
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
近年の物価高騰が家計に大きな負担となっていますが、特に食料品の値上がりは大変です。しかし、食料品は以前から天候の影響による収穫量の増減や、旬な時期かどうかにより価格が変動してきました。
農業経営では「売上=生産量×単価」ですから、収穫量だけでなく単価もコントロールできれば売上に大きく貢献します。
今回は、出荷時期を調整して高値で売ることができるブドウについて、ソリマチ農業簿記ユーザー261件のブドウ農家を分析してみたいと思います。
ブドウの月別販売金額
世界で生産されるぶどうの7割はワインの原料用ですが、日本ではそのまま食べる生食用が9割を占めているそうです。
ブドウといえば秋の食べ物ですが、スーパーではクリスマスやお正月、5月ころでも売られています。品種により収穫時期をずらしたり、促成栽培(時期を早める)や抑制栽培(時期を遅らせる)などの栽培方法を変えて出荷時期を調整しているのです。
ブドウをメインで経営している農業簿記ユーザーのデータから、世帯農業所得率((控除前農業所得+専従者給与)÷収入金額)が60%以上という高効率経営と、30~39%の低所得率経営の、月別販売金額をグラフにしました。
高所得率経営は、8月から10月に集中的に出荷しており、低所得率経営は5月から12月まで長期間出荷していることがわかります。
高所得率経営は販売金額1,400万円で世帯農業所得額は1,000万円、低所得率経営は販売金額1,300万円で所得470万円という差がありました。
出荷時期を広げる方が経営的に良くないのでしょうか?
販売金額を100とした費用比率を見てみると、低所得率経営は動力光熱費と減価償却費と雇人費が非常に高くなっています。
おそらく、収穫期間を広げるためにハウス加温栽培(設備投資と光熱費)を行い、長期間に渡って人を雇っている、ということが想像できます。
これらのデータを見る限り、長期間の収穫をすることで経費が多くかかって効率が下がっているので、むしろ露地栽培で旬な時期に集中的な収穫・出荷を行った方が良いと言えます。
地域別に差異はある?
それでは、出荷時期を調整する経営は儲からないのでしょうか? 地域別に分析してみましょう。
ブドウの都道府県別の収穫量は、1位が山梨県、2位長野県、3位岡山県だそうです。農業簿記ユーザーでブドウ農家件数が多かった山梨県と長野県、広島県、島根県の月別販売金額をグラフにしてみました。
山梨県の出荷時期は、秋に集中しており、出荷調整はあまり行っていないようです。(主な品種はデラウエア8月、巨峰9月、シャインマスカット9月、甲州10月)
長野県は明らかに出荷調整しており、冷蔵ブドウをお歳暮やクリスマス、お正月に出荷し、5月にはハウス加温栽培ブドウを出荷しています。(主な品種はクイーンルージュ・ナガノパープル10月、巨峰9~11月、シャインマスカット10月)
広島県は尾道市がデラウェアの産地とのことで、デラウェア収穫時期の6月に山があります
島根県も広島県と同じく6月に山があります。島根県もデラウエアが多く、ぶどうのハウス加温栽培面積は島根県出雲市が全国でトップクラスとのことです。
それぞれの県の経営概要を見てみると、長野県は経営規模が大きく、所得額も高いです。所得率では、出荷調整していない山梨県が一番高いですが、出荷調整している長野県も十分高い所得率です。
ハウス加温栽培が多い島根県は費用を調べたところ動力光熱費が高く(島根県は山梨県の2倍)なっていたので、その分所得率は低いのだと思われます。
| 都道府県(データ件数) | 収入金額 | 世帯農業所得 | 世帯農業所得率 |
|---|---|---|---|
| 山梨県(61件) | 14,826 | 7,537 | 50.8% |
| 長野県(26件) | 25,971 | 12,184 | 46.9% |
| 広島県(10件) | 13,259 | 5,676 | 42.8% |
| 島根県(23件) | 12,543 | 4,489 | 35.8% |
※金額の単位は千円。
長野県の農業王受賞者の経営
山梨県と長野県はそれぞれ特徴があることがわかりましたが、やはり出荷調整していても所得率が高い長野県のことをもう少し知りたいですね。
ソリマチと当研究所にて、優良経営に対して「農業王」という表彰を行っており、2024年受賞者の長野県中野市「武田和大さん」の経営がとてもユニークです。
武田さんの戦略は、ぶどうの最盛期の出荷をずらし、オフシーズンにあえて出荷をする、というものです。超加温栽培といわれる技術で5月から出荷を始め、店頭にぶどうがない時期なので高単価で売れるそうです。
それだけでなく、秋は家族や臨時のパートさんを総動員して一気に収穫し、すぐに冷蔵庫に保管し冬に出荷しています。これらの方法で高収益をあげており、世帯農業所得率は驚異の55%です。

武田さんの月別販売金額の比率は以下のようなグラフになりました。9月10月には出荷せず冬に出荷し、5月6月にも出荷しています。8月はお盆狙いですね。
このように高く売れる時期に合わせて、栽培方法と出荷調整を工夫しているのです。
このコラムの下の方に武田さんのインタビュー記事のリンクがありますので、ぜひご覧ください。
まとめ
結局、コストをかけて出荷時期を調整した場合と、しない場合と、どちらも高所得になりうるという結論でした。
このグラフは東京都中央卸売市場のブドウの月別単価です。やはり1月から5月の時期に単価が高くなっています。
光熱費や貯蔵費をかけても高く売るか、単価は高くないけどコストかけずに収穫時期に一気に出荷するか、そこを判断するのが経営の醍醐味です。
中途半端にせず、シンプルに自分の地域や理念に合わせて大胆に経営するのが良い方向に行くのではないかと思います。
関連リンク
父が確立した技術を受け継ぎ、仲間と共に産地を盛り上げたい【農業王2024:武田オフフォーカスファーム】
農業王 AGRIATION AWARD
東京都中央卸売市場
南石名誉教授のコメント
今回は、ブドウ経営の販売戦略と農業所得率の関係を分析し、多様な戦略が明らかになりました。東京中央卸売市場のブドウの単価は、全品種で4~5月が一番高値で取引されています。この時期に出荷できれば高価格が期待できますが、それにはハウス栽培等の経費が掛かります。
農業王受賞農家は、収穫したてのブドウを冷蔵庫に保存して、8月(お盆)や12~1月(年末年始)といった特別な需要が期待できる時期に焦点をあてた販売戦略により、世帯農業所得率55%を実現しています。
山梨県のブドウ農家は、ハウス栽培や冷蔵庫保存の経費をかけず、8~9月に出荷することで世帯農業所得率50%以上を実現しています。これらの事例は、農業所得率を高める戦略は多様であることを示しています。経営環境、技術水準、経営方針によって、優れた戦略は様々なのです。

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