
JAインタビュー 「長野県農業協同組合中央会 営農農政部・営農支援センター」
今回は、長野県農業協同組合中央会様にインタビューさせて頂き、「農業経営管理支援事業の取組み」を含めた、農家の所得向上に貢献する事例を紹介していきます。全国のJA関係者の方はもちろんのこと、農家の方にも参考にして頂きたいと思います。
※「農業経営管理支援事業」とは、JAが農家の取引を記帳代行で簿記入力し、確定申告の支援を行い、簿記や販売データを元に経営診断や経営指導を行う取り組みのことです。
長野県の農業は
長野県農協中央会、営農農政部・営農支援センター・センター長の「山口 剛」さんと、「春日 園佳」さんにお話をお聞きしました。
長野県は内陸地であり、耕地の標高差が260m~1,490mと大きく、その地の利を生かした日較差や年較差の気候により、年間を通して様々な農産物を栽培しています。
園芸農産物(野菜、きのこ、果実、米、花、など)は、2020年農林水産省の統計によると全国1位であり、特にレタス、セロリ、パセリ、わさびが有名です。りんごは青森県に次いで2位、ぶどうは山梨県に次いで2位(現在シャインマスカット増産中)、カーネーション、トルコキキョウ、えのきたけ、ぶなしめじ、はちみつ、など盛りだくさんの農産物がとれる農業王国です。

長野県内の農業簿記ユーザーの経営実態
長野県内のソリマチ農業簿記ユーザーの、野菜農家155件と、果樹農家170件のデータを分析してみました。下記の表のように2年間の推移を集計したところ、収入金額や農業所得は増加していました。
昨年は徐々に燃料や資材が高騰し始めていましたので、経営費がアップしているのではないかと思われましたが、野菜はほぼ変化なし、果樹は多少経費がアップしていましたが農業所得もアップしていますので、長野県としては2021年は特に問題無しの良い経営状況であったと言えます。
野菜 | 果樹 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
2020年 | 2021年 | 差 | 2020年 | 2021年 | 差 | |
収入金額(全国平均) | 22,330 | 22,626 | 296 | 14,420 | 14,851 | 431 |
収入金額 | 21,762 | 21,993 | 231 | 13,158 | 13,730 | 571 |
農産物販売金額 | 19,733 | 19,606 | -127 | 12,396 | 12,524 | 128 |
雑収入 | 1,960 | 2,384 | 424 | 773 | 1,117 | 344 |
経営費 | 16,825 | 16,843 | 18 | 8,618 | 8,905 | 287 |
世帯農業所得 | 4,936 | 5,144 | 208 | 4,534 | 4,812 | 278 |
※1)金額の単位は千円
※2)世帯農業所得=控除前所得+専従者給与
JA長野県グループの取組み
JAとしての農業所得向上の取組みをお聞きしたところ、10年後に販売高の10~30%アップを目指し、各JAごとに生産振興する品目を決めて生産拡大するための「農業開発基金事業」(資材購入時などに補助を出す等)を活用した生産振興誘導を図ったり、飯田市の「市田柿」を「地理的表示保護制度(GI)」(ブランド保護)への登録支援を行ったりしたそうです。

また、肥料費の高騰に対応するため、県内いくつかのJAが支援金を農家に出すことを検討し、必要成分のみ入った低価格のJAオリジナル肥料の提供、JAによる草刈り機や野菜収穫期などの農業機械のレンタル事業、ドローン散布の受託事業などにより、地域全体でコストを削減する施策を講じています。
さらに、次世代の担い手の増加や労働力の確保として、労働力支援センターによる労働力支援、求人マッチングサイトの運営、1日農業バイト「デイワーク」、野菜やきのこの農作業を行うために長崎県から長野県へ季節によって人が移動する「特定技能外国人のリレー雇用」、なども行っています。

そして、 JA上伊那はホームセンターと協業し、2020年からJAの農業資材をコメリの店舗で販売するという日本初の試みを行い、ライバル同士が手を組むという今まで想像しなかったパラダイムシフトを行っているのです。管内の農家は兼業農家が多く、勤め先からの帰宅途中にJAで資材を購入したいという声があったが要員の確保が難しく、コメリとの提携で組合員のニーズに応えた、ということです。
経営管理支援事業の取り組み
長野県での記帳代行の取り組みは2009年からのスタートですが、実は長野県では長野県協同電算が1998年ころから「JANIS」というインターネット回線提供サービス(プロバイザー)を行っていて、さらに2000年には「アグリネット」という、農業・農村の情報発信サービス「地域情報支援システム」を構築して提供しているのです。
「アグリネット」は、JAから農家に対して、気象情報、病害虫情報、市況情報、栽培技術情報、などをインターネットブラウザにて発信する仕組みです。さらに、このサービスの中で、ソリマチと協同電算とで共同開発した「農業簿記・青色申告支援システム」も提供し、インターネットにて簿記ソフトを農家に利用してもらう仕組みも行っていました。22年も前にこのような画期的なシステム提供を行った県は全国初めてだと思います。
長野県内には14JAがあり、Web農業簿記の農家直接利用、記帳代行、固定資産台帳のみ利用、など含めて3,191人という多数の農家の青色申告書作成支援、消費税申告書作成支援を行っています。
長野県の特徴としては、記帳代行だけでなく農家の直接利用をかなり以前から実施していることです。Web農業簿記の直接利用と、農業簿記パッケージソフトを「接続キット」によりインターネットでつなげるという仕組みにより、農家が自分で簿記をつけて自分の数字を把握しながら経営できるようになり、さらにJAに集まった簿記データを分析し経営指導が行えるようになりました。
今後の課題
経営管理支援の先駆者である長野県でも課題はあるそうです。まず一つが現在農業簿記の提供だけなので、いずれは確定申告も提供していきたいとのこと、二つめは、記帳代行農家や直接利用農家の売上や所得の統計分析がまだ十分ではないということ、三つめが、農家への経営指導も一部しか行われていないということだそうです。
新規就農者や、経営に多少の問題がある人に対して、県の普及センターとJAと一緒になりながら経営改善検討会を実施しているそうですが、今後は農業簿記データを活用しながら多数の人に経営指導を行っていきたい、とおっしゃっていました。

経営指導するには、JA職員のスキルアップが必要ですので、「青色申告税務研修会」や、「農業経営管理支援力向上研修」を定期的に企画し実施しているそうです。システムはあくまでもツールですから、やはり人と人とが話をして経営改善することが重要です。
まとめ
山口さんと春日さんから色々お話を伺って、JA長野県グループとして「持続可能な長野県農業の実現」の到達目標を設定し、様々な取組みを行っていることがわかりました。特定技能外国人のリレー雇用、コメリとの協業、農業従事者のマッチングアプリ、生産資材のWeb注文、農業開発基金、など全国的にみても「一歩先のJA」であると思います。
何といっても驚いたのは、2000年から「アグリネット」という、農業・農村の情報発信サービスを構築して、ITを活用した地域内の所得増大施策に取り組んでいたということです。まさに「日本の地域情報化の先駆者・イノベーター」であると言えます。
今後もJA長野県グループの動向に注目していきたいと思います。インタビューありがとうございました。
コメントを投稿するにはログインしてください。