
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農業経営は、作付けしている品目ごとに経営の特徴は大きく変わります。しかし実際には、複数の品目を作付けする複合経営が多く存在します。では、単作の場合と複合の場合では、経営結果はどう違うのでしょうか。今回は野菜の単作経営と複合経営の違いを考えます。
単作の経営体数の割合
まず野菜農家の単作経営体の割合を確認します。以下の図は、2024年の農業簿記データのうち、第一主幹品目ごとの野菜経営体(件数上位20品目)の、単作と準単作の経営体数の割合を示したものです。
「単作」とは、第一主幹品目の販売金額が、全体の販売金額の100%の経営体で、「準単作」は80%以上100%未満の経営体を指します。「(準)単作割合」とは「(準)単作経営体数÷各品目経営体総数×100」です。
これによると、単作割合が最大でもニラ経営とイチゴ経営の39%です。つまり一般的には単作の方が多いイメージがありますが、実態は逆で、ほとんどの野菜経営は複合経営ということです。ただし、準単作を加えると、イチゴ経営は82%となり、ニラ経営、ナス経営、トマト経営は70%を超えます。これらの品目は、純粋な単作経営は多くないものの、主幹品目への集中度が高い経営体が多いということになります。
逆に、ジャガイモ経営は、準単作含めても7%(単作1%)の経営体しかなく、ほとんどの経営体は複合経営ということです。次いで、ニンジン経営19%(単作4%)、メロン経営23%(単作5%)、レタス経営25%(単作4%)なども、複合経営の傾向が強い経営体が多くなっています。単作割合だけに限定すると、スイカ経営(7%)、タマネギ経営(8%)、ブロッコリー経営(6%)なども低い割合になっています。これら複合経営体が多い品目は、メロンを除くと全て露地品目です。この理由は、露地野菜は作業の季節変動が品目によって大きく異なることや、天候リスクなどを受けやすいことなどから、複合化しなければ成立しにくいものが多いからと考えられます。
単作と複合の経営結果の違い
では、単作経営と複合経営では、経営内容はどのような違いが生じるのでしょうか。以下の表は、品目ごとの単作経営と、単作経営を除いた複合経営の所得金額の中央値を比較したものです。対象品目は単作経営の数が一定数以上ある12品目に限定しました。
これによると、ニラ、ピーマン、ホウレン草の品目では単作経営の方が高い所得金額(+100万円以上)を確保しています。一方で、タマネギ、トマト、アスパラガス、イチゴ、ミニトマトなどでは、複合経営の方が所得金額が高い結果が確認されました。このように、単作と複合との所得金額大小は、品目によって異なるようです。
| 作目 | 単作経営 所得額 | 非単作経営 所得額 | 差額 |
|---|---|---|---|
| アスパラガス | 1,498 | 2,706 | -1,208 |
| イチゴ | 4,431 | 5,506 | -1,075 |
| キュウリ | 4,262 | 4,583 | -320 |
| サツマイモ | 5,592 | 5,374 | 218 |
| タマネギ | 15,261 | 16,653 | -1,393 |
| トマト | 3,982 | 5,279 | -1,297 |
| ナス | 3,606 | 3,659 | -53 |
| ニラ | 6,213 | 4,886 | 1,328 |
| ネギ | 3,017 | 3,317 | -299 |
| ピーマン | 5,433 | 3,955 | 1,478 |
| ホウレン草 | 4,424 | 3,137 | 1,287 |
| ミニトマト | 2,942 | 4,006 | -1,064 |
※金額の単位は千円。
次に以下の図から、品目ごとの収入金額合計(規模)と所得率(効率)を見てみます。「*」が単作経営の中央値で「●」が複合経営の中央値を示しており、線が長いほど単作と複合とで、規模や効率が大きく異なることになります。そしてその下の表は、これらの図表の結果をまとめたものになります。

| 単作の所得率が高い | 単作の所得率が小さい | |
|---|---|---|
| 単作の規模が大きい | ニラ ピーマン ホウレン草 |
|
| 単作の規模が小さい | サツマイモ |
| 複合の所得率が高い | 複合の所得率が小さい | |
|---|---|---|
| 複合の規模が大きい | アスパラガス ミニトマト キュウリ | イチゴ タマネギ トマト ナス ネギ |
| 複合の規模が小さい |
※太字は単作と複合との差が大きい品目
これを見ると、たとえばタマネギ、アスパラガス、ピーマン、ホウレン草は、線が長く、単作と複合の経営結果の違いが大きいことがわかります。その結果、所得金額も大きく変わるので、この4品目では単作か複合かの選択が、経営結果に大きく影響すると思われます。
逆に、ナス、キュウリは、線が短く、収入金額合計と所得率そして所得金額に、単作と複合の大きな差が確認できません。
単作で高所得の品目に共通するのは、単一品目で経営が完結する特徴を持っている点です。例えばニラは多年草であり、刈り取り後に再生するため長期間にわたって収穫が可能です。ピーマンも長期どりが可能であり、ホウレン草は短期回転で収益を積み上げることができます。これらはいずれも、単一品目に集中することで労働投入や技術が収益に直結しやすく、「専作による最適化」が成立する作物と言えます。
これに対して、複合経営で所得が高くなる品目は、単作では経営が不安定になりやすい特徴を持ちます。たとえばタマネギなどは、収穫期が限られているためこのような品目を単作とした場合、年間の労働配分に偏りという課題を残します。アスパラガスは
、収入が特定の時期に偏在しやすく、その時の価格水準に売上が大きく左右されます。この結果、これらの品目では複合化によって作期を分散して労働を平準化し、収入の変動を抑える必要が生じます。つまり、複合経営は積極的な高度化戦略というよりも、単作では解消できない制約への対応として、複合経営が選択されている側面が強いと思われます。
一般的に、単作は効率が良く、複合は長期的な安定と収益拡大が特徴のように言われていますが、実態はもっと複雑で、品目ごとに単作・複合のメリット・デメリットは大きく違うようです。
以上のように、野菜経営における単作と複合の選択は、単なる経営者の志向や技術の問題ではなく、作物ごとの生産特性に強く規定されています。したがって、単作でいくか複合化を進めるかは、各品目の経営上の特性を理解したうえで、総合的な視点で判断する必要があるということでしょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、野菜経営を対象に、収入金額や農業所得率の面から単作経営と複合経営の違いを明らかにしました。その結果、アスパラガス、ピーマン、ホウレン草などは単作と複合の違いが大きい傾向がみられました。
アスパラガスは複合経営の方が農業所得も農業所得率も高く、ピーマンとホウレン草は単作経営の方が農業所得も農業所得率も高いことが明らかになりました。
単作経営と複合経営の選択は、古くから農業経営者の主要な関心事の一つです。一般的には、同じ機械や施設が利用できて、栽培期間が異なる作物を組み合わせることで、複合経営では生産コストの低減、労働ピークの解消、収入変動リスクの低減などの効果が期待できます。
こうした効果よりも、単作経営による生産技術の向上、規模拡大による生産コストの低減や販売価格の向上の効果が期待できる場合には、単作経営が有利になります。単作経営でも、その作物の異なる品種、栽培期間、栽培方法を組み合わせて、複合経営的な効果を取り入れる工夫をすることも、重要になります。

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