農業利益創造研究所

インタビュー

飼料高騰の影響による酪農経営の今後は?「全酪連インタビュー」

現在様々な理由により飼料高騰が深刻化しています。一部では、酪農経営の存続すら危ういのでは、という悲観的な声も聞かれるほどです。

この危機を、どう乗り越えていったらよいのでしょうか? 今回は、全国酪農業協同組合連合会様にインタビューさせて頂き、昨年からの飼料高騰による酪農経営の現状と今後についてご紹介いたします。
全酪連 購買生産指導部 酪農生産指導室 置本 宗康(おきもと むねやす)さんからお話をお聞きしました。

全酪連(全国酪農業協同組合連合会)とは

全酪連とは、全国の酪農業協同組合の連合組織であり、全国の酪農組合や酪農家をサポートするために、飼料工場での配合飼料の製造や供給最新酪農技術の普及、飼料分析、乳牛の預託や斡旋、乳製品の製造及び販売、広報活動などの様々な業務を行っています。

そして置本さんは、酪農生産指導室の一員として酪農の最新技術や情報を提供する業務を行っており、今回の飼料高騰における対策を指導しているとのことです。

酪農経営の現状

農林水産省の農業物価指数の資料によると、2020年の飼料価格を100とすると、2022年6月は132であり、仮に年間2,000万円の飼料費の経営であれば、今年は2年前より640万円プラスとなります。

しかし、全酪連としての調査では、7月以降も配合飼料価格は大幅に上昇しており、現在の生産現場ではアップ指数132どころか、150くらいになっているのではないか、とのことでした。

「この飼料高騰の原因は、国際情勢の変化やアメリカの物価高(肥料代高騰など)で穀物の価格が上昇し、それによって輸入粗飼料生産費が上昇していることや、海外から輸送する船の燃料代の高騰、そしてとどめは円安の影響、というトリプルパンチなんです」

「飼料費が上がると“配合飼料価格安定制度”により、過去の平均価格を上回った分を基金から補填します。価格が上がり始めた昨年2021年度は、下記の表のように畜産農家への補填額により実質飼料費はほぼ例年通りという実態だったんです。しかし、安定基金制度は、1年以上の長期間の価格高騰になると補填されなくなる仕組みのため、今まで上昇した分の補填割合は減っていきます。もし、2022年度に飼料価格が変わらず、高騰した飼料費の補填が無くなれば、平均的な乳飼費(飼料費÷生乳販売高)が61%になって、経営的に非常に厳しくなることが予想されるんですよ。また、配合飼料価格は令和4年に入ってさらに大幅な上昇を見せていますから、それ以上の影響になるでしょう」

2020年度と比べた2021、2022年度の推計(経産牛1頭当り)
生乳販売高配合価格上昇実質飼料費乳飼費
2020年度1,072058454.5%
2021年度予測1,072+11.2円/Kg62558.3%
2021年度+基金1,072+2.75円/Kg59455.4%
2022年度 (基金は0)1,072+20.0円/Kg65761.0%

※金額の単位は千円

ソリマチ農業簿記ユーザーの酪農経営の状況

置本さんに、ソリマチ農業簿記ユーザーの酪農個人農家419件のデータを集計した分析結果を見て頂きました。参考:「これは大変だ! 原油価格や飼料・資材の高騰が農業経営を直撃!」

「昨年の2021年は、2020年と比べて、補填金などの雑収入が増加したおかげで収入金額は増えたが、飼料費が補填金額以上に増加して農業所得が減ってしまう。この傾向は全酪連の調査とまったく一致しています」

農業簿記ユーザーの 酪農経営の実態
2020年2021年
収入金額62,54664,6542,108
 うち販売金額55,75756,499742
 うち雑収入5,9087,3181,410
飼料費23,58126,2622,681
世帯農業所得9,2768,305-971

※世帯農業所得=控除前農業所得+専従者給与
※金額の単位は千円

以下のグラフは収入金額を100とした時の各費用の比率を、高所得率農家の比率から低所得率農家の比率を引いたものですが、高所得率農家の特徴は飼料費が低いことです。収入金額に対する飼料費の比率は、低所得率農家が45%なのに対して、高所得率農家は23%という低さですから、いかに飼料費を抑えるかによって所得向上につながっているかがわかります。

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飼料費高騰の影響と今後の対応

この飼料費の高騰は海外からの輸入飼料が原因ですから、輸入飼料に頼らなければよいということになります。2020年の粗飼料(牧草)の自給率は76%、濃厚飼料(穀物を主としたんぱく質が多い配合飼料)は12%であり、濃厚飼料はほとんど輸入に頼っています。さらに粗飼料自給率76%は北海道を含めた数値であり、都府県の酪農家だけをみると粗飼料は約6割程度輸入に頼っている、とのことです。

「都府県の酪農家のケースですが、粗飼料の6割を購入すると仮定すると、年間乳牛1頭当たり平均13万2千円コストがアップします。そもそも乳牛1頭当たりの利益は令和3年の平均では16万7千円でしたので、ほとんど利益が出ない計算になります」

このような実態の中でどのような対応が考えられるのでしょうか。一つ目は、酪農家自身の対応です。

1. 自給飼料を生産して購入飼料を減らす
2. 副産物(とうふかすやビールかす、その他未利用資源など)の活用
3. 飼養頭数を増やして売上をアップ
4. 個体成績(乳量)を上昇して売上アップ
5. あえて頭数を減らして(ムダな経費を下げて)ち密な管理で個体成績をアップ
6. 分娩などの繁殖管理の徹底や事故率の低減
などが、考えられるそうです。

しかし、自給飼料(牧草)を生産するにしても、ほ場の確保、生産機械の投資、人手不足、など課題が多く、やろうと思ってもすぐ実行できるものではない、とのこと。また、飼養頭数を敢えて減少させるのは生産者の方の酪農に対する思いや今後の酪農業界への影響などを考えるとあまり現実的ではありません。

「やはり、可能な限り自給飼料を増やして飼料費のコストを下げたり、栄養価の高い購入飼料もうまく活用しながら個体成績を上げたり、分娩間隔を短縮したり、事故牛を減らしたり、すべてのことをち密に計算して、それぞれの経営体の特色を生かしながらコストと売上のバランスをとることしかないのではないかと思います。全酪連としてそれらの指導を行っていきます」

二つ目の対応は、外部からの支援です。
1. 基金補填の継続や、国や自治体からの支援
2. 乳価の引き上げ

しかし、将来的に考えた場合、輸入飼料に頼らない酪農を目指していくのであれば、高い輸入飼料に対する赤字に対して補填するということは、自給飼料強化に逆行する、という意見もあります。

酪農家の努力だけでは困難であれば、やはり牛乳の価格を上げることが酪農家への経営支援につながります。乳価は「指定団体」いわゆる各地の生乳販連と乳業メーカーとの交渉で決まりますが、11月以降飲用向け乳価は10円/kgの値上げで合意されてきていると聞いています。多くの消費者に生産者の状況を正しく知ってもらい、支援として値上げを受容してほしいものです。

全酪連としての取組み

全酪連として、飼料費の削減や個体成績のアップなどの経営管理手法や技術指導を行っていますが、それらの指導の中の一つのツールとして、「酪農家経営管理支援システム(DMSシステム)」を提供しているそうです。

「DMSシステムとは、ソリマチ(株)さんと全酪連が共同開発したZ-RABO(ジーラボ)という会計ソフトを全国の酪農家さんから使ってもらい、税務申告を支援するとともに、その会計データをベースに経営診断資料を作成して経営シミュレーション・経営指導に活用する仕組みです。現在全国500戸の酪農家さんを支援しており喜ばれております」とのこと。

やはり、外部環境が厳しい時こそ、自分の経営の見える化を行うことが重要です。

まとめ

全酪連さんのインタビューを通じて、世界情勢の変化によりこんなにも日本農業が大きく影響されてしまうことがわかりました。現在の日本では食料を海外に依存せざるを得ませんが、なんとか少しずつ自給率を高めていかなければなりません。

この国際情勢がいつまで続くのかわかりませんが、気づいたら日本の酪農家が激減していた、ということにならないよう、酪農家の自助努力と政府・消費者等の支援の両方を期待します。

関連リンク

全国酪農業協同組合連合会
農林水産省 飼料データ

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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