農業利益創造研究所

作目

農業簿記データからイチゴ経営の経営指標を作成する

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

前回のコラムでは「農業簿記データから稲作経営の経営指標を作成する」として、農業簿記データから、稲作経営の経営指標を作成しました。ただこの稲作経営の指標については農水省も毎年作成しているため、農業簿記データから作る指標との違いを確認するといった意味合いが強くなります。しかし野菜と果樹の経営指標については、農水省からは平成19年(2007年)以降作られていません(品目別経営統計)。現在それらの作成は、主に各県の普及センターが担っているようですが、何の品目をどの頻度で作るかは普及センターごとに異なり、どこも人手不足からかこれらの指標づくりに充分手が回っていないようです。

ですから県や作物によっては、農家は自分の作っている作物の最新の経営指標が手に入りにくいという状況にあります。そうなると我々が簿記データから経営指標を作るのは、稲作以上に必要なことではないかと考えました。

ということで今回は野菜のうち、もっとも単作経営が多かったイチゴの経営指標を作ってみます。作成手法は前回の稲作同様に、イチゴの主幹比率100%(イチゴ販売高÷販売高=100)の農家の経営データから作成します。イチゴ以外の作物は作っていない経営体ですから、決算書上の費用は全ていちご生産のために使われたと考えられます。

販売金額100万円当たりの生産費

以下は2023年と2024年の販売金額100万円当たりのイチゴ生産費です。荷造運賃手数料が163千円と最も大きく、また前年より38千円と大きく増加しています。このことから2024年の原価(率)も3ポイント増加することとなりました。この変化は今年イチゴの経営体が146件も増加したことの影響と思われます。というのは146件のうち114件は福岡県の増加であり、後述しますがこの福岡県のイチゴ単作経営体は荷造運賃手数料が多く原価率も高いのです。このことが全体の荷造運賃手数料と原価率の増加という形に表れました。

荷造運賃手数料に次いで大きな費用は、諸材料費93千円、動力光熱費86千円、減価償却費84千円、雇人費78千円となります。

2023年2024年
件数202348146
販売金額1,0001,0000
租税公課22232
種苗費108-2
肥料費35383
農薬・衛生費3230-2
諸材料費87937
動力光熱費81865
減価償却費9284-8
荷造運賃手数料12516338
雇人費8578-7
地代賃借料1914-5
土地改良費11-0
生産費合計58861730
原価率58.8%61.7%3.0%

※金額の単位は千円

10a当たりの経営指標

次に10a当たりの経営指標ですが、まず指標の元となった農業簿記ユーザーの作付面積を確認します。算出に当たっては、農水省が発表している全国の中央卸売市場の平均価格と全国の平均反収を使いました。2024年のイチゴ単作経営の平均作付面積は31aで、前年と大きな変化はありません。

2023年2024年
耕作面積3.143.10-0.04

※単位:10a

2023年2024年
中央卸売市場平均単価1,5261,614

※1.単位:円/kg
※2.青果物卸売市場調査報告(農水省)

2023年2024年
出荷量(反収)3,3853,094

※1.単位:kg/10a
※2.作況調査(農水省)

ここから10a当たりの販売金額と生産費を算出したのが以下の表です。生産費の構成や動きは販売金額100万円当たりの費用と同じとなります。どちらか使いやすいか(見やすいか)方を参考にしてもらえればよいと思います。

2023年2024年
販売金額5,1654,993-172
租税公課1111154
種苗費5341-12
肥料費1811886
農薬・衛生費163147-16
諸材料費44946718
動力光熱費41642812
減価償却費475417-57
荷造運賃手数料645812167
雇人費439391-47
地代賃借料9771-26
土地改良費75-2
生産費合計3,0363,08347
原価率58.8%61.7%3.0%

※金額の単位は千円

主要イチゴ産地ごとの10a当たりの経営指標

次は、イチゴの主要産地でかつ農業簿記データが一定数ある3県の指標を作りました。各県の2024年のイチゴ単作経営の簿記データをもとに、県ごとの平均反収データを使って算出しました(平均価格は前掲の中央卸売市場と同じです)。

各県の簿記データから推定されるイチゴ単作経営体の平均耕作面積は、愛知県が一番大きく31.5aで意外にも栃木県や福岡県は全国平均以下の面積となっています。

栃木福岡愛知
耕作面積(10a)2.422.693.15

※単位:10a

栃木福岡愛知
出荷量(反収)4,7633,3094,103

※1.単位:10a
※2.2024年作況調査(農水省)

続いて10a当たりの経営指標です。

イチゴの最大の最大産地である栃木県が、販売金額は7,687千円と最も高く、原価率は58.9%と最も低くなりました。栃木県の主力品種は“とちおとめ”から“とちあいか”に代わりましたが、依然最大産地にふさわしい経営状況にあるといえます。

福岡県は最も原価率が最も高くなりました。特に荷造運賃手数料が大きいのが特徴的です。これは東京や大阪という大市場から遠いゆえに運賃が多くかかることの影響が表れているように見えます。また雇人費や地代賃借料が少ないことから、パッケージセンターを利用する農家が多く、その利用料を賃借料ではなく荷造運賃手数料に計上していることなども考えられます。そして件数126件と最も多いことから、全体の傾向にもこの福岡県の傾向が強く反映されることになっています。

ちなみに愛知県の主力品種は、とちおとめ、章姫、紅ほっぺ、ゆめのかの4種だそうです。皆さんの経営品種に近い県の指標を参考にしてみてはいかがでしょうか。

栃木福岡愛知
件数5612629
販売金額7,6875,3416,623
租税公課151148180
種苗費491433
肥料費329220204
農薬・衛生費265137238
諸材料費885550445
動力光熱費415494666
減価償却費689333690
荷造運賃手数料8711,155977
雇人費706273479
地代賃借料1615484
土地改良費10114
生産費合計4,5313,3794,010
原価率58.9%63.3%60.5%

※金額の単位は千円

国の経営指標との比較

最後に、農水省が平成19年に作成したイチゴ10a当たりの経営指標と、前掲した2024年の経営指標と比較して見ます。

まず、18年前の農水省の指標の元となった平均耕作面積は24.7aで、2024年の農業簿記データの方が6.3aも大きくなりました。

農業簿記データ農水省作成
3.102.470.63

10a当たりの指標を比較しても販売金額(農業収入)は1,407千円、生産費合計も1,664千円簿記データの方が大きくなっています。そして原価率も22.2ポイント大きくなっています。これは基礎データの違いもあるでしょうが、この18年でのイチゴ農家の変化も表れているようにも見えます。つまり農家の経営規模は大きくなり、生産性も高まったものの物価水準の変化などからかコストも高まり、結果的に経営は厳しくなったということです。

以上、18年前の農水省の指標と2024年の全国348件の農業簿記データから作った指標とで大きな違いが出ました。実際のイチゴ農家の方々の経営はどの値に近いでしょうか。ぜひ比較して見てください。

農業簿記データ農水省作成
(品目別経営統計)
農業簿記データ農水省作成
販売金額農業収入4,9933,5861,407
租税公課物件税及び公課諸負担1156748
種苗費種苗・苗木412714
肥料費肥料18814147
農薬・衛生費農業薬剤14711829
諸材料費諸材料467115352
動力光熱費光熱動力428281147
減価償却費減価償却417280137
荷造運賃手数料包装荷造・運搬等料金812208604
雇人費雇用労賃391119272
地代賃借料賃借料・支払小作料715714
土地改良費土地改良及び水利費56-1
生産費合計合計3,0831,4191,664
原価率原価率61.7%39.6%22.2%

※金額の単位は千円

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、主要イチゴ産地の農家経営指標が明らかになりました。耕作面積は、愛知が最も多く、福岡、栃木が続いています。面積あたりの出荷量(単収)、販売金額、生産の原価は、何れも栃木が最も高く、愛知、福岡が続いています。

生産の原価率は、栃木が最も低く、愛知、福岡の順に高くなっています。栃木のイチゴ農家は、大市場の首都圏に近い立地条件も活かして、主要産地の中では相対的に高付加価値経営になっているようです。

ただし、イチゴ農家では、ブランドの階層性が確立されているお茶などとは異なり、主要産地の高付加価値化と生産販売規模拡大の傾向は明瞭とはいえないようです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所