農業利益創造研究所

インタビュー

学校給食&地産地消!東京で農業の未来は明るい「近藤ファーム」

レジェンド農家 インタビュー「近藤ファーム(近藤 剛さん)」

「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農家が、東京都にいました。

東京都瑞穂町で野菜農家を営んでいる「近藤 剛」(こんどう ごう)さんの経営をご紹介します。

令和の世には、東京で農業が盛り上がる時代へ

農林水産省「農業構造動態調査」によると、東京都の都道府県別農家数(平成31年)は、最下位の4,700戸です。一般的に見ても、都会の代表格である東京都に農業のイメージはさほどない、のではないでしょうか。

ですが現在、東京都で新規就農者が増えてきているんですよ、と今回インタビューした近藤ファームの近藤さんは語ります。

2009年、東京都瑞穂町にて東京都新規就農者第1号が誕生いたしました。それまで東京で新規就農は難しいと考えられていましたが、こうして前例ができると、自分も就農したい、という方が続々と集まり始めました。

近藤さんも応援者の一人となっている「東京NEO-FARMERS!」という、東京で新規就農した方や現在就農を目指している方が結成したグループがあり、直売やセミナーなどのイベントを通じて、「東京での新規就農」の周知に貢献しています。

このような活動に見るように、東京での農業は、今大きな注目を集めています。一大消費者圏が傍にある点が有利だ、ということはすぐに想像できますが、それ以外はどうなのでしょうか? 近藤さんにお話をお伺いしました。

儲かる秘密1:学校給食というブルーオーシャンへ参入

近藤さんは現在40歳で、奥様との結婚による婿入り就農。農家の家に生まれたわけではなく、農業はそれまで全くの未経験だったそうです。

「最初から農業には大きな可能性を感じていました。成果が目に見えるし、やりがいもありそうで、就農にあたって不安は感じませんでした。何も知らないからこそ、ポジティブでいられたのかもしれません」

当時、近藤ファームはだいこんとブロッコリーと野菜苗を主に生産し、大半を市場に出荷していました。

「市場に出せば相場に価格を左右されます。自分で作る野菜には自分で値をつけたい。ですから外に販路を求めて、地元のスーパーや学校給食センターに納入するようになっていきました」

農家では世代間で意見が食い違う事例も少なくありませんが、これまでのやり方を一新しようとする近藤さんに対し、義両親は理解を示してくれたそうです。

「販路開拓そのものは、向こうからお話をいただくことが多くて苦労はしませんでした。ただ、決まった日に決まった量を納入するのは非常にプレッシャーです。特に学校給食は、絶対に量を変えるわけにはいきませんから、どうしても足りなければ、よそから買って納入します」

そのようなプレッシャーがあったとしても、学校給食は農家にとって「ブルーオーシャン」だと近藤さんは語ります。スーパーに卸す場合は袋詰め作業が必要になるケースも多く、その分のコストがかかります。ですが、学校給食はその作業がない上に価格も安定していて、利益率が良いそうです。

「「地産地消」が推奨されているのは、東京都も同じです。ただ、現在は遠方から農作物を仕入れている学校がとても多い。東京に食材を安定供給できる農家があるとわかれば、東京の農家から仕入れよう、と考える自治体や学校も増えるはずです。学校給食にはまだまだ潜在的なニーズがある、と見込んでいます」

現在では学校給食センターを始め、スーパーや民間給食施設(老人ホームなど)に直接卸していて、市場にはほとんど出していないそうです。業者を通じて流通の手配も進めていて、今後も納入先を拡大していく計画が順調に進行中とのことです。

儲かる秘密2:品目を絞り、スマート農業で効率化!

販路を外に求めている初期は、売り先のリクエストに応えて品目が増えていき、最大で30品目ほどを作っていました。ですが、それでは無駄が多いと考えた近藤さんは、慎重に品目を絞っていきました。

現在、近藤ファームのほ場は5ha。購入や貸借を繰り返して、面積も拡大してきました。メインの作目はこまつ菜・ねぎ・さつまいもで作付面積は1haずつ、残りのほ場でキャベツ・きゅうり・かぶを栽培しています。

「品目を絞れば、栽培技術の向上も早くなります。特にうちではスタッフを何人も雇用していますから、それぞれのスキルが最終的な収量に影響します。収量を上げるには品目を絞るのが有効ですね」

近藤さんはスマート農業にも意欲的です。システムや機械の導入にコストがかかったとしても、空いた時間で営業や広報に力を入れればよい、という考えだそうです。

たとえば近藤ファームでは、直進アシスト機能付きのトラクターを購入したり、スマートフォンで作業の記録を入力できる生産管理システム「ソリマチのフェースファーム生産履歴」を導入し、複数のスタッフがつけた記録を簡単に共有できるようにしています。

「以前は紙で記録をつけていたのですが、複数人で作業しているので管理が大変でした。フェースファームを導入してから、ずいぶんと効率化されて助かっています」と近藤さんは言います。

また、さつまいもの保存用として、近藤ファームは去年、自動で常に温度が13℃に保たれる倉庫を新設しました。さつまいもは寒すぎると腐ってしまうので、これまでは保存方法に頭を悩ませていたそうです。さつまいもは加工品の需要もある上に長期保存も効くので、今後注力したい作目だそうです。

農業を志す若者に、その場所を提供したい

近藤さんは、令和3年度「全国優良経営体表彰」の「担い手づくり部門」・「経営局長賞」を、見事受賞されました。経営状況が評価されたことはもちろんのこと、従業員の育成という点も高く評価されたと推察されます。

近藤ファームの従業員は現在、社員3名、アルバイト5名です。社員は30歳、23歳、22歳と、農家の平均年齢から考えますと、信じられないくらいに若手です。若い方は同年代のいる職場で働きたがるので、自然と若い人が増えてきたんですよ、と近藤さんは言います。

「以前にindeedの無料プランでアルバイト募集を掲載すると、5日で15件の応募がありました。十分に選んで採用できる応募数です。大消費圏が傍にあることだけではなく、人材の確保がしやすい点も、東京農家の強みだと私は考えています」

東京都には「ぜひ農家で働きたい」という希望を持った人がたくさんいるのに、その場を提供できる農家が少ないため、「人余り」の状態になっていると近藤さんは言います。地方にとっては非常に羨ましい話であり、農業の未来にとって希望が持てる話でもあります。

「私はもっと経営を拡大して、農家で働きたい方に十分な雇用の場を提供したいんです。それが、今の一番の目標ですね。現在の東京では、若い人が農業に興味を持っても、農業に触れられる場所がない。レストランでバイトするように気軽に、農家でアルバイトできる環境を整えるのが、私の夢です。そして、若い人たちに技術や経営を教育していきたいですね、野菜作りはもちろん好きですが、人づくりもやっていきたいんです」

若い人は農業に興味がない、というのは、ひょっとして思い込みなのかもしれません。法人化も視野に入れているし、ゆくゆくは別の場所に支店を持ってもいいですよね、と夢を持って語る近藤さんは、東京農業の未来を明るくする経営者の一人であることは間違いありません。

関連リンク

東京都瑞穂町 近藤ファーム
東京NEO-FARMERS!
農林水産省「農業構造動態調査
ソリマチ「facefarm(フェースファーム)生産履歴

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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