農業利益創造研究所

作目

1年中食べられるトマトの経営を作型別・地域別に探る

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

異常気象により野菜の価格が季節ごとに変動している、というニュースをよく見るようになりました。野菜や果樹は季節によって旬があるのが普通ですが、トマト、キュウリ、ネギ、カボチャなどは1年中スーパーで売られていますよね。

カボチャは収穫して保存しておけるので1年中出荷できますが、トマトはそうはいきません。実はトマトは、冬は暖地でのハウス栽培、夏は高冷地での栽培で1年中収穫されているのです。

今回は、トマトの作型別、地域別にどのような経営内容になっているのか探ってみたいと思います。

全国トマト経営の都道府県別状況

2023年の全国の農業簿記ソフトユーザーの中からトマト農家555件を分析し、世帯農業所得額の上位6都道府県の経営内容をグラフにしました。

世帯農業所得1位は熊本県で775万円、次は茨城県、北海道、大分県、岐阜県、栃木県と続きます。世帯農業所得率(経営効率)が高い県は、大分県と岐阜県で30%超えです。

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また、トマトが1年中食べられるのは、6~11月に収穫する夏秋トマト、12月~6月に収穫する冬春トマト、という作型で栽培されているからです。

2023年の農林水産省作況調査の資料によると、収穫量ランキングは、冬春トマトは熊本県、愛知県、栃木県、夏秋トマトは北海道や茨城県、岐阜県です。

冬春トマトはハウス栽培なので暖かい地域が有利であり、熊本県がダントツで収穫量が高くなっています。夏秋トマトは涼しい地域が有利なので、北海道がダントツです。しかし、10a当り収穫量の数字を見てみると、冬春トマト(16,600Kg)も夏秋トマト(9,370Kg)も岐阜県がナンバー1という意外な結果です。

冬春トマトと夏秋トマトの比較

農業簿記ユーザーのデータの中から、冬春トマトは熊本県(玉名市、宇城市)、愛知県(豊橋市、弥富市、愛西市)、栃木県(栃木市、小山市、下野市、野木町)、岐阜県(海津市など)68件のデータ、夏秋トマトは北海道(美瑛町、平取町)、熊本県(阿蘇市、阿蘇郡)、岐阜県(高山市など)139件のデータを分析してみたいと思います。

冬春トマトと夏秋トマトの経営の平均は以下の表のようになりました。

冬春トマトと夏秋トマトの比較
冬春トマト
(経営体数:68)
夏秋トマト
(経営体数:139)
収入金額28,70919,877
世帯農業所得6,5266,102
世帯農業所得率22.7%30.7%
建物構築物 資産額5,0494,287
農機具 資産額2,5643,830
借入金 残高7,8006,315

※金額の単位は千円

収入金額(経営規模)は冬春トマトが高くなっています。暖房設備のついたハウスを建てたりする関係で、規模を大きくして収益を得るような経営が多いのだと思われます。世帯農業所得額はどちらも600万円以上ですので、トマトは経営として成り立つ作目であると言えます。

気になるのは、冬春トマトの世帯農業所得率が低い点です。おそらく冬春トマトは経費が多くかかっているのでしょう。

販売金額を100とした費用比率で比較すると以下のグラフのようになりました。想像通り、冬春トマトは暖房のための動力光熱費が高く、また雇人費も高くなっています。

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次に、収入金額別・世帯農業所得額別にトマト農家の散布図グラフを作成してみました。規模が大きくなれば所得額も高くなりますが、同じ規模でも所得額の差が1千万円以上ありますので、意外とトマト経営はバラツキがあることがわかります。

さらによく見ると、収入金額2,000万円から3,000万円の階層は所得額が高い農家が多くいることがわかります。

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しかし、3,000万円から5,500万円の階層は所得額が低い農家が目立ちます。一概に言えませんが、トマト経営の最適規模は2,000~3,000万円くらいが効率良い最適規模なのかもしれません。

トマト産地の比較

以下の表は、冬春トマトと夏秋トマトの有名産地の経営内容の比較です。冬春トマトでは、収入金額経営規模が大きいのは栃木県ですが、農業所得率が高いのは岐阜県(27.1%)でした。

夏秋トマトでは、北海道が経営規模と農業所得額は一番大きいですが、農業所得率はまたもや岐阜県(34.8%)が1位でした。

冬春トマト 有名産地比較
岐阜県
(経営体数:26)
熊本県
(経営体数:16)
愛知県
(経営体数:17)
栃木県
(経営体数:9)
収入金額30,02428,03522,96335,973
経営費 計21,90321,84317,99830,938
世帯農業所得8,1226,1924,9655,035
世帯農業所得率27.1%22.1%21.6%14.0%
夏秋トマト 有名産地比較
岐阜県
(経営体数:90)
北海道
(経営体数:30)
熊本
(経営体数:14)
収入金額16,25728,26325,828
経営費 計10,59520,81318,909
世帯農業所得5,6626,9326,919
世帯農業所得率34.8%24.5%26.8%

※金額の単位は千円

岐阜県の農業所得率が高い理由を調べようと思い、販売金額を100とした主要費用の比率で産地比較してみました。岐阜県の冬春トマトは、肥料費、農薬費、動力光熱費が少なく、夏秋トマトでは、農薬費、動力光熱費が少なくなっていました。

岐阜県のトマト栽培

岐阜県のトマト栽培には何か秘密があるのでしょうか?
岐阜県は、標高が0m(海岸方面)から1,000m(飛騨地域)という地域特性がありますので、それを活かして1つの県内で冬春トマトと夏秋トマト両方を栽培しています。よって、岐阜県全体でトマト栽培に力を入れようという体制ができているからではないでしょうか。
(先に述べたように10a当り収穫量のNo.1は岐阜県です)

ソリマチ株式会社と当研究所では、優良経営に対して「農業王」という表彰を行っています。
今年受賞された岐阜県海津市のトマト農家さんにインタビューをして色々お話しをお聞きする機会がありました。

JAにしみの海津トマト部会では、頻繁に勉強会を開き、管理方法や病害虫の対策について熱心に意見交換を行って切磋琢磨しているそうです。さらに、部会として後継者や新規就農者など20~40代の若い年齢層の人たちの指導も行い、就農者が増え産地として活気があるとのことでした。

まとめ

今回は、1年中食べられるトマトについて掘り下げて分析してみましたが、その中から岐阜県の地域性や体制が見えてきた、という結果になりました。

一般企業は社長の考えや経営方針・戦略で、いかようにも会社を運営していけますが、農業では一人は小さな力でも、地域の特性を味方につけ、周りの指導体制支援、ブランド力などが一体化すると大きな力になるということがよくわかります。日本はおいしいトマトが1年中食べられて本当に良い国ですね。

関連リンク

農林水産省 作況調査(野菜)
ソリマチ株式売社「「農業王2024」受賞者決定!」
ソリマチ株式会社「農業王SDGs」

南石名誉教授のコメント

今回は、トマト経営を詳しく分析し、いろいろと興味深い点が明らかになりました。農業経営の適正規模は、研究的にも古くて新しい問題です。ひとたび機械や施設を導入すると、その処理限界までは作付面積の大小関わらず一定の固定費が費用計上されます。このため、作付面積や生産量を増加させると、生産コストは低下します。

また、家族労働力で栽培管理ができる作付面積までは、雇用費なども発生しません。しかし、機械や施設の処理限界や家族労働力で賄える規模を超えると追加の費用が発生して、所得が低下する場合があります。また、一定の作付面積を超えると、栽培管理が行き届かなくなって、単収や品質が低下する場合もあります。

今回の分析では、トマト経営の最適規模は収入金額が2,000~3,000万円くらいが効率良い最適規模との傾向が明らかになっています。こうした適正規模の背景には上記の要因があると考えられます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。