農業利益創造研究所

作目

2023年の品目ごとの野菜経営ベクトルを見る

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

昨年に引き続き2023年の品目ごとの野菜経営のベクトルを見てみます。去年は15品目でしたが、今年は頑張って20品目にチャレンジです(笑)。

16品目で収入金額が増加

以下は今回の分析の対象とした品目ごとの経営体件数です。経営体は一番に作っている品目(第一主幹作物)ごとにまとめたもので、単作の経営体ではないことに注意してください(2番手以降の作物の損益も含まれている)。

品目件数
トマト555
イチゴ527
キュウリ284
ネギ237
ジャガイモ224
タマネギ204
ミニトマト167
ナス148
スイカ134
アスパラガス126
メロン125
ニンジン105
ブロッコリー105
レタス103
ピーマン96
ホウレン草89
ニラ82
キャベツ81
キノコ68
サツマイモ68
野菜合計4,593

以下は、縦軸に世帯農業所得率(経営効率)、横軸に収入金額合計(経営規模)の2年間の変化を示した図です。矢印の起点が2022年、終点が2023年となります。

まず赤字で示した野菜平均ですが、矢印の向き(ベクトル)が小さく右下に向いています。これは収入金額が若干増加したものの、所得率をやや落としたということです。

経営規模が大きいのは、図の右側に表示されているタマネギ、ジャガイモ、そしてニンジンとなります。これらは皆北海道で生産が盛んな作物なので、北海道の農家の経営規模の大きさが表れていると言えます。このうちタマネギは大きく収入金額を拡大させましたが、所得率も大きく落とし、ジャガイモは規模も効率も低下しました。

一方、所得率が高いのはスイカ、メロン、イチゴといった“甘い野菜”です。これらは2022年から大きな変化がなく、所得率が30%以上と高位で安定しているとも言えます。前年は所得率が33.3%だったサツマイモは、2023年で大きく落としましたが、それでも平均よりは高い位置にいます。キノコは多様な品種があるので一概に言えないのですが、ここでは所得率が最も低くなりました。

以下は拡大図です。

ホウレンソウ、ブロッコリー、ピーマン、トマトなど多くの品目で右上にベクトルが向いており、収入拡大と所得率アップが確認されます。これらは2022年に落ち込んだ品目ですのでV字回復をしたということでしょう。

全体的にみると、ベクトルが右上(規模、効率共に上昇)は8品目、右下(規模上昇、効率低下)8品目、左上(規模低下、効率上昇)1品目、左下(規模・効率共に低下)3品目となり、収入金額が増加した(右向き)品目が目立つ結果となりました。

規模や効率で上位にいる品目は経営体が高位平準化している

次に収入金額合計と所得率の変動係数を見てみます。変動係数とは、データのバラツキを示すもので、値が高いとその集団内の数値は上下の開きが大きいということになります。
以下の図は、その変動係数の2年間の動きを示したものです。

まず横軸の収入規模で最も変動係数が大きいのはホウレンソウです。そして2023年にさらに大きくなりました。ホウレンソウは2023年に大きく収入と所得率をあげましたが、その中で規模の格差が大きく進んでいるようです。これはホウレンソウの産地が関東に集中しており大消費地に近いこともあって、逆に小規模を含む様々な経営体が存在することが可能であることを示しているのかもしれません。

縦軸の所得率の変動係数が最も高いのはネギです。ネギは全体では所得率は低めですが、その中でも所得率の高い経営体が一定割合でいるようです。1本1万円のネギを売る人もいるそうですから、あり得る話なのかもしれませんね。

次いで所得率の変動係数が高いのがキノコです。上述したとおりキノコと言っても品種は多様ですから、それぞれで経営内容が大きく異なるということなのかもしれません。但し、キノコ全体の平均所得率は上昇し、2023年の変動係数は低下したので、総じてキノコ農家の所得率低い層が上昇したと思われます。

ブロッコリーは規模と効率共に経営体間の差が大きく縮まりました。上記の経営ベクトルによるとブロッコリーは2023年に収入金額と所得率を伸ばしましたので、全般的に大きく経営の底上げが図られたのではないかと思います。成長分野のブロッコリーの面目躍如というところでしょうか。

変動係数が低い品目として、左下に位置するジャガイモ、タマネギ、メロン、スイカ、イチゴがあがります。これらの品目は規模や効率で上位にいる品目です。つまりこれらの品目の各経営体の多くが、規模や効率の面で“成熟した状態”にあり、高位で平準化していると思われます。となると、もしかすると新規参入が難しい品目なのかもしれません。

多品目分散型でも経営効率が低いとは言えない

最後に複合経営の状況を示します。

縦軸に第一主幹品目への集中度(第一主幹品目の販売金額÷販売金額×100)をとり、横軸に青色申告書の2ページ目の「収入金額の内訳」に記載された品目数を取りました。

上に行くほど第一品目への依存度は高くなり、右に行くほど多品目を経営しているということになります。概して、主幹比率が高ければ品目数も少なくなり、品目数が多くなれば、主幹比率は下がるのでしょうから、この図も左上から右下に分布するという形になるのでしょう。

最も主幹比率が高いのはイチゴで、品目数も2番目に少なくなっています。つまりイチゴ農家のほとんどは、イチゴ単作経営に近いということなのでしょう。イチゴの収入金額合計は平均2千万円弱で、所得率は33%程度です。したがって6百万円以上の世帯農農業所得があることになるので、これだけ稼げれば無理に多角化する必要もないのかもしれません。ただ全国的に産地が多いので、競争は激しいと思われます。

次いで主幹率が高く、品目数が素も少ないのはニラです。ニラは年間でも2~3回収穫ができるうえ、一株で数年間にわたり採ることができます。所得率も高いほうですからこれも無理に多角化する必要がないのでしょう。

ピーマンも少品目集中型の傾向が強いと考えられます。ピーマンは作り方次第では、ほぼ年間を通じて収穫できるので、そうなると他の作物を作る“余裕”もないのかもしれません。但し、このデータからはピーマンは規模も効率も低めなので、もしかしたら他の品目のウェイトをもう少し高めることで経営的に“余裕”ができるのかもしれません。

多品目分散型の傾向が最も強いのはニンジンで、次いでジャガイモです。これらは収穫期が1~2カ月程度と短く、また連作障害を受けやすいことなどの理由から、多品目化しやすい(しなければならない)品目なのでしょう。概ね多品目分散型に区分される作物は露地栽培が多く、収穫期間が短い、もしくは定植から収穫までの栽培期間が短い作物が概ね該当するようです。逆に、少品目集中型は栽培期間や収穫期が長い作物が多くなるようです。

少品目集中型と多品目分散型の収入金額合計と所得率の平均は以下の通りです。

多品目分散型は、北海道の露地野菜が多いので規模(収入金額合計)が非常に大きくなりました。代わりに所得率が若干低くなっています。

ちなみに北海道を除いた値では、多品目分散型の収入金額はかなり低下しましたが、それでも少品目集中型よりは規模が大きいということは変わりありませんでした。品目が多くなると規模も大きくなるというのはイメージしやすいのではないかと思います。また、北海道を除く多品目分散型は、少品目集中型と比べ所得率でも遜色がありません。一般的に品目を集中させたほうが経営効率は良くなると考えそうですが、実際はそれほど大きな違いはないようです。

こうなるとリスクヘッジができる分だけ多品目経営が有利にも思えますが、それだけの耕作面積を確保すること(規模が大きくなるので)と、年間の作業計画が複雑になることなどがあるので、誰でも何の品目でもできるわけではないのでしょう。自分の地域やスタイルに合った経営をするのが一番です。

収入金額合計世帯農業所得率
少品目集中型(12品目)18,91627.1%
多品目分散型(7品目)31,66925.7%
北海道を除く 収入金額合計世帯農業所得率
少品目集中型(12品目)18,38827.4%
多品目分散型(7品目)22,55127.1%

※金額の単位は千円

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、所得率に注目すると、スイカ、メロン、イチゴなどの“甘い野菜“の所得率が高い事が明らかになりました。品目の集中度に注目すると、イチゴは少品目集中型、メロンやスイカは多品目分散に分類されました。前者は単作経営、後者は複合経営の特徴をもっていると考えられます。

一般に、単作経営と複合経営には、それぞれ様々なメリットとデメリットがあります。例えば、単作経営では、限られた経営資源を特定品目に集中でき、その品目の規模拡大によるコスト低減が可能になるメリットがあります。また、技術力の向上による収量や品質の向上も期待できます。

デメリットとしては、経営全体の所得が、特定品目の価格や収量の変動に連動しており、財務的に不安定になるリスクがあります。

逆に、複合経営では、複数の品目の変動が相殺されて、リスク分散による経営全体の所得安定化や農作業ピークの平準化のメリットがあります。その一方で、経営資源の分散により、規模の経済が実現できずコスト低減や技術向上が難しいデメリットがあります。

今回の分析結果は、高所得率の“甘い野菜“の典型とも言えるイチゴとメロンが、品目集中度からみると全く異なる特徴をもっている事が明らかになりました。高所得率の背景には、どちらの品目も、単作経営と複合経営のそれぞれのメリットを最大限引き出す経営力がある農家が生き残っているのもしれません。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所