農業利益創造研究所

作目

2024年の果樹経営と花き経営の概況をベクトルで見る。

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2024年の果樹経営と花き経営の主要品目ごとの経営概要を見てみます。果樹と花きは品目が少ないので、今回は同時に扱ってみます(果樹9品目、花き5品目)。

以下の通り、果樹経営や花き経営も2024年はデータ件数が増加しました。元の数が多いこともありますが、カンキツ類経営とブドウ経営の数が大きく増加しています。またキウイは6倍以上の件数が増加していますが、このほとんどが2024年に大きく増加した福岡県のものです。

2023年2024年
カンキツ類518781263
ブドウ447723276
リンゴ34941869
日本ナシ238347109
12915930
567418
サクランボ4337-6
34439
キウイ106757
キク678821
リンドウ183113
バラ28280
トルコキキョウ24251
ユリ2420-4
果樹経営合計1,9472,819872
花き経営合計556807251

経営ベクトル

以下は、果樹経営と花き経営の主要品目別の経営ベクトル図です。縦軸が世帯農業所得率(効率)、横軸が収入金額合計(規模)となります。

果樹平均は右上、花き平均は左上に動いていますのでどちらも所得率は増加していますが、花き経営を品目ごとに見るとバラ経営以外の品目は所得率が低下しています。

梅経営は2024年の収穫量が過去最低だったようで、前年比で46%もの収穫量減とのことでした(農林水産省発表)。しかし経営は所得率が大幅に上昇し、世帯農業所得額も76万円ほど増加しています。概して「不作の年は、農家は儲かる」もので、梅と同様に過去最低の収穫量だったサクランボ経営もベクトルが僅かですが右上に伸びています。不作になると単価が上がるので、収益はそれほど減少しない一方で(サクランボ経営は若干増加している)、生産量や出荷量が減少する分だけ資材費がかからなくなり、結果的に所得が上がるのです。

ユリとバラは単価が高いからか各経営体の収益規模は大きいようですが、所得率は低くなっています。つまり“薄利多売”的な経営構造といえ、作物の持つイメージとは少し違った感じがします。

日本ナシ経営、桃経営、カンキツ類経営、柿経営はほとんど動きがありません。猛暑により不作になった作物が目立った2024年ですが、経営的にはこれらの果樹経営体はほとんど影響を受けなかったように見えます。

変動係数

所得率と収入金額合計の品目ごとの変動係数は以下の通りです。変動係数とは、母集団(ここでは作物品目)の値のバラツキを表しているものです。たとえば同じ平均値の品目でも変動係数が大きい品目は、経営体の上下の差が大きいということになります。

果樹経営平均はほぼ真下に向いているので所得率の格差が縮まったと言え、花き経営平均は左に大きく動いているので収入規模の格差が縮小したと言えます。いずれにしても花き経営は果樹経営よりも右上にあるので、経営規模と効率ともに経営体ごとの差が大きいということになります。

トルコキキョウ経営とリンドウ経営は左下に大きく動いているので、経営体ごとの格差が大きく縮まりました。しかしもともとサンプル経営体数が多くないので、少数の経営体の変化に全体が大きく影響を受けてしまっていると思われます。

ブドウ経営、日本ナシ経営、桃経営は所得率が高く変動係数は低めです。つまり全体的に高所得率の経営体で占められていることになります。経営実態としても“粒ぞろい“と言えるでしょう。

大きく所得率を上げた梅経営は、変動係数が右下に向いているので、低い所得率の経営体が上がったと思われますが、収益規模に関しては大きいところはより大きく、小さいところはより小さくなり格差が広まったと思われます。

複合経営体の状況

最後に、複合経営の状況を表した図を見てみます。縦軸が第一主幹比率(第一主幹品目の販売金額÷収入金額合計×100)で、横軸が青色決算書の2ページ目の収入金額の内訳に記載された品目数です。これを縦横の平均値で区分して、作付け形態を判定してみました。

野菜経営は「少品目集中型」に区分される経営体が多かったですが、果樹はカンキツ類経営とリンゴ経営、花きはバラ経営とキク経営だけが「少品目集中型」に区分されています。これは、これらの品目経営の第一主品目への集中が非常に高いため、区分(平均値)自体が高く引き上げられ、結果的に他の品目が「少品目集中型」に区分されなくなったのだと思われます(野菜経営の平均値は縦64.1%、横3.0)。

サクランボ経営は「多品目分散型」の傾向が非常に強いようです。サクランボは高価な果物というイメージがありますが、2024年の世帯農業所得額は5,138千円で果樹経営平均を下回ります。2024年は不作だったこともありますが、もともと「サクランボだけではやっていけない」のでしょう。サクランボ経営の第二品目としては桃が最も多く、その少し下にリンゴ、ブドウと続きます。概して果樹経営は収穫期間が限定される品目が多いので、品目分散の傾向が強いのだと思います。

これに対して「少品目集中型」に区分されるカンキツ類経営やリンゴ経営も所得率がそれほど高い品目ではありませんが、収穫期間が長く、また品種も多いことから作業期間の分散ができるため「品目を絞ってもやっていける」のかもしれません。

サクランボと同様に2024年に収穫量が大きく減った梅経営は、サクランボとは逆に「少品目集中型」の方向に動いているのは興味深いところです。不作により単価が上昇して、梅のウェイトが高まったと思われます。

以上、2024年の果樹経営と花き経営の概要を見てきました。野菜経営と比べると件数も少ないためやや大味な分析にはなりましたが、それでも果樹経営は洗練された“堅い経営体”が多く、花き経営は様々な経営体が混在する“発展中”の分野という感じがします。

これからの経営環境の変化で各品目分野がどのように変化していくか、今後も注目していきたいところです。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、果樹経営と花き経営の所得概要を明らかにしました。品目別の収入金額合計と農業所得率の関係をみると、最初は、収入金額が増加すると1,300万円前後までが所得率が増加しますが、1,800万円を超えてさらに収入金額が増加すると所得率が低下しているようにみえます。

こうした傾向は、品目固有の特性の結果なのか、多くの品目に共通する傾向なのかは、今回の分析ではわかりませんが、興味深い点です。仮に、こうした傾向が、個々の品目でもみられるのであれば、所得率が最大になる適正な収入金額(規模)があるとも言えます。

仮に、個々の品目では、こうした傾向がみられない場合には、品目固有の特性の結果であり、樹種や品種、生産方式や栽培技術などの特性を反映した傾向といえます。収入金額と品目特性の両方の影響を受けている可能性もあり、興味はつきません。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所