農業利益創造研究所

農業経営

農業簿記データから稲作経営の経営指標を作成する

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

行政が作成している経営指標に、品目別の経営費があります。この経営指標は多くの農業関係者に活用されていますが、一部で実態に合っていないとの声もあります。しかし、毎年全国のより多くの経営体の実データから指標が作成できたら、担い手農家の経営実態により近いものがつくれるのではないかと思いました。ということで今回は、農業簿記のデータを使って、稲作の経営指標づくりに挑戦してみようと思います。

経営指標は、主食用米だけを作っている個人経営体(主幹比率100%)の農業簿記データをベースに、農水省が発表している60㎏(一俵)当りの米価や、反収(10アール当たりの収穫量)の基準値を使って導きました。

主食米専業の生産費の実額

まずは、主食米だけを作っている生産費等の実額です。主幹比率(主食米販売金額÷販売金額合計)が米100%の経営体なので、普通作経営であっても麦や大豆などにかかる費用は一切含まれず、純粋に稲作だけにかかった費用のみとなります。

2024年の農業簿記ユーザーの普通作経営の平均販売金額は18,713千円ですから、主食米だけを作っている経営体は規模が小さめと言えます。それでも米価高騰の影響で35.4ポイント販売金額が増加しました。生産費の大きな動きとしては、肥料費が前年15.6ポイント低下していることがあげられます。これは2023年に高騰した分の値戻しなのかもしれません。

2023年2024年前年比
件数648971149.8%
販売金額8,64511,709135.4%
租税公課340343101.0%
種苗費28927595.0%
肥料費1,1721,01286.4%
農薬・衛生費845846100.2%
諸材料費304308101.3%
動力光熱費69965994.3%
減価償却費1,9251,91499.4%
雇人費293295100.6%
地代賃借料881920104.4%
土地改良費26325596.7%

※金額の単位は千円。

販売金額100万円当たりの生産費

以下は前掲の実額をもとに、販売金額100万円当たりの生産費を示したものです。様々な経営規模の経営体と生産費の金額を比較するには、こちらの方が使いやすいでしょう。

2024年は販売金額が大きく上がった年ですから、相対的に生産費は大きく低下しています。

2023年2024年前年比
販売金額1,0001,000100.0%
租税公課392974.6%
種苗費332370.2%
肥料費1368663.8%
農薬・衛生費987274.0%
諸材料費352674.8%
動力光熱費815669.6%
減価償却費22316373.4%
雇人費342574.2%
地代賃借料1027977.1%
土地改良費302271.4%

※金額の単位は千円。

米60㎏当りの生産費

次は、米60㎏(1俵)当りの生産費で、単位は円です。これは前掲の実数に、農水省の作成している「米の相対取引価格・数量」の全国の平均単価を計算に含めた推定値です。

これによると、2024年は平均472俵の収量となり、前年より16.3ポイントも減少しています。2024年の米価高騰の大きな要因は、米の絶対量の不足だとのことですが、ここからも収穫量が大きく減ったことが確認できます。

各生産費は、前項のデータと異なり軒並み上昇しています。こちらの指標は米価の影響を受けない値なので、資材費の純粋な増減を表します。つまり、米価は前年より30~40%上がったが、その裏では各資材費も10~20%ほど上がっているということです。中でも地代賃借料の上昇が最も大きくなっていますが、これは米価の高騰に伴い、地代やJAの施設利用料などが上がったからかもしれません。

2023年2024年前年比
収量(俵)56447283.7%
租税公課602727120.7%
種苗費512582113.6%
肥料費2,0762,142103.2%
農薬・衛生費1,4961,792119.8%
諸材料費539653121.1%
動力光熱費1,2391,396112.7%
減価償却費3,4104,052118.8%
雇人費519624120.2%
地代賃借料1,5611,948124.8%
土地改良費467539115.6%

※金額の単位は円。

(玄米60㎏当り) 単価(円)
2023年産米15,315
2024年産米(R7年7月まで)24,790

※「米の相対取引価格・数量」(農水省)。

反(10a)当りの生産費

次は、1反(10a)当りの生産費です。これも単位は円です。これは、農水省が発表している10a当たりの米の平均収量(反収)を参考に算出しました。この面積当たりの指標が、各地の普及センターなどが公表している経営指標に最も近い形式だと思います。

これによると、2024年の主食米専業の農業簿記ユーザーの平均耕作面積は、5.3町歩(ha)ということですが、前年の6.3町歩から1町歩も減っています。農水省の発表では反収に大きな変化はないようなので、前項の収量の減少は生産面積の減少と類推されます。

費用の構成と前年比は前掲の60㎏当りの生産費と大きな違いはないと思われます。いずれかの使いやすい指標を参考にしてもらえればと思います。

2023年2024年前年比
面積(反)635383.5%
租税公課5,3786,504120.9%
種苗費4,5785,208113.8%
肥料費18,54219,171103.4%
農薬・衛生費13,36716,037120.0%
諸材料費4,8165,844121.3%
動力光熱費11,06512,494112.9%
減価償却費30,46336,268119.1%
雇人費4,6405,586120.4%
地代賃借料13,94017,432125.0%
土地改良費4,1684,827115.8%

※金額の単位は円。

反収(㎏)反収(俵)
2023年5368.9
2024年5379.0

※「水稲の10a当たり平年収量」(農水省)

農水省の指標との比較

最後に、前掲の農業簿記データからの指標と、農水省が発表した指標を比較します。比較年は2023年(R5年)です(R6年は現時点で未発表)。

俵(60㎏)当りの生産費、および反(10a)当りの生産費は、共に農業簿記データの方が大きくなりました。この違いは、何を費用に含めるかについての基準の違いだと思われますが、調査対象の経営規模の違いも要因に挙げられると思います。というのは、農水省の指標は平均作付面積が1.8町歩(ha)なのに対して農業簿記ユーザーの平均は6.3町歩で、農水省の指標が対象とした経営体は経営規模がかなり小さいのです。3倍以上の規模の違いがあると、やはり同じ作物でも経営の質は変わってくるでしょう。

何れにしても、稲作経営者の方は使いやすい方(自己の経営値に近い方)の指標を参考に、自己の経営を見直してくれれば幸いです。

今後、規模ごとや地域ごとの指標なども検討してみたいと思います。

R5年 米1俵(60㎏)当りの生産費
農業簿記指標農水省指標農業簿記指標農水省指標
租税公課物件税及び公課諸負担602234368257%
種苗費種苗費51248626105%
肥料費肥料費2,0761,507569138%
農薬・衛生費農業薬剤費(購入)1,496967529155%
諸材料費その他の諸材料費539246293219%
動力光熱費光熱動力費1,239690549180%
減価償却費償却費3,4102,606804131%
雇人費雇用労働費519345174151%
地代賃借料賃借料及び料金1,5611,394167112%
土地改良費土地改良及び水利費467484-1796%

※金額の単位は円。

R5年 1反(10a)当りの生産費
農業簿記指標農水省指標農業簿記指標農水省指標
租税公課物件税及び公課諸負担5,3781,9493,429276%
種苗費種苗費4,5784,050528113%
肥料費肥料費18,54212,5645,978148%
農薬・衛生費農業薬剤費(購入)13,3678,0515,316166%
諸材料費その他の諸材料費4,8162,0582,758234%
動力光熱費光熱動力費11,0655,7435,322193%
減価償却費償却費30,46321,7018,762140%
雇人費雇用労働費4,6402,8761,764161%
地代賃借料賃借料及び料金13,94011,6062,334120%
土地改良費土地改良及び水利費4,1684,029139103%

※金額の単位は円。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所