農業利益創造研究所

インタビュー

「近藤牧場」自然体の肥育で美味しい「とちぎ和牛」を育てる

レジェンド農家 インタビュー「近藤牧場(近藤 美好さん)」

「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農家が、栃木県にいました。

栃木県下野市で肥育牧場を営んでいる「近藤 美好」(こんどう みよし)さんの経営をご紹介します。

儲かる秘密1:昔ながらのやり方で丁寧な肥育を

栃木県のブランド牛「とちぎ和牛」は、栃木県内の認定生産者により肥育された黒毛和牛で、枝肉(牛から皮や骨、内臓などを取り除いた状態のもの)の格付けが4等級以上に限られています。キメが細かく、とろけるような旨みと甘みが特徴とされ、有名レストランでも取り扱われています。

今回インタビューした近藤美好さんは、「とちぎ和牛」の認定生産者の一人であり、その肉の美味しさには定評があります。

「近藤牧場のお肉を仕入れたいのですが、いつ入荷しますか?」という問い合わせが、JAにあるくらいだとか。こんなに美味しいお肉をどうやって生産しているのかぜひ知りたい、と遠方から尋ねてきた業者もいるそうです。

「特別なことをしているんでしょう、教えてくださいよ、と色んな方から聞かれるのですが、全く心当たりがないんですよ。もしかして、ここの水がいいのかもしれないですね」と近藤さん自身は控えめです。

近藤さんは20年前に親から経営を引き継ぎ、現在は奥様と息子さんの3人で牧場を営んでいます。黒毛和牛が約320頭、水稲を10ha栽培し、田植え・稲刈りの農繁期にはパートを数名雇っています。

稲わらは牛の飼料として非常に評価が高い植物です。近藤さんは、自身の田んぼで確保できる分に加えて、たい肥を提供する代わりに稲わらを受け取る契約を20ha分、他の稲作農家と結んで、必要な稲わらを確保しているそうです。

意外だったのは、基本のえさは JAから購入した配合飼料という点です。「昔は自家配合を使っていましたが、そうすると肉質が悪くなった時にえさのせいと思い込んで、試行錯誤で次々に配合を変えてしまって、そのせいで肉質が安定しなくなるんです」とのことです。

また、近藤牧場では、自動給飼機や監視装置などの機械はほとんど導入していません。近藤牧場は昔ながらの木造牛舎のため、構造の問題で導入が難しいのだとか。

「機械で餌をあげても結局見回りに行くでしょうから、自分で餌をあげても大した手間ではないかなと思います。機械のために牛舎を改造するとなると、コストもかかってしまいますから」と近藤さんは自然体です。

昔ながらのやり方を続けて手作業にこだわっている点が、牛にとってはストレスフリーで、肉質向上の一因になっているのかもしれない、とお話を伺いながら想像させられました。

儲かる秘密2:仕入れは自分で、シビアにコスト管理

近藤さんが特にこだわっている印象があったのは、育てるための子牛を購入する過程「導入」です。

JAや家畜商に買い付けを任せる牧場も珍しくないそうですが、近藤さんは仕入れの全てを自分で担当しています。良い子牛がいると聞けば、遠方の家畜市場へ出かけていく熱の入れようで、牧場まで牛を運ぶ運搬も自分で担当しています。

「どこのお肉が良いかは問屋さんが知っていますから、そこから情報を聞き出しますね。あと、芝浦と場(食肉市場)で出回っている肉の血統をチェックして、今はこの市場が特に評価されている、と自分で目星をつけることもあります」

近年は、繁殖農家の数の減少により子牛が高騰しており、20年前に比べると2~4倍の値段です。そのため近藤さんは子牛の仕入れ値にシビアで、60万円以下と決めているそうです。

「今は100万円を超える子牛も珍しくないのですが、育てる経費が30~40万円かかるので、高い子牛を買うと利益が出ません。そのため納得できる範囲で、できるだけ安く買いますね」

去勢牛に比べて雌は目方が増えにくく安く買えるので、近藤さんは基本的に雌の子牛を購入しているそうです。出荷時の目方は約450キロ程度で、(ばらつきはありますが)1頭約100万円前後だそうです。

こうして計算していくと、確かに子牛を安く仕入れないと利益が出にくい状況です。「利益は度外視して良い肉を作りたい、で仕入れてしまう人もいるようだけど、自分はきっちり利益を考えますね」と語る近藤さんは、経営者の顔を覗かせました。

ちなみに、近藤さんが子牛を選ぶポイントは「姿形」と「血統」だそうです。具体的な説明は難しい、とのことで、経験がものをいう目利きには言語化できない部分が多いようです。

生き物相手だからこその喜びと難しさ

近年は直販を行う農家も増えてきていますが、近藤さんの出荷先はJA100%。「やっぱり全農は信頼できるからね」とのこと。

たとえば出荷後に、白血病など牛の病気が発覚して全廃になってしまったとしても、JAの共済等に加入していればある程度の金額が補償されます。一頭100万円だとしたら80万円程度は戻ってくることもあるので、大変助かりますね、と近藤さんは語ります。

病気以外にも、牛の突然死が悩みだそうです。胃にガスが溜まって起き上がれなくなってしまう牛がいて、人間が引っ張って起こしてあげるとゲップが出て治るのですが、気づかないでそのまま長時間過ごすと死んでしまいます。牛を育てている牧場では、皆悩まされている症状です。

「深夜も牛舎へ見回りに行っている人もいますよ。ただ、自分はそこまでは……朝に牛舎を見に行く時はやっぱり心配で、何事もなければいい、と毎回思いますね」

監視システムの導入も検討したそうですが、近藤さんは結局「自分の眼で見守る」という選択肢を選びました。

「生き物相手の仕事だから、休みがないですね。人に頼んで一泊二日で旅行に行ったこともありますけど、結局旅行先でも牛が気になっちゃって……でも、牛にご飯を食べさせてもらっているんだから、贅沢言っちゃいけないですよね」

そう笑顔で語る近藤さんは、心から牛を愛する牧場主という印象でした。

近藤さんは、稲わらを餌にして、儲けを考えながら子牛の買い付けをし、木造牛舎でコストをかけないやり方を行って高所得な経営を実践しています。そしてなんといっても、高品質な肉を提供できる理由の一つが、牛への愛情であることは間違いないでしょう。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。