農業利益創造研究所

作目

2022年の農業所得は向上した?<花き経営>の特徴を探る

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2020年から新型コロナウイルスが流行して経済が乱れました。それがある程度あたり前の状況となった2022年、日本の農家経営はどのような動向だったのでしょうか。

この3年間比較のコラムは、普通作、野菜作、果樹作、畜産に続き、今回は花き経営です。農業簿記ユーザーの中で、花き農家601件のデータを分析し、花き経営は農業所得が向上したのかどうかを探ってみたいと思います。

この3年間で花き経営はどう変わったか

この3年間のコロナ禍、国際情勢の変化、物価の高騰、円安などの外部環境の変化は花き経営に大きな影響を与えました。 何と言っても、2020年のコロナ禍が始まってからは、冠婚葬祭やお祝いパーティーのようなイベントが一切無くなり、花の需要が一気に減ったことが大きい変化の一つでしょう。

農林水産省の作況調査(花き)の統計資料によると、2020年の切り花の出荷量は2019年に比べ93%に落ちました。 しかし、徐々にコロナ禍が落ち着いてきてイベントも行われるようになり、2022年には業務需要が回復してきました。また、コロナ禍の巣ごもり生活での家庭需要が増え、現在ではそれが定着してきています。

この変化を踏まえて、この3年間の花き経営の実際のデータを見てみましょう。下記の3年間の比較表を見ると、2020年の販売額が減っていることがわかります。

花きの3年間の全国平均
2020年2021年2022年
収入金額18,44421,22220,277
花きの販売額14,74516,46316,734
雑収入1,8902,9861,738
経営費 計13,62215,15215,060
世帯農業所得4,7876,0705,218
世帯農業所得率26.0%28.6%25.7%

※金額の単位は千円。

数字だけではわかりにくいので、2020年から2021年までの増減金額と、2021年から2022年までの増減金額をグラフにしました。

canvas not supported …

販売額は2020年に落ち込みましたが、2021年には販売額が170万円プラスとなり回復しています。

2021年の雑収入が高いのはおそらくコロナ禍での経営継続補助金がらみと思われます。2021年から燃料費の高騰により経営費が増加し、2022年は世帯農業所得が85万円も減少しました。

canvas not supported …

また2022年の経費の内訳は、下のグラフのようになりました。 種苗費、肥料費、動力光熱費は、毎年金額が上がっています。特に動力光熱費は、3年間で50万円も上がっていますから農業所得減少の大きな要因です。花きの栽培や収穫には人手が必要ですので、経営費の中で雇人費のウエイトは高くなっています。

その雇人費は、2021年に増えて2022年には減少(2020年の水準に戻った)しています。調べてみると、特に雇人費が減ったのは、収入金額5,000万円以上の大規模経営でした。苦しい状況が続く中で、経営全体のコストを少しでも下げようと雇用を減らしたのかもしれません。

収入金額規模別の特徴

次に2022年の花き農家の、世帯農業所得と雑収入と世帯農業所得率を、収入金額規模別にグラフにしてみました。

canvas not supported …

収入金額3,000~5,000万円の経営が、1,000万円以上という高額の所得を得ているのはすばらしいです。農業所得率を見ると、700~1,000万円の小規模経家の階層で一番高く、5,000万円以上の階層で一番低くなっています。

これはどういうことでしょう。小規模階層では、動力光熱費と雇人費が低くなっており、大規模階層では、種苗費と雇人費が平均より高くなっていました。

高所得率の花き農家は、所得額自体は低いのですが、暖房施設をあまり必要としない、そして人手をかけない花を栽培していると思われます。また、5,000万円以上の農家の栽培している作目を調べると、ユリ、バラ、ランの農家が多いです。花き経営の経営費を抑えるには、種苗費と雇人費と動力光熱費にポイントがありそうです。

花の種類別の特徴

では、ユリ、バラ、ラン農家の費用はどのようになっているのでしょうか。大規模階層で多かったバラ、ユリ、ラン農家と、キク農家の経費を調べてみました。具体的には、収入金額を100とした種苗費、動力光熱費、荷造運賃手数料、雇人費の比率の比較グラフを作成いたしました。

canvas not supported …

バラ農家は動力光熱費と雇人費が非常に高く、ユリとラン農家は種苗費が高くなっています。それに比べてキク農家はコスト構造のバランスが良く、結果的に所得率が高くなっていることがわかります。荷造運賃手数料の比率はほぼ同じで、花の種類による違いはありませんでした。

バラとユリは世帯農業所得平均が600万円以上あり、高所得の品種ではあるのですが、燃料費や人件費が今後さらに高騰した場合は、その費用の比率が高いバラ農家は特に気を付けなければならない、と考えられます。

まとめ

コロナ禍による環境変化をチャンスに変えるために行った、家庭での需要アップのキャンペーンや若年層を中心に新規顧客獲得につながる施策、が功を奏して、花きの需要は増えたと言われています。

しかし、一方で課題もあり、特に深刻なのは2022年に起こった燃油高によるコスト増による価格のアップです。花が高価格になると所得が少ない若者が花を買い控える動きが起こり、せっかく増えた若者層が離れていく可能性があります。
 
花き栽培のコストを下げるため、施設の燃料費を下げる適正な環境制御や、スマート農業を取り入れて人手を減らす実験が行われています。ハウス内の環境制御技術は普及し始めていますが、ロボットによる収穫作業は、まだ実用化は難しいようです。

花き経営に明るい将来をもたらすには、いかに人手がかかる作業を楽にしてコストを下げる工夫ができるか、という生産現場の改革を進める必要があります。 さらにはビジネスや生活現場に花があるストーリーを作ったり、観光業と花産業とのコラボを行うなどの花の需要を上げる取り組み、を合わせて考えていく必要があると思います。

関連リンク

農林水産省「作況調査(花き)

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。