農業利益創造研究所

作目

2023年の果樹経営は? 品目ごとの経営ベクトルを確認する

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

今回は2023年の果樹の経営ベクトルを確認します。果樹は対象品目が少ないので3年間の動きを見てみます。

品目ごとに明暗が分かれる

果樹の対象品目は以下の8品目です。野菜と比べると経営体数は非常に少なくなります。各品目は各経営体で最も多く販売されている作物(第一主幹品目)であり、経営数値は品目単体のものではありません(複合経営を含む)。

品目件数
カンキツ類518
ブドウ447
リンゴ349
日本ナシ238
129
56
サクランボ43
34
果樹合計1,947

以下の図は、縦軸に世帯農業所得率(効率)、横軸に収入金額合計(規模)をとり、各品目の3年間の動きを示したものです。矢印(ベクトル)の起点が2021年で、終点が2023年となります。果樹は経営体数が少ないので、品目の中には単年で非常に大きな動きをするものがありますが、果樹全体の平均値は3年間ほとんど動きがありません。この3年間はコロナ禍や原油、肥料費などの高騰があり、それらが多くの農業経営に影響を与えましたが、果樹経営全体は、それらの影響は非常に少なかったと言えます。

その中でも最も所得率が高かったのはブドウです。所得率41.2%は全ての作物の中でもトップクラスであり、2023年は収入金額が若干減少したものの、世帯農業所得はおよそ5,780千円と、全個人経営体の平均以上です。

柿は最も所得率が低くなりましたが、規模と効率共に改善しました。今後の巻き返しを期待したいところです。他に所得率30%を切ったのは、リンゴとサクランボです。

規模では、わずかな差で日本ナシが一番大きくなりました。日本ナシは所得率も上がっており全般的に改善傾向にあるようです。

桃の収入規模は3年続けて最も低くなりましたが、確実に大きくはなっています。2023年は所得率も若干改善しています。

梅、サクランボは、経営件数が少ないので大きな動きが目立ちますが、2023年は共に左下に動き、規模と効率共に低下したことが確認されます。

以上、右上(規模上昇、効率上昇)は4品目、右下(規模上昇、効率低下)1品目、左上(規模低下、効率上昇)無し、左下(規模低下、効率低下)は3品目と、右上と左下の正反対のベクトルが多くなりました。2023年は果樹全体では動きがなかったものの、品目ごとに見ると明暗が大きく分かれた年と言えそうです。

2023年は格差が広まる

次は品目ごとの変動係数を見てみます。変動係数とはその集団(品目)の中の数値のバラツキを示すもので、値が高いほど上下の差が大きいことになります。平均値からでは分からない集団の特徴を知ることができます。

縦軸が世帯農業所得率のバラツキで、横軸が収入金額合計のバラツキです。

所得率で最もバラツキが大きいのは日本ナシで、2023年にその差が非常に大きくなりました。日本ナシは2023年に収入規模と効率が改善しましたが、所得率の変動係数も大きくなったということは、比較的所得率が高かった経営体がさらに所得率を大きく伸ばしたと思われます。来年以降は、トップに引っ張られる形で全体が底上げされるか、それとも格差が広がりつづけるのか、注目したいところです。

収入金額合計で最もバラツキが大きいのは圧倒的に柿でした。柿も2023年に収入規模が大きくなりましたが、これも柿の中の大きな経営体が、さらに収入を増やして品目平均を引き上げたからと考えられます。柿は所得率が果樹の中で最も低いので、比較的多くいる小規模経営体は、あまり余裕のある状態ではないと考えられます。もしかすると今後数年間で、経営体が減少していくかもしれません。

果樹経営8品目のうち2023年に右上にベクトルが向いたのは5品目です。つまり多くの品目で所得率と収入金額で格差が広まったことになります(果樹平均の所得率、収入金額合計の変動係数も共に上昇している)。果樹経営全体の所得率や収入金額は大きな変化はないわけですから、大規模で効率の良い経営体はさらにその傾向を強め、小規模で効率の低い経営体はさらに悪化しているといえます。果樹の経営淘汰はこれからもっと進むのかもしれません。

第一主幹品目への集中が高い果樹経営

最後に果樹経営の品目の組み合わせ状況を見てみます。
縦軸の第一主幹比率とは、一番に作っている品目の販売金額の割合です(第一主幹品目の販売高÷販売金額合計×100)。横軸の品目数とは、青色申告決算書の2ページの収入金額の内訳に書かれた品目の数です。

最も第一主幹比率が高く、かつ品目数が少ないのはカンキツ類です。ただカンキツ類といっても、その内訳としてはミカンを始めいろいろあるわけですから、時期を分けてさまざまな品種をつくっているとは思われます。様々な品種を作っていれば、カンキツ類は年間を通じてほぼ作業があり、他の品目に手を出す余裕も(必要も?)ないのでしょう。

反対に最も主幹比率が低く、多品目を栽培しているのがサクランボ経営です。サクランボは2023年の所得率と収入金額が共に低下しましたが、変動係数は右上に伸びているので、各経営体の格差は広まっています。つまり比較的小規模で経営効率の低い経営体が、さらに経営を悪化させたのだと思われます。

そして、主幹比率が下がって経営が悪化したわけですから、単純に考えるとサクランボ以外の作物を多くしたことがその原因と思えます。またはサクランボ以外の品目が所得低下の原因かもしれません。そうであるなら、第二品目に何を選択したかが、2023年のサクランボ経営を大きく左右したことになります。

概して果樹は、品目転換が簡単ではない(非常に時間がかかる)ことから、野菜経営と比較すると第一主幹品目への集中度が高くなるのだと思われます。これが経営効率を高めている理由の一つかもしれませんが、野菜などと比べると長期的な経営リスクが高いことにもなります。つまり単品目に集中しているので、気候などの変化による不作や、消費動向の変化などでその品目の価格が下がった場合、大きく収入を落とす恐れがあるということです。

現在高い所得率を維持している果樹ですが、常に外部環境の変化に目を配りながら、長期的な視点で経営戦略(品目の選定)を練っていく必要があるのでしょう。

2023年の果樹経営は全体で見ると変化はありませんが、品目間、もしくは品目内の各経営体間では規模や効率で経営格差が広まったようです。このままいくと果樹全体の数値も大きく変わるときが来るかもしれません。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、果樹経営における樹種別の所得率の傾向(2021~2023年)などが明らかになりました。果樹経営全体で見ると、他の作物よりも所得率が高い傾向があり、特にブドウの所得率41.2%は全ての作物の中でもトップクラスであることも明らかになりました。

梅の所得率率は低下傾向にありますが、それでも2023年までは40%以上をキープしています。その一方で、柿やリンゴの所得率は30%以下であり、樹種による農家間のバラツキが大きいことも明らかになりました。

この農家間のバラツキの大小を、変動係数という指標でみると、農家間のバラツキが最も大きいのは、2023年の日本ナシで、りんごがこれについで大きい結果でした。2021年には農家間のバラツキが最も小さいのは梅で、日本ナシがこれについで小さい結果でした。

日本ナシの農家間のバラツキが、この3年間で、何故これほど大きくなったのか、その背景や要因は必ずしも明らかではありません。他の樹種においても、この3年間で、所得率の農家間のバラツキが増加する傾向が見られます。こうした傾向の背景や要因について、経営規模の拡大や法人経営の増加といった点の影響も含めて、さらなる分析が求められています。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所