震災から11年、未だに影響はゼロになってはいません。しかし、このように明るいニュースも生まれてきています。福島県農業が「福島農業 笑顔!」 になるように、全国みなで福島県農業を応援していこうではありませんか。
関連リンク
福島県 新ブランド米「福、笑い」
JAグループ福島/JA福島中央会
コメントを投稿するにはログインしてください。