
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2020年から新型コロナウイルスが流行して経済が乱れました。それがある程度あたり前の状況となった2022年、日本の農家経営はどのような動向だったのでしょうか。
農業簿記ユーザーの中で、野菜作農家4,453件のデータを分析し、野菜作経営においては農業所得が向上したのかどうか探ってみたいと思います。
3年間の推移をみる
本当にこの3年間は、コロナ禍や、国際情勢の変化、物価の高騰、円安など、様々な影響により激動の時期でした。このような外部環境の中で、野菜作農家はどのような変化があったのでしょうか。 この3年間の野菜作経営の全国平均金額を整理すると、以下の表のような結果となりました。
2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|
収入金額 | 22,330 | 22,975 | 23,120 |
販売金額 | 18,539 | 18,562 | 19,724 |
雑収入 | 3,704 | 4,227 | 3,289 |
経営費 計 | 16,093 | 16,704 | 17,003 |
世帯農業所得 | 6,028 | 6,271 | 6,117 |
世帯農業所得率 | 27.0% | 27.3% | 26.5% |
※金額の単位は千円。
数字だけではわかりにくいので、2020年から2021年までの増減金額と、2021年から2022年までの増減金額をグラフにしました。
2021年はコロナ禍の真っ最中であり、経営継続補助金などの支援を受けて、雑収入が増えました。 しかし、2022年になると雑収入は激減し、逆に販売金額が増えました。コロナ禍は外食産業からの野菜需要が減っていましたが、2022年はもとに戻ってきたのだと思われます。
ただ、2021年も2022年も経営費は増加しています。収入は増えても、物価高騰の影響により経営費が上がり2022年の世帯農業所得はわずかですが減少しました。
2022年の物価高騰の経費の内訳を探ってみましょう。変化は下のグラフのようになりました。肥料費、動力光熱費が大きく増加しています。
また、荷造運賃手数料を見ると2021年にぐっと増加していて、おそらく貯蔵のための手数料や、消費者への通販の増加が影響したのだと思われます。
その増加は、2022年も金額的には変わらなかったということですから、野菜の流通・販売構造が変化し、現在はその変化が当たり前になっていると言えます。
それでは、野菜の価格は変わったのでしょうか? 農林水産省の農業物価統計調査を見ると、下のグラフのように、2020年を100とすると現在の野菜の価格は110.5です。
農家も大変なのですが、消費者も大変です。もうこの価格は下がらないのでしょうか? 世界の人口増により、世界の食料需給は21世紀に入って「過剰から不足へ」に向かっていると言われていますし、近年毎年のように起こっている異常気象を考えると、食料供給は安定せずに価格は下がらないのではないか、という考えの人もいるようです。
収入金額規模別の経営内容をみる
2022年の野菜作経営農家を収入金額規模別に、世帯農業所得(控除前所得+専従者給与)、雑収入(補助金等)、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)の3つの項目をグラフにしました。
普通作経営は規模が大きくなると効率化されて所得率がどんどん上がるのですが、野菜作経営の所得率は規模の大小にあまり影響されません。 ただ、収入金額7,000万~1億円の経営は、雑収入に依存しており、所得率も低く、リスクのある階層であると言えます。
どんな経費が高いか調べたら、肥料費と農薬衛生費と地代賃借料が他の階層よりも多くなっていました。その3つの費用は作付け面積に比例する費用なので、規模拡大する際にどうやって効率化すべきかという工夫が必要なのかもしれません。
次に、世帯農業所得率が10~15%の低所得率農家と、35~40%の高所得率農家の経費科目を比較してみました。
高所得率農家は、まんべんなくコストを下げていますが、その中でも特に雇人費が非常に低くなっています。最低限の雇い人で効率的に農作業を行う工夫があるのだと思われます。
まとめ
農林水産省から2023年4月に、「アフターコロナを見据えた野菜・果物の消費動向調査結果」が発表されました。 消費者へのアンケート結果から、「健康増進・免疫力・抵抗力の強化」を理由に野菜消費が増加したと回答した人が多く、また、最も摂取が増えた野菜は「ブロッコリー」だそうです。
さらに、コロナ禍では買い物頻度の減少や家庭での食事が増えたことにより、一度に大量購入したり、ネットスーパーの利用が増え、日持ちのする野菜、冷凍野菜、カット野菜、大容量パック、総菜お弁当、などが多く出るようになりました。
コロナ禍の3年間で、このような経験をした消費者は、コロナ禍が終息しても生活習慣は変わらないと思われます。このように、野菜の生産も加工や流通も世の中の需要に合わせ変化していくのでしょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、野菜作経営を対象にしていますが、他の作目と比較することで、その特徴が際立ちます。
収入金額規模別の経営内容をみると、普通作経営と野菜作経営は共に、規模が大きくなるごとに世帯農業所得が増加しています。ただし、普通作経営では、どの収入金額規模でも雑収入が世帯農業所得を上回っています。これに対して、野菜作経営では、どの収入金額規模でも、世帯農業所得の方が雑収入を上回っています。
収入金額7,000万~1億円の野菜作経営は、他の収入金額規模に比較すると雑収入への依存度合いが高く、所得率も低い傾向がみられますが、雑収入が世帯農業所得を上回っている普通作経営とは異なる経営的特徴が大きく異なるといえます。
また、野菜作経営では収入金額規模が3,000~5,000万円から、普通作経営では7,000万円~1億円から、それぞれ所得率の低下傾向がみられます。野菜作経営は、普通作経営に比較すると、雑収入への依存度が小さく、所得率が最大になる収入金額規模は小さいという特徴がみられます。
関連リンク
農林水産省「アフターコロナを見据えた野菜・果物の消費動向」
農林水産省「農業物価統計調査」