農業利益創造研究所

作目

新規就農者の離農を防ぐには! 新規就農の花き経営の継続性を考える

個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農業就業者数が減少している状況の中で、新規就農者を増やすことが何より重要であるのは明らかです。しかし、新規参入した農業者が、何らかの理由で途中で離農してしまうケースがあるのも事実です。

今回は、新規参入就農者に人気の「花き経営」について分析し、経営の継続可能性について考えてみたいと思います。

新規就農者の状況

2023年農林水産省の新規就農者調査結果によると、1年間で、新規自営農業就農者(親からの継承)は3万330人、新規雇用就農者(農業法人等への就職)は9,300人、新規参入者(経営新規スタート)は3,830人となっています。

但し、この数字にはサラリーマンが定年退職してから就農するような高齢者も含まれており、やはり今後の日本農業を考えると49歳以下の就農者数が増えることが望ましいと思われます。

49歳以下に限ると、自営就農者は6,420人、新規参入者は2,590人です。

親からの継承である就農は、経営基盤がありますので安定していますが、まったくの新規参入の場合は、就農後に数%の人が離農しているという農林水産省のデータがあります。新規参入の就農者はどのような経営を行っているのか、所得は十分なのか、調べてみましょう。

新規参入の花き経営

2023年のソリマチ農業簿記ユーザーの花き経営554件を分析し、その中から、国や地方行政より「経営開始資金(農業次世代人材投資資金)」の交付金を受けている経営(19件)を新規参入就農者として分析しました。

経営開始資金の交付対象者は独立・自営就農時に49歳以下の者に限られ、申請して認定されると、3年間にわたって年間150万円が支給されます。最初は売上が少ない時期ですので、このような支援は大事です。

下の表は、花き経営の新規就農者平均と全国平均を比較した表です。

花き経営の比較花き経営の比較
新規就農者
(経営体数:19)
全国平均
(経営体数:554)
平均年齢39.258.0
収入金額8,87220,247
 うち販売金額6,51418,353
 うち雑収入2,3431,799
経営費 計6,36315,167
世帯農業所得2,5095,072
世帯農業所得率28.3%25.0%
建物・構築物 資産額2,3964,429
農機具 資産額2,8263,519
借入金3,3534,937
収入金額対借入金率37.8%24.4%

※金額の単位は千円。

まず、新規就農者の平均年齢は39.2歳です。他業種の仕事をしてから退職し、農業に参入する人が多いようです。収入金額は887万円と非常に少なく、その金額のうち234万円が雑収入(つまり交付金等)ですから、支援なくして継続は厳しい状態です。

世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)は、250万円です。もっと販売金額(経営規模)を増やしていく必要があります。固定資産は全国平均より少なめですが、経営規模の割には多いですし、借入金335万円も多いと思われます。

つまり、経営スタート時は設備投資や借入れを行って、なんとか売上を増やそうと頑張っている状況が伺えます。

下のグラフは、新規就農者19人の、横軸を収入金額、縦軸を世帯農業所得にした散布図です。
これを見ると、収入金額1,000万円が境界線であり、所得400万円以上を得るには収入金額が1,000万円以上必要であることがわかります。

下のグラフは、販売金額を100とした主要な費用科目の比率(%)を示したものです。新規就農者は全国平均と比べると、種苗費、諸材料費、減価償却費、荷造運賃手数料が高く、動力光熱費と雇人費が低いです。

まだ設備投資に見合った販売金額となっていないため、減価償却費が高くなっていると思われます。また、全国平均は動力光熱費が高いということは、ハウス栽培により収穫時期を調整して高く販売する工夫をしているのかもしれません。

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カスミ草経営への新規参入

今まではすべての花を対象にした花き経営の分析でしたが、カスミ草に絞って分析してみます。カスミ草は小さな花がたくさん咲いてとても綺麗です。また最近では色水を吸わせることで、色とりどりの鮮やかな着色が可能でとても人気だそうです。

カスミ草の新規就農者は3件という少ないデータなのですが、カスミ草経営全国平均(10件)と比較してみました。実は、この3件はすべて福島県の昭和村の新規参入農家です。

収入金額は840万円とまだ少ないですが、経費を少なくしてなんとか所得率31.6%という平均的な数値で頑張っています。

また、固定資産が少なく借入金も少ないです。これは何かしら周りからの、栽培技術支援や設備面での協力・支援があるのではないでしょうか。

カスミ草経営の比較
新規就農者
(経営体数:3)
全国平均
(経営体数:10)
平均年齢34.342.0
収入金額8,40610,933
 うち販売金額6,1128,126
 うち雑収入2,2912,805
経営費 計5,7507,211
世帯農業所得2,6563,557
世帯農業所得率31.6%32.5%
建物・構築物 資産額4471,528
農機具 資産額2,9323,409
借入金6931,916
収入金額対借入金率8.2%17.5%

※金額の単位は千円。

福島県昭和村のカスミ草経営の秘訣

2024年4月にソリマチと当研究所で、福島県昭和村の「JA会津よつば昭和かすみ草部会」さんにインタビューしてきました。昭和村のカスミ草は日本有数の産地で、カスミ草農家は4町村合わせて92戸で、なんと約3分の1が新規就農の生産者です。

この地域では高齢化問題に早期から取り組み、新規就農者を積極的に募集してきたそうです。空き家のリフォーム代を一部負担する、研修にも力を入れるなど、手厚いフォロー制度も備えています。

よって、先程の経営分析を見ても、栽培技術伝承により所得率が高く、施設等も先輩から借りるなどして、手厚い支援を受けている結果だと思われます。

新規就農者に対して、地域としての支援があれば人は集まってくるし、離農者も少なくなる、ということを具体的に証明している良い事例だと思います。ぜひ、このコラムの下にインタビュー記事のリンクを掲載しましたのでご覧ください。

まとめ

今回の分析で、新規就農花き経営が持続していくには、収入金額は1,000万円以上は必要であることがわかりました。また、新規就農者へは以下のような支援があれば離農は減ると思われます。

 ●経営開始資金の交付金支援
 ●地域の先輩経営者からの技術指導
 ●都道府県普及指導センター等からの経営指導
 ●地域行政からの生活支援

新規就農者は、経営が軌道に乗るまでの不安や、借入金返済の不安など、不安だらけです。
過保護過ぎない程度に、サポートを行っていきましょう。

関連リンク

農林水産省「令和5年新規就農者調査結果」
農林水産省「経営開始資金」
農業利益創造研究所「時代を超えて愛されるかすみ草を届ける「JA会津よつば昭和かすみ草部会」」

南石名誉教授のコメント

今回は、花き経営を対象に新規就農者の財務面の実態を明らかにしました。新規就農者が営農を継続していくためにはいろいろな条件があります。都市からの移住者であれば、田舎の生活や農作業の良さを実感して楽しいと思えるかといった心理的な要素も重要です。

満足いく生活に必要な所得額は世帯構成やライフスタイルによっても異なりますが、希望する所得が持続して得られなければ、営農継続は現実的には困難になります。今回の分析では、対象経営では、所得400万円以上を得るには収入金額が1,000万円以上必要であることも明らかにしました。

収入金額を増加させるには、栽培面積の拡大もありますが、販路拡大や販売商品の工夫などにより付加価値をつける方法もあります。数十年前に、花き経営に新規就農して栽培面積の規模拡大と共に、栽培した花きを使った贈答品等の商品開発も行い、数億円の売上に達している事例もあります。柔軟な発想でいろいろな挑戦を継続することが、どの分野でも経営の発展には重要であることを示しています。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。