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作目

2024年の畜産経営は 物価高騰の厳しい時期を乗り越えることができたのか?

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農畜産業振興機構によると、2024年の牛肉の国内消費量は前年比1.5%減の86万トンであり、5年連続で減ったとのことです。しかし、牛乳は2022年・2023年と生産量が落ち込みましたが、2024年から増加に転じています。

酪農や肉用牛経営は、近年の物価高騰により飼料費が非常に高くなり、不安定な消費とコスト高で非常に厳しい経営となっていました。2024年の畜産経営はこの厳しい時期を乗り越えることができたのか、畜産の農業簿記ユーザー(酪農334件、肉用牛389件)のデータを分析してみましょう。

酪農経営の推移

酪農は、販売金額の約半分が飼料費であり、飼料費の変動が農業所得に大きな影響を与えます。下のグラフは、2020年の飼料価格を100とした飼料価格指数の推移であり、2021年から上昇し、2022年と2023年は1.4倍にも上がりました。それにともない、農業簿記ユーザーの酪農家334件の中の赤字農家(控除前農業所得がマイナス)の割合が2022年に激増(30.6%)しました。

しかし、2024年には飼料価格が下がって赤字酪農家が少なくなり、経営が落ち着いてきたように見えます。

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実際に、この3年間の推移を数字で見てみましょう。

収入金額は徐々に増加し、飼料費は2023年に最高に達しましたが2024年には下がり、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)が784万円に増えました。飼料費が減ったということは、輸入配合飼料を控えて、牧草などの自給飼料を増やした酪農家が増加したのだと思われます。

また、2023年には収入金額に対する雑収入(交付金など)の割合が14%に対して、2024年は10.9%にまで下がりました。

飼料価格が高騰した際に農林水産省は、飼料価格高騰緊急対策として畜産農家に補塡金を交付していたのですが、2024年には交付を受ける酪農家が減ったということです。これらの数字を見る限り、日本の酪農家は厳しい状況を乗り越えた、と言えます。

2022年2023年2024年
収入金額70,18874,16775,026
うち販売金額59,67862,98366,082
うち雑収入9,66910,3938,145
収入金額対雑収入率13.8%14.0%10.9%
経営費 計64,94767,22667,183
うち飼料費32,61533,35032,431
世帯農業所得5,2416,9407,843
世帯農業所得率7.5%9.4%10.5%

※金額の単位は千円

肉用牛経営の推移

次に、肉用牛の赤字経営の推移はどうだったのでしょう。

グラフを見てわかるように、2023年には全体の42%が赤字という驚異的な状況となりました。酪農経営は、飼料価格が最高に高かった2023年には赤字経営が減少傾向にあったのに、肉用牛経営はそうなりませんでした。

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肉用牛経営には、肥育経営と繁殖経営、そしてその2つとも行っている経営と3通りの経営があります。繁殖して子牛を販売している経営にとっては、子牛の販売価格が大事ですが、下のグラフでわかるように2023年には子牛の平均売買価格が激減しています。

よって、肉用牛は飼料価格の高騰と子牛価格の下落のダブルパンチを受けたということです。

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実際の数字で見てみましょう。

販売金額は2022年と比べると8割に落ち込みました。飼料費も下がっています。つまり肉用牛農家は、売上が上がらず経費が上がっている中で、あえて経営規模を縮小し耐える経営を行っていた、と言えます。

その結果なのかどうか明確ではありませんが、2023年に最高に落ち込んだ所得は2024年に少し上がり始めてきました。

まだ厳しい状況であることに変わりありませんが、でも日本の肉用牛農家は厳しい状況を乗り越えつつある、と言えます。実際に、2025年の2月現在は、和子牛価格が回復傾向(前月比6.7%高)にある状況です。

2022年2023年2024年
収入金額38,91833,54833,170
 うち販売金額32,62326,83326,484
 うち雑収入6,1076,5386,511
収入金額対雑収入率15.7%19.5%19.6%
経営費35,19331,35730,175
 うち飼料費13,23611,81110,950
世帯農業所得3,7252,1912,995
世帯農業所得率9.6%6.5%9.0%

※金額の単位は千円

まとめ

以上のことから、酪農・肉用牛経営ともに厳しい時期を乗り越えることができたのではないかと思われます。

しかし、世の中の物価が上がっている中で牛肉の消費が減ったり、猛暑のため生乳の生産が減ったり、と安心はできません。日本人にとってお米と同じように牛乳とお肉は無くてはならないものです。畜産農家さんを応援していきましょう。

関連リンク

農林水産省「農業物価指数
農林水産省「肉用子牛の平均売買価格

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、ここ数年の畜産経営の収支動向を明らかにしました。赤字経営の割合は、酪農経営では2021年10.5%でしたが、2022年には30.6%に達しました。2023年には18.5%、2024年には14.1%まで低下していますが、2021年の水準には戻っていません。

肉用牛経営では、2021年に14.4%であった赤字経営の割合は、2022年には30.0%に増加し、2023年には42.0%に達しました。2024年には37.3%に多少低下しましたが、依然として高い水準といえます。

酪農経営は一時の危機的状況を脱したと言えますが、肉用牛経営は改善傾向はみられるものの依然として予断を許さない状況のようです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。