
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
ウクライナ危機に端を発する国際情勢の変化により、2年前に比べて肥料価格は3割、飼料は4割、燃料も3割弱上がったといわれています。当研究所では、「物価高騰により2022年の稲作経営はどうなるか?」という将来予測のコラムを、2023年4月に掲載しました。
(物価高騰により稲作農家の2022年の経営実績はどうなるのか?)
その時の分析では、資材価格は高騰し経営費は上がるが、米価も上がっているので、全体的には所得は向上するのではないかと予測しました。2022年の実際のデータが集まりましたので、稲作農家3,000件のデータを分析し、過去の将来予測を検証してみましょう。
3年間の物価の推移は
まずは、4月に掲載した稲作経営の予測のコラムをおさらいします。
農林水産省の農業物価統計調査の資料によると、2020年を100とした価格指数は以下のグラフのような推移となりました。
※米の価格はその年の10月の価格指数、費用の方は年間平均価格の指数です
燃料は徐々に、肥料は2022年に一気に上がり、農薬は変化がありませんでした。そして、米価は2021年に大きく下落しましたが、2022年には多少上がっています。
2022年の経営の予測と実績との比較
2021年の稲作農家の実績金額に対して、価格指数をもとに2022年の経営を試算すると下記のような予測金額となりました。収入金額は72万円アップ、肥料費は39万円、動力光熱費は11万円アップとなり、最終的な世帯農業所得は18万円のアップと予測されました。
そして、2022年の実績を集計したところ、下記のように収入金額は約2,000万円、世帯農業所得は481万円となり、2021年より増加しました。
この金額は予測金額とさほど違いはありません。つまり「肥料費や燃料費は増加するが、米価が上がることにより収入金額が増えて所得は多少増える」、という予想が当たりました。
2021年実績 | 2022年予測 | 2022年予測 ー2021年の差 | 2022年実績 | 2022年実績 ー2021年の差 |
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収入金額 | 19,080 | 19,804 | 724 | 19,993 | 914 |
肥料費 | 1,455 | 1,849 | 394 | 1,677 | 222 |
農薬衛生費 | 1,157 | 1,187 | 30 | 1,198 | 42 |
動力光熱費 | 872 | 989 | 117 | 1,009 | 136 |
世帯農業所得 | 4,448 | 4,631 | 183 | 4,815 | 367 |
地域別に違いはあるか
稲作農家の販売金額と世帯農業所得を地域別に集計し、2022年と2021年の差をグラフにしてみました。全体的に2022年は高くなっていることがわかりますが、東北と近畿と四国は販売金額が上がっていないことに気づきます。
都道府県まで掘り下げて調べてみると、東北は青森県と秋田県の販売金額が減少していました。四国は徳島県と高知県の販売金額が減っていましたが、雑収入が増えて所得が増加しています。また、東海の販売金額が非常に高いのは、愛知県が非常に高くなっていました。これはいったいなぜなのか理由は不明です。
肥料費や燃料費は全国的に同じように高騰していますので、このように地域別の所得変動があるということは、お米の価格の影響だと思われます。物価が高騰している中で、生産コストに見合った農産物の適切な価格形成実現の検討が必要だということが理解できます。
まとめ
農林水産省は、6月に「2023年産の水田における戦略作物等の作付意向」について、中間的取組状況を発表しました。それによると、2022年産実績と比較し、主食用米の作付けを減らさずに前年並みにするという県が30もあるとのことです。
2022年産米の価格が上がり、飼料米へ移行せずに主食米の作付けを維持しようという傾向が増えているのです。米価が上がることは農家の所得向上には良いことですが、日本として米以外の穀物を戦略的に増やしていくということとは逆行します。
今後の日本農業の方向性を検討する際に、生産コストに見合った農産物の適切な価格形成実現や、主食米や他の穀物確保による食料安全保障を同時に考えていく必要があるのです。
関連リンク
農林水産省「農業物価統計調査」
農林水産省「水田における作付意向」